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第50話 ハルの記憶とてろめ屋の新しい未来

一方、その頃。

てろめ屋では、聡子主任、記憶を失った従業員のハル、そして敷地内に隣接する系列の雑貨館の従業員アキの三人が、搬入された商品を開けながら和気藹々と雑談していた。


「これね?」

聡子がワクワクした様子でアキに視線を送る。


「ええ、そうですね。でも聡子主任、なんでそんなに楽しそうなんですか?」

アキはやや呆れつつも、微笑みながら問い返した。


「だってこれよ!?ハルが考えたやつ!もう、開ける前からワクワクが止まらないんだけど!」

聡子は勢いよく包装を解き、箱から商品を取り出す。


「主任、まずは落ち着いて。確認しながら開けましょう。」

アキは冷静に促した。


てろめ屋では、従業員が中心となり、お客様のフィードバックをもとに新商品のアイデアを練り、寝具販売メーカーや催事の取引先メーカーに提案している。

お客様の声を反映させることが、この店のスタイルだった。


聡子は考えていた。

ハルの記憶が戻ったとき、安心して復帰できるようにしたい。

彼女を指名するお客様との絆を保ち続けられれば、戻ってきたときに違和感なく仕事に向き合えるはず。


だからこそ、ハルが以前出していたアイデアを形にするべく、メーカーとの共同開発を進めていたのだ。


「おおーっ!!これよこれ!!キャスター付きテーブル!!いや、アキ!持ってみて!超軽いから!」


箱から現れたのは、四隅にキャスターとロックが付いた、濃いめの木調に塗装されたテーブル。

そのシンプルな見た目に反し、表面強化されたバルサ材でできた軽量仕様だった。


「このテーブル、本当に軽いですね……!」

アキは驚きの声を上げながら、そっと手を伸ばす。


指先に伝わる感触は、見た目よりもずっと軽く、スムーズに動かせる。

少し力を入れると、キャスターが滑らかに動き、テーブルがスッと移動した。


「そうでしょう?見た目よりずっと軽くて、動かしやすいのよ。メメさんの腰に負担をかけずに使えるように、ハルが考えてくれたのよ。」

聡子の声には、誇らしさと愛しさが滲んでいた。


「もう、メメさん絶対気に入ると思うんだよねー!!ハル、これ考えた時、めちゃくちゃ頑張ってたのよ!

記憶が戻ったら、ぜひメメさんにこれをおすすめしてほしいの!ね、ハル!」

聡子は明るく励ますようにハルの肩を軽く叩いた。


「ハル、すごいですね!」

アキはふとハルの表情を見つめた。


ハルはゆっくりとテーブルへ手を伸ばし、その感触を確かめるように静かに目を閉じる。

アキはその様子をそっと見守りながら、心の中で願っていた。


「ハル、思い出せるといいですね……。」


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