「……なるほど、布団屋か。」
蓮姫は腕を組みながら、ハルの話に耳を傾けていた。
蓮姫は古代インドの王族——王宮で神々に祈りを捧げ、絢爛な宮廷を歩いてきた身。
そんな彼女にとって、「布団屋」という存在はあまりにも庶民的で、まるで異世界の話のようだった。
「私は王宮育ちなのだけど……布団というものはそんなに重要なものなのか?」
「えっ? 重要だよ! 人は布団なしじゃ生きていけないんだから!」
ハルは目を丸くして即答する。
「王宮では、急な戦いに備えて軽くて持ち運びできる絹の敷物で眠るから、正直、布団を意識したことはなかったな」
「絹!? そんな贅沢な……!」
ハルはぽかんと口を開ける。お互いの文化に驚きながら、次第に距離が縮まっていく。
「あんたの世界の布団、戦の役に立つのか?」
「だから戦じゃないってば!」
そんな取り止めのない話をしながら二人が歩き続ける中——。
「——あっ!!」
突然の声に、ハルがぴたりと足を止めた。
蓮姫が振り向くと、一人の見慣れない少女が立っていた。
ハルと同じく異国の衣装に身を包んでいるが、その瞳には蓮姫とは違った、
しかし確かな強さが宿っている。
「え——と、鈴、お姉……ちゃん……?」
ハルは何故かバツが悪そうに呟く。
「蘭、今までどこにいたの?
私探したんだよ!」
「ごめんなさい……」
「まあまあ、そうカッカしなさんなって。
ところで。あんたが蘭の姉か?」
蓮姫が尋ねると、鈴は静かに頷いた。
「ええ、そうよ。あなたは……蓮姫、
古代の姫君よね?」
「そうだ。って、何で知っているんだ!?」
蓮姫は鈴の鋭い投げかけに、目を丸くする。
「それは……訳があって言えないの。ごめんなさい……」
「まあ、いいさ。そんな辛気臭い顔はやめろ」
「ありがとう。」
「ところであんた、さっきからキョロキョロして何かを探しているのか?」
「破壊と再生のマグネタイトよ。
蘭と探していたんだけど……。」
その言葉に、蓮姫は息を飲む。
そして、迷いなく告げる。
「すまない……それ、私が持ち主ごと壊してしまったかもしれん」
「はぁ——!?!」
鈴は目を見開く。だが蓮姫の説明を聞くと、
深いため息をついた。
「……そう。まあ、それなら仕方ないわね。」
「お詫びと言ってはなんだが……時の主なら、あんたの妹の記憶障害を治せるかもしれない。
私は今から奴に野暮用があるんだが、一緒に着いてくるか?」
蓮姫がそう言うと、鈴の目の色が変わった。
「蘭の記憶……本当に戻せるの!?」
鈴は蓮姫に詰め寄る。
ハルは状況を理解できず混乱し、その声はかすかに震えていた。
失ったものを取り戻せる可能性——
その希望が鈴の胸に灯る。
「行こう、蘭!」
鈴は強い決意を固め、蘭は静かに頷いた。
こうして——蓮姫の案内の元、姉妹は一緒にある洞窟へと向かう。