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第53話 逆転の奇策

戦場に響く風の刃と溶岩の拳。

それらが交錯する中、姫はふと視線を空へと向けた。


その瞬間——


「シュッ!」


疾走する大きな影が彼女の目の前をかすめる。巨大な翅が煌めき、天光を受けて鋭く反射した。


それは——巨大なトンボ……。


優雅な姿で疾風のように空を駆け抜けるその存在は、単なる偶然ではない。

直線的に飛ぶのではなく、風の流れを読み取るように空気と一体になりながら、高度を調整していく。

まるで水面を滑るかのような軽快さ。

その動きには確かな意志が宿っていた。


姫の瞳が鋭く輝く。


「……そうか……!」


彼女は直感する。この戦場——この空間——この風。

そのすべてが自身にとって最適の武器になり得る。力でねじ伏せるのではなく、風と共に踊る。そうすれば——


背後の地形を活かし、圧倒的な力を誇るマグナの地力を封じ込めることができる!


「——決める!」


姫は瞬く間に決断を下した。

身体が風と一つになり、翠嵐の翼が大きく広がる。


その瞬間——


戦場の空が彼女の舞台へと変わった。


風の導きよ、戦場を支配せよ!


姫は深く息を整え、視線をある一点に向ける。


マグナの動きを封じるなら——ここしかない!


「風よ——私を導きなさい!」


ローブの左右の大きな袖口から翠嵐の巨大な翼が出現し、大気を切り裂く!

空を駆ける疾風となり、彼女の身体は一気に上昇した。

風の流れを読み取るように、しなやかに飛翔する。その目的地は——マグナの背後にそびえ立つ巨大な岩壁。


「——砕けなさい!!」


姫が腕を振るった瞬間——


ズバァァァッ!!


風の刃が生み出され、振り下ろされた一撃が岩壁の脆い部分へ突き刺さる。

瞬間、巨大な岩壁が崩落を始める。


ゴゴゴゴゴ——!!


しかし、それだけではない。


「……ふっ」


姫は口角を上げ、冷ややかに笑みを浮かべる。


決壊——奔流、襲い来る!!


ドゴォォォォン!!


岩の崩壊と共に、戦場の奥に隠れていた水流が決壊し、轟音を立てて溢れ出す。

怒涛の奔流が大地を飲み込み、濁流が荒れ狂うようにマグナへと迫る!


「何——!?」


マグナが驚愕の声を上げる。

しかし、すでに遅い。


地面は泥と化し、足場は崩壊。彼の踏み込みは完全に封じられた。


「今よ!!」


姫は躊躇なく風の刃を編み出し、全身の力を込めてマグナへ降り注ぐ!


ズババババッ!!


「ぐっ……!」


鋭い風の刃が次々とマグナの身を斬り裂く。

彼は苦悶の声を漏らしながら後退する——もはや抵抗すら叶わない。


姫は静かに戦場へ降り立ち、確信を持って言い放つ。


「これで、決まりだわ——!」


翠嵐の姫は、風を制し、戦場を支配し——勝利を掴んだ!!


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