一方、その頃。
てろめ屋では、聡子主任、記憶を失った従業員のハル、そして敷地内に隣接する系列の雑貨館の従業員アキの三人が、搬入された商品を開けながら和気藹々と雑談していた。
「これね?」
聡子がワクワクした様子でアキに視線を送る。
「ええ、そうですね。でも聡子主任、なんでそんなに楽しそうなんですか?」
アキはやや呆れつつも、微笑みながら問い返した。
「だってこれよ!?ハルが考えたやつ!もう、開ける前からワクワクが止まらないんだけど!」
聡子は勢いよく包装を解き、箱から商品を取り出す。
「主任、まずは落ち着いて。確認しながら開けましょう。」
アキは冷静に促した。
てろめ屋では、従業員が中心となり、お客様のフィードバックをもとに新商品のアイデアを練り、寝具販売メーカーや催事の取引先メーカーに提案している。
お客様の声を反映させることが、この店のスタイルだった。
聡子は考えていた。
ハルの記憶が戻ったとき、安心して復帰できるようにしたい。
彼女を指名するお客様との絆を保ち続けられれば、戻ってきたときに違和感なく仕事に向き合えるはず。
だからこそ、ハルが以前出していたアイデアを形にするべく、メーカーとの共同開発を進めていたのだ。
「おおーっ!!これよこれ!!キャスター付きテーブル!!いや、アキ!持ってみて!超軽いから!」
箱から現れたのは、四隅にキャスターとロックが付いた、濃いめの木調に塗装されたテーブル。
そのシンプルな見た目に反し、表面強化されたバルサ材でできた軽量仕様だった。
「このテーブル、本当に軽いですね……!」
アキは驚きの声を上げながら、そっと手を伸ばす。
指先に伝わる感触は、見た目よりもずっと軽く、スムーズに動かせる。
少し力を入れると、キャスターが滑らかに動き、テーブルがスッと移動した。
「そうでしょう?見た目よりずっと軽くて、動かしやすいのよ。メメさんの腰に負担をかけずに使えるように、ハルが考えてくれたのよ。」
聡子の声には、誇らしさと愛しさが滲んでいた。
「もう、メメさん絶対気に入ると思うんだよねー!!ハル、これ考えた時、めちゃくちゃ頑張ってたのよ!
記憶が戻ったら、ぜひメメさんにこれをおすすめしてほしいの!ね、ハル!」
聡子は明るく励ますようにハルの肩を軽く叩いた。
「ハル、すごいですね!」
アキはふとハルの表情を見つめた。
ハルはゆっくりとテーブルへ手を伸ばし、その感触を確かめるように静かに目を閉じる。
アキはその様子をそっと見守りながら、心の中で願っていた。
「ハル、思い出せるといいですね……。」