戦場に響く風の刃と溶岩の拳。
それらが交錯する中、姫はふと視線を空へと向けた。
その瞬間——
「シュッ!」
疾走する大きな影が彼女の目の前をかすめる。巨大な翅が煌めき、天光を受けて鋭く反射した。
それは——巨大なトンボ……。
優雅な姿で疾風のように空を駆け抜けるその存在は、単なる偶然ではない。
直線的に飛ぶのではなく、風の流れを読み取るように空気と一体になりながら、高度を調整していく。
まるで水面を滑るかのような軽快さ。
その動きには確かな意志が宿っていた。
姫の瞳が鋭く輝く。
「……そうか……!」
彼女は直感する。この戦場——この空間——この風。
そのすべてが自身にとって最適の武器になり得る。力でねじ伏せるのではなく、風と共に踊る。そうすれば——
背後の地形を活かし、圧倒的な力を誇るマグナの地力を封じ込めることができる!
「——決める!」
姫は瞬く間に決断を下した。
身体が風と一つになり、翠嵐の翼が大きく広がる。
その瞬間——
戦場の空が彼女の舞台へと変わった。
風の導きよ、戦場を支配せよ!
姫は深く息を整え、視線をある一点に向ける。
マグナの動きを封じるなら——ここしかない!
「風よ——私を導きなさい!」
ローブの左右の大きな袖口から翠嵐の巨大な翼が出現し、大気を切り裂く!
空を駆ける疾風となり、彼女の身体は一気に上昇した。
風の流れを読み取るように、しなやかに飛翔する。その目的地は——マグナの背後にそびえ立つ巨大な岩壁。
「——砕けなさい!!」
姫が腕を振るった瞬間——
ズバァァァッ!!
風の刃が生み出され、振り下ろされた一撃が岩壁の脆い部分へ突き刺さる。
瞬間、巨大な岩壁が崩落を始める。
ゴゴゴゴゴ——!!
しかし、それだけではない。
「……ふっ」
姫は口角を上げ、冷ややかに笑みを浮かべる。
決壊——奔流、襲い来る!!
ドゴォォォォン!!
岩の崩壊と共に、戦場の奥に隠れていた水流が決壊し、轟音を立てて溢れ出す。
怒涛の奔流が大地を飲み込み、濁流が荒れ狂うようにマグナへと迫る!
「何——!?」
マグナが驚愕の声を上げる。
しかし、すでに遅い。
地面は泥と化し、足場は崩壊。彼の踏み込みは完全に封じられた。
「今よ!!」
姫は躊躇なく風の刃を編み出し、全身の力を込めてマグナへ降り注ぐ!
ズババババッ!!
「ぐっ……!」
鋭い風の刃が次々とマグナの身を斬り裂く。
彼は苦悶の声を漏らしながら後退する——もはや抵抗すら叶わない。
姫は静かに戦場へ降り立ち、確信を持って言い放つ。
「これで、決まりだわ——!」
翠嵐の姫は、風を制し、戦場を支配し——勝利を掴んだ!!