赤黒く染まった夕焼けが、空全体を覆い尽くしていた。
足元の大地は脈打つように揺れ、立っているのがやっとだ。
「ふざけるな……! これがペルム紀の終わりだっていうのか!」
蓮姫は荒い息をつきながら叫んだ。
まさか、天変地異の渦中に放り込まれるなんて――。
轟音が天地を切り裂き、黒い亀裂が無限に広がる。
その深淵から煮えたぎるマグマが牙を剥き出し、咆哮するように噴き上がった。
灼熱の風が肌を焦がし、周囲の草木は瞬く間に黒い灰へと姿を変える。
「あちっ!」
蓮姫の尻に火がついた。彼女は慌てて飛び上がり、パタパタと手で払う。
不死の呪いのおかげで致命傷にはならないが、熱さは容赦なく襲い来る。
(ったく、とんだ災難だ……)
今、足元の世界を激しく揺るがす、この圧倒的な力。噴き出すマグマの奔流。
そして、どこからともなく低く重い男の声が響く。
『……来たか、異邦の魂よ』
蓮姫は、巨大なマグマの柱を紙一重でかわしながら問いかけた。
「お前は誰だ? この時代の時の主なのか?」
『私はマグナだ。時の主? 知らんな』
「そうか……」
『私の記憶は断片的に封印されている』
「誰に封印された?」
『わからない。ただ……高貴なるお方としか……』
「なるほど。じゃあ、お前が時の主だとしても、一劫年のサイコロを出す方法も、時間を進める方法も知らないんだな?」
『サイコロ……? 時を進める……?知らんな』
「わかった……。邪魔して悪かったな。他を当たる」
そう言い残し、蓮姫は声のした方へ背を向け、静かにその場を去ろうと歩き出した。
――その瞬間。
ゴゴゴゴゴ!
蓮姫のすぐ目の前に、天を衝くほど巨大なマグマの柱が噴き上がる。
「貴様、これはどういうつもりだ……?」
蓮姫は振り返り、声の主に鋭い視線を向けた。
『まだ、話は終わっていない』
「なんだ、私はもうお前には用はないんだが……?」
『私の僅かに残された記憶には、高貴なるお方から二つの伝言が残されている。
一つはこの世界を滅ぼせと……。
そしてもう一つは……、
私の声が聞こえる者がいたら、迷わず始末するようにとな……』