〔"マグナの切り札"の続きになります〕
——過去がよみがえる。
静かに瞳を閉じる。胸の奥がきゅっと痛む。
忘れようとしても決して消えない、あの日々の輝き。
懐かしさが押し寄せ、切なさに震えながら、私は記憶の扉を開く——。
あの日、森の中で偶然出会った少女——アミュリタ。
あの瞬間、すべてが変わった。
異なる世界に生きるはずの私たち。
でも、そんな境界線なんてどうでもよかった。
ただ、彼女の瞳の中にある優しさに惹かれ、身を委ねたかった。
「ねえ、カムラ?」
「な~に? おばあちゃん!」
「森を抜けた畑に植えている瓜を、二つ取ってきてくれるかい?」
「いいよ~!」
なんて穏やかで、なんて愛しい時間だったのだろう。
手を伸ばしても戻れない日々。
それがこんなにも美しく、こんなにも切ないなんて……。
思い返せば返すほど、まるで昨日のことのように鮮明で、胸の奥が痛む。
「アミュリタ!探したぞ!そこにいたか!」
「まずいわ、お父さんよ!カムラちゃん、隠れて!」
あの時、アミュリタは私を守るために嘘をついた。
その優しさが、彼女の運命を変えた。私の運命も……。
それでも、彼女は決して私を見捨てなかった。
翌日、泣きながら私を探し出してくれた。
転びながらも、必死で——
震える指先で、私へと手を伸ばしてくれた。
「私、カムラちゃんに謝りたいの!それに……その傷の手当てもさせて。お願い!」
「わたしこそ、今さっき逃げたりしてごめんね。」
違う世界に生きるはずだったのに、心はいつしか通じていた。
夢を語り、願いを語り——未来を信じた。
彼女との時間はほんの短い期間だったのかもしれない。けれど、私にとっては永遠だった。
そして、別れ。
「カムラ、本当にごめんね——。」
言葉では言い尽くせないほどの痛み。
でも、それ以上に、愛おしい記憶。
それでも——
『アミュリタ——!!』
——静寂が、破られる。
岩の牢獄の中——沈黙。
蓮姫は重圧に飲み込まれ、意識の奥深くへ沈んでいた。
しかし、深淵の闇の中——
響いた。
『負けないで、カムラちゃん!!
絶対に……絶対に負けちゃダメ!!』
アミュリタ——。
その声が、蓮姫の心臓を鋭く震わせる。
——燃え上がる。
抑え込まれていた力が解き放たれる。
《ルミナス・トランザー》が武具の形を捨て、淡く輝く薄膜へと変化し——
蓮姫の身体を包み込んだ。
そして次の瞬間——!
轟音——!!
岩が砕け、爆風が吹き荒れる。
飛び散る破片が宙を舞い、閃光が空間を切り裂く。
その中心に立つ少女——
それはもはや、蓮姫ではなかった。
純白のローブが優雅に翻る。
大きな袖口は風と共に揺れ、足は地を離れ、その身は浮かび上がっていた。
彼女の髪は絹のように滑らかに膝下まで優雅に揺れ、やがて光を反射する白銀へと移ろう。
瞳孔は消え——
その瞳は白く輝き、額から頬へ刻まれた銀のヒビが淡い光を放っていた。
旋回する風。
それは意思を持つかのように脈打ち、戦場全体を包み込む。
姫は静かに息を整えた。
足元を撫でる風は、まるで彼女の誕生を祝福するかのように優しく吹いている。
「私は"翠嵐の姫"——貴様には負けない。」
その言葉と共に——
風が高鳴る。
空間を震わせるほどの烈風——
しかし、それは彼女と共に、静かに流れていた。
新たなる力を得た蓮姫——
嵐の如く戦場へと舞い戻る!!