一方その頃──。
ハルは薄暗い森の中で足を止めていた。
迷子になったことに気付き、辺りを見回す。無数の木々が彼女の視界を遮り、風が葉を揺らす音が、静寂の中に不気味な存在感を放っている。
どこからか感じる何者かの気配。
それは言葉では表現しきれない、重く冷たいものだった。
胸の奥から湧き出る本能的な恐怖に突き動かされ、ハルは思わず駆け出した。
足音が湿った地面を蹴り上げ、呼吸が荒くなる。
しかし、それは後ろから近づいてきた。
鋭い視線を感じた瞬間、それはすでにハルを追い越し、回り込んで立ちふさがっていた。
逃げ道がない。
「なあ、お前は……誰だ?」
低く響く声が耳を貫き、ハルの足がすくんだ。
その問いかけに込められた何か得体の知れないものが、彼女の心をさらに不安で染め上げていく。