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第54話 雨宿り

「私は……まだ、生きてる……のか?」


薄れゆく意識の中で、蓮姫は息を吐いた。

戦場には、マグナとの激闘の名残がまだ漂っていた。


すると突然、翠嵐の姫——覚醒が解けはじめる。

途端に、全身を貫く痛み。焼けるような筋肉の疲労が襲い、呼吸をするだけで精一杯だった。そして——彼女は力なく地に崩れ落ちた。


「……死ぬほど眠い。」


意識が深く沈む。


どれほどの時間が経ったのか——。



ざわめく風。


轟く雷鳴。


悪夢の中から引きずり出されるように、蓮姫は目を開けた。


——ドォォォン!!


「おぉぉっ!?」


雷がすぐそばの木に直撃した。

爆音と閃光に、寝起きの脳は瞬時に覚醒する。視界が白く染まり、強まる雨が体温を容赦なく奪っていく。


肌を打ちつける雨粒。冷たい泥。指先すら感覚がない——。


その時。


蓮姫の頬を、何かが突いた。


「……今度は何だ?」


雨音に紛れて、小さな声が届く。


「——風邪ひくわよ。」


「……は?」


蓮姫は瞬きを繰り返し、ぼやけた視界を回復させる。

次第に焦点が合い——そこに立っていたのは、自分に変光の武具を託した少女だった。



蓮姫は震えながら、少女を睨みつけた。

雨が容赦なく叩きつけ、寒さが骨の奥まで染み渡る。


「立てる?」

少女は淡々と尋ねる。


「無理」即答。


「はぁ——、あなたねぇ。まあいいわ」

少女は呆れ顔でため息をつき、蓮姫に手を差し出した。


「雨除けの場所まで行くわよ。」


蓮姫はしぶしぶ少女の手を借り、視線を彷徨わせる。

見えたのは、古い巨大な樹。少女はそこへ蓮姫を案内した。


葉に弾かれた雨が少し和らぐものの、空は依然として「お前を生かしてはおかぬ」とでも言いたげな嵐を続けている。


「……なぜ助けに来たんだよ?」

蓮姫はかすれた声で少女に尋ねる。


「見届けたかったからよ。」

少女は、ごく自然に答えた。


沈黙を埋める雨音。しかし——少女の次の言葉は蓮姫の心を鋭く突き刺した。


「最初から変光の武具を翼にして、岩壁の上を飛びながら遠距離攻撃していれば、もっと楽に勝てたのに。」


蓮姫の瞳が鋭く光る。


「な、な……何だって!?」


「あなた、もっと合理的に戦えたはずよ。」


「……なぜそれを先に教えてくれないんだよ?」


しかし、少女はただ、薄く微笑むだけだった。


「学ぶには、時に遠回りも必要でしょう?」


「ざけんな。」


「ところで……、あなたが途中から翠嵐の姫とか言って厨二病拗らせて……、私、イタ過ぎて目も当てられ無かったんだけど、

あれはどうやったの?」


「何だそれ?私は知らないが——どうやったんだ?」


「やっぱり覚えてないのね。

って言うか、質問を質問で返さないでよ!」


「あ……あぁ……。」

(ったく、何のことだよ……まったく……)



「あの時の彼女の覚醒、本当に何だったのかしら……」

少女は蓮姫の背中を追いながら、小さくそう、呟く。



その後、雷鳴が再び轟き、そして嵐が過ぎ去った。



雨が止み、空がゆっくりと開けていく。

蓮姫は少女と別れ、戦場を後にする。


冷たい泥を踏みしめながら、彼女は歩みを進めた。しかしその道中——。


「……ねぇ、ここってどこなの?」


突然の声に、蓮姫は後ろを振り返る。


そこには、一人の少女が立っていた。

異国の服装をまとい、小柄ながらもどこか風変わりな雰囲気を持つ少女。


「……あんたは?」

蓮姫は問いかける。


少女は不安げに視線を泳がせ——ぽつりと名乗った。


「ハル……私は、ハル。」


新たな出会いが、始まる——。



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