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第49話 翠嵐の姫

〔"マグナの切り札"の続きになります〕


——過去がよみがえる。


静かに瞳を閉じる。胸の奥がきゅっと痛む。

忘れようとしても決して消えない、あの日々の輝き。

懐かしさが押し寄せ、切なさに震えながら、私は記憶の扉を開く——。


あの日、森の中で偶然出会った少女——アミュリタ。

あの瞬間、すべてが変わった。

異なる世界に生きるはずの私たち。

でも、そんな境界線なんてどうでもよかった。

ただ、彼女の瞳の中にある優しさに惹かれ、身を委ねたかった。


「ねえ、カムラ?」

「な~に? おばあちゃん!」

「森を抜けた畑に植えている瓜を、二つ取ってきてくれるかい?」

「いいよ~!」


なんて穏やかで、なんて愛しい時間だったのだろう。

手を伸ばしても戻れない日々。

それがこんなにも美しく、こんなにも切ないなんて……。

思い返せば返すほど、まるで昨日のことのように鮮明で、胸の奥が痛む。


「アミュリタ!探したぞ!そこにいたか!」

「まずいわ、お父さんよ!カムラちゃん、隠れて!」


あの時、アミュリタは私を守るために嘘をついた。

その優しさが、彼女の運命を変えた。私の運命も……。

それでも、彼女は決して私を見捨てなかった。


翌日、泣きながら私を探し出してくれた。

転びながらも、必死で——

震える指先で、私へと手を伸ばしてくれた。


「私、カムラちゃんに謝りたいの!それに……その傷の手当てもさせて。お願い!」


「わたしこそ、今さっき逃げたりしてごめんね。」


違う世界に生きるはずだったのに、心はいつしか通じていた。

夢を語り、願いを語り——未来を信じた。

彼女との時間はほんの短い期間だったのかもしれない。けれど、私にとっては永遠だった。


そして、別れ。


「カムラ、本当にごめんね——。」


言葉では言い尽くせないほどの痛み。

でも、それ以上に、愛おしい記憶。


それでも——


『アミュリタ——!!』


——静寂が、破られる。


岩の牢獄の中——沈黙。

蓮姫は重圧に飲み込まれ、意識の奥深くへ沈んでいた。


しかし、深淵の闇の中——


響いた。


『負けないで、カムラちゃん!!

絶対に……絶対に負けちゃダメ!!』


アミュリタ——。


その声が、蓮姫の心臓を鋭く震わせる。


——燃え上がる。


抑え込まれていた力が解き放たれる。

《ルミナス・トランザー》が武具の形を捨て、淡く輝く薄膜へと変化し——

蓮姫の身体を包み込んだ。


そして次の瞬間——!


轟音——!!


岩が砕け、爆風が吹き荒れる。

飛び散る破片が宙を舞い、閃光が空間を切り裂く。


その中心に立つ少女——

それはもはや、蓮姫ではなかった。


純白のローブが優雅に翻る。

大きな袖口は風と共に揺れ、足は地を離れ、その身は浮かび上がっていた。

彼女の髪は絹のように滑らかに膝下まで優雅に揺れ、やがて光を反射する白銀へと移ろう。


瞳孔は消え——

その瞳は白く輝き、額から頬へ刻まれた銀のヒビが淡い光を放っていた。


旋回する風。

それは意思を持つかのように脈打ち、戦場全体を包み込む。


姫は静かに息を整えた。

足元を撫でる風は、まるで彼女の誕生を祝福するかのように優しく吹いている。


「私は"翠嵐の姫"——貴様には負けない。」


その言葉と共に——


風が高鳴る。

空間を震わせるほどの烈風——

しかし、それは彼女と共に、静かに流れていた。


新たなる力を得た蓮姫——

嵐の如く戦場へと舞い戻る!!


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