一方その頃──ハルの暮らしていた世界。
てろめ屋の裏口に、宅急便の二トントラックがゆっくりと止まった。
エンジン音が沈黙すると、宅配業者が次々とダンボールを運び込み始める。
心地よい初春の風が、店の裏口からそっと店内に入り込んでいた。
聡子は、一息ついてから重ねられたダンボールを背負い、奥の保管スペースへと運び込む。
エプロンの腰紐を結び直しながら、何度も行き来している姿はまるでてろめ屋の心臓を動かしているかのようだ。
「聡子主任?手伝いますよ」
柔らかな声が聡子の耳に届く。
振り返ると、アキと別人格のハルがそこに立っていた。
それぞれが無言の意思で、聡子の手伝いに加わる。
「聡子主任?」
アキがダンボールを抱えながら問いかける。
「これって、何ですか?」
少し驚いた表情を見せる聡子だったが、すぐに優しい微笑みで答えた。
「それは新商品よ。今度みんなでディスプレイを考えてみましょうね」
店の奥には、日常と非日常が不思議なバランスで織り交ざる光景が広がっていた。