テクノロジーが高度に発達した近未来の日本。
ある四人家族の長女に鈴という少女がいた。
鈴の両親は再婚で、妹の蘭は今の両親から生まれた子供だった。
しかし、鈴は母が昔離婚した父の連れ子で、
鈴自身、いつも家の片隅にいるような気がしていた。
家族の笑い声が響いても、鈴自身も家族に心配かけまいと明るく振る舞うが、自分だけがその輪の外側にいる。そんな気がしていた。
母親に大切にされる妹の蘭は、無邪気な笑顔で「お姉ちゃん!」と鈴に抱きついてくる。
でも、そのたびに鈴の胸に鋭い棘が刺さる。
(私は本当にこの家族の一員なの?)
——そんな疑問が、心の奥深くに沈んでいた。
ある日の夜。蘭が鈴の部屋に入ってきた。
「ねえ、今日ね!ママが新しい髪飾りをくれたの!すごく可愛いの!」
蘭は嬉しそうに話し、手のひらに収まるほど小さな花の髪飾りを見せた。
その声は澄んでいて、何の疑いもなく、ただ幸せを分かち合いたいという気持ちで溢れていた。
だが、その無邪気な幸せが鈴には眩しすぎた。
「そんなもの、どうでもいいじゃない!!」
鈴は蘭の掌の上の髪飾りを激しく払い除けた。
鈴の声は冷たく、硬かった。
蘭の笑顔が一瞬揺らぐ。
「どうして……?
ねえ、どうして……こんなひどいことするの…?」
その問いかけに、鈴の胸の奥に溜まっていた黒い感情が爆発した。
「あなたなんて、いなくなればいいのに!」
言った瞬間、鈴自身が息を呑んだ。
蘭の目が揺れ、大きく開かれた瞳には、信じられないという気持ちと……深い悲しみがあった。
「わかった……」
何かを言いかけた蘭は、何も言わずに踵を返し、走り去った。
夜の闇の中へ、蘭の小さな影が消えていく——
その間、鈴はドアの前で体を丸めて部屋に閉じこもっていた。
蘭の姿が目の前から消えたことに、ほんの少しの安堵を感じた。
「蘭はいいよね……。どうせ、すぐに戻ってくるんでしょ?」
しかし……。
キャー!!!
夜の静寂を切り裂く悲鳴——鈴は嫌な予感がした。
鈴は硬直した。外からの叫びは、ただの騒音ではなかった。
胸の奥で何かがひどくざわつく。息が詰まり、手のひらがじっとりと汗ばむ。
「何……?」
不吉な予感に駆られ、鈴は玄関の外へ走った。
そこに広がる光景は——想像を絶するものだった。
冷たい街灯の下。車のライトがぼんやりと路上を照らし、
地面に横たわる小さな影を浮かび上がらせていた。
「嘘……」
視線の先、血の気の引いた顔。動かない身体。
蘭が……そこにいた。
鈴の足元から世界が崩れ落ちる。
心臓が激しく鼓動を打ち、耳鳴りが全身を支配した。
「蘭ッ!」
鈴は何も考えずに駆け出した。
道を飛び越え、転びそうになりながらも、
鈴はただ蘭の元へと走った。
近づくほどに、現実が冷たい刃となって突き刺さる。
蘭の服は埃にまみれ、頬には切り傷ができていた。
「どうして……」