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第45話 バトル・チュートリアル③

「あなたの武具を貸してちょうだい……」


「あ、ああ……」

蓮姫は少女に言われるがままに変光の武具を渡す。

すると、少女はその武具を、変炎の武具を持っていない方の左手に構える。


刹那——!

変光の武具はピストルに形を変え、少女はその銃口から次々に光弾を発射した。


「もういいわ。はい、ありがとう」

少女は澄まし顔で変光の武具を元の石の形に変え蓮姫の方へと投げる。

「っととと!ちゃんと返せよ、馬鹿!」


「あら?その武具は私があなたに貸してるものよ。どう扱おうと私の勝手。

私、何か間違っていることを言っているかしら?」


「ああ、わあったよ!」

蓮姫は少女の発言にイラっとした。

そして不貞腐れて少女から背を向けていると……。


「ほら、ちゃんと見ておきなさい!

さっきの光の銃は普通の銃とは違うのよ」


「違う——!?」

蓮姫は銃口の先を振り向く。


「普通の銃弾は直進して、進行の遮蔽物をある程度まで突き抜けてお終い。

だけどね、この光弾は最初はわざと遮蔽物に当てて、跳ね返った後から対象を襲うのよ」


「なるほど……、それで、わざわざ銃口から光弾を発射する度に射速を妙に遅く調整して打ち出していたんだな……」


「あら、あなたにしては珍しく物分かりがいいのね。

あなたが生まれた時代に銃なんてあったの?」


「最初にあんたと会ったとき、私の連れにハルキって奴がいたよな?

あいつがナ似たような武器を持っていたから、あいつに練習させてもらったんだ」

「しっ——!」

蓮姫が言い終わるか終わらないかのタイミングで少女は会話を中断させた。


そして次の瞬間——。


遠くから少女に向けて目にも止まらぬ速さで放たれた光弾が、巻き付いた鞭状の武具によって弾かれる。


「す、すげえ……」


「見惚れていないで!

さあ、次はあなたの番よ」


「私にもやってみろってか?」


すると少女は無言で静かに頷く。


蓮姫は言われた通り、変光の武具を鞭のようにして自分の体全体を守るように巻きつけてみた。すると……。

その直後に少女が放った模擬的な炎の塊が、確かに弾かれた。

しかし、それは一度きり。

武具は光の粒子となって消滅し、元の形状に戻るまでには、数秒の時間を要した。


『このクールタイムは、あんたのスタミナを消費することで短縮できる。

だけどね、スタミナの管理を間違えたら、あっという間に死ぬわよ』

少女の言葉には容赦がない。


『次は高速移動。

自分の武器の先端を足裏に滑り込ませることで、瞬間的な加速を生むこともできるの』

少女が実演してみせる。

彼女の足元から光が迸り、まるで弾丸のように白い空間を滑り抜けていく。


蓮姫もそれを真似て実行すると、確かに爆発的な速度で体が前に押し出された。

しかし、高速移動中は武器を攻撃にも防御にも使えないことがすぐに分かった。


『この技の軸は、移動を開始した地点よ。

移動している足元が針になるイメージね。


軸から針までの総延長距離が長くなるほど、武具の密度は薄くなるの。

密度が一定値を下回れば、高速移動は強制的に解除されるわ』


何度も試行錯誤を繰り返し、蓮姫は徐々にその感覚を掴んでいく。


『じゃあ次は、今までの技を応用してみましょうか?

同じ変化の武具を持ってるんだから、私の動きをよく見て、その時々に最適な技を選びなさい。

わかった?』


「ああ……わかった」


次の瞬間、少女の攻撃が始まった。

鋭い斬撃が迫り来る。

蓮姫は咄嗟に武器を盾のように構え、防御する。

すると、少女は武具の先端をT字に変形させ、左右同時に二連の斬撃を繰り出した。

蓮姫は咄嗟に高速回避でそれを躱す。

『あら、盾状の防御、私教えて無かったのに

よく出来たわね。

でも、斬撃の時に盾状だと前方以外がガラ空きになるから鞭のようなフォームの方が死角をカバー出来るわよ』


少女はそう言い終えた後、今度は防御の体勢に入る。

これは好機と見て、蓮姫は自分の武具の先端を同じようにT字に変形させ、先程の少女と同じ左右二連コンボを繰り出す。


しかし、少女はそれを寸前のところで高速回避に切り替え、受け流した。


「くそっ……!」

追い詰めたと思ったのに。

蓮姫が諦めかけたその時、少女がヒントをくれた。

『高速移動は、何もただ自分が移動する為だけのものじゃないわ。

武器の尖端だけで、相手を執拗に追尾しなさい』

蓮姫は言われた通りに変光の武具を操り、少女の移動に合わせて、まるで蛇のように武具の先端で追いかける。

すると、ジリ貧になった少女の回避モードの密度が、目に見えて低下していく。

そして、とうとう密度の限界を下回り少女が着地したその瞬間、

蓮姫は渾身の一撃を叩き込んだ。

四度の挑戦。蓮姫はついに、少女の動きに対応し、全ての応用技を成功させた。


次の瞬間、

先程まで手合わせをしていた少女が、同じ形状で武具を構えている。

その表情には、先程までの冷酷さはなく、僅かに笑みが浮かんでいるようにも見えた。


「さあ、模擬戦よ」

少女がそう言った瞬間、激しい攻防が始まった。

攻撃、防御、そして高速回避。

互いの動きを読み合い、一瞬の隙を突こうとする。

激しい応酬の中、ついに二人の回避モードの密度が下限を下回り、同時に地面へと着地した。

決着の瞬間――。

少女の手に握られていたのは、見慣れた短い剣だった。蓮姫のショートソード。いつの間にか、戦闘の最中に奪われていたのだ。

その冷たい切っ先が、蓮姫の喉元に静かに突きつけられる。


「……終わりよ」

少女は満足そうに頷いた。


「まあ、及第点ってところかしらね」

そして、再び指をパチンと鳴らす。




気が付くと、蓮姫はあの灼熱の戦場に戻っていた。マグマの巨人が、こちらを訝しげに、しかし確実に怒りを増幅させながら見下ろしている。

蓮姫は両手にショートソードと変光の武具を構え、ショートソードの鋭い剣先をマグマの巨人に向けた。

その瞳には、先程までの焦燥の色はなく、確かな自信と、滾るような闘志が宿っている。


「さあ、ここから反撃開始だ――!」


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