「私は……まだ、生きてる……のか?」
薄れゆく意識の中で、蓮姫は息を吐いた。
戦場には、マグナとの激闘の名残がまだ漂っていた。
すると突然、翠嵐の姫——覚醒が解けはじめる。
途端に、全身を貫く痛み。焼けるような筋肉の疲労が襲い、呼吸をするだけで精一杯だった。そして——彼女は力なく地に崩れ落ちた。
「……死ぬほど眠い。」
意識が深く沈む。
どれほどの時間が経ったのか——。
ざわめく風。
轟く雷鳴。
悪夢の中から引きずり出されるように、蓮姫は目を開けた。
——ドォォォン!!
「おぉぉっ!?」
雷がすぐそばの木に直撃した。
爆音と閃光に、寝起きの脳は瞬時に覚醒する。視界が白く染まり、強まる雨が体温を容赦なく奪っていく。
肌を打ちつける雨粒。冷たい泥。指先すら感覚がない——。
その時。
蓮姫の頬を、何かが突いた。
「……今度は何だ?」
雨音に紛れて、小さな声が届く。
「——風邪ひくわよ。」
「……は?」
蓮姫は瞬きを繰り返し、ぼやけた視界を回復させる。
次第に焦点が合い——そこに立っていたのは、自分に変光の武具を託した少女だった。
蓮姫は震えながら、少女を睨みつけた。
雨が容赦なく叩きつけ、寒さが骨の奥まで染み渡る。
「立てる?」
少女は淡々と尋ねる。
「無理」即答。
「はぁ——、あなたねぇ。まあいいわ」
少女は呆れ顔でため息をつき、蓮姫に手を差し出した。
「雨除けの場所まで行くわよ。」
蓮姫はしぶしぶ少女の手を借り、視線を彷徨わせる。
見えたのは、古い巨大な樹。少女はそこへ蓮姫を案内した。
葉に弾かれた雨が少し和らぐものの、空は依然として「お前を生かしてはおかぬ」とでも言いたげな嵐を続けている。
「……なぜ助けに来たんだよ?」
蓮姫はかすれた声で少女に尋ねる。
「見届けたかったからよ。」
少女は、ごく自然に答えた。
沈黙を埋める雨音。しかし——少女の次の言葉は蓮姫の心を鋭く突き刺した。
「最初から変光の武具を翼にして、岩壁の上を飛びながら遠距離攻撃していれば、もっと楽に勝てたのに。」
蓮姫の瞳が鋭く光る。
「な、な……何だって!?」
「あなた、もっと合理的に戦えたはずよ。」
「……なぜそれを先に教えてくれないんだよ?」
しかし、少女はただ、薄く微笑むだけだった。
「学ぶには、時に遠回りも必要でしょう?」
「ざけんな。」
「ところで……、あなたが途中から翠嵐の姫とか言って厨二病拗らせて……、私、イタ過ぎて目も当てられ無かったんだけど、
あれはどうやったの?」
「何だそれ?私は知らないが——どうやったんだ?」
「やっぱり覚えてないのね。
って言うか、質問を質問で返さないでよ!」
「あ……あぁ……。」
(ったく、何のことだよ……まったく……)
「あの時の彼女の覚醒、本当に何だったのかしら……」
少女は蓮姫の背中を追いながら、小さくそう、呟く。
その後、雷鳴が再び轟き、そして嵐が過ぎ去った。
雨が止み、空がゆっくりと開けていく。
蓮姫は少女と別れ、戦場を後にする。
冷たい泥を踏みしめながら、彼女は歩みを進めた。しかしその道中——。
「……ねぇ、ここってどこなの?」
突然の声に、蓮姫は後ろを振り返る。
そこには、一人の少女が立っていた。
異国の服装をまとい、小柄ながらもどこか風変わりな雰囲気を持つ少女。
「……あんたは?」
蓮姫は問いかける。
少女は不安げに視線を泳がせ——ぽつりと名乗った。
「ハル……私は、ハル。」
新たな出会いが、始まる——。