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第55話 王宮の姫と布団屋の少女

「……なるほど、布団屋か。」

蓮姫は腕を組みながら、ハルの話に耳を傾けていた。

蓮姫は古代インドの王族——王宮で神々に祈りを捧げ、絢爛な宮廷を歩いてきた身。

そんな彼女にとって、「布団屋」という存在はあまりにも庶民的で、まるで異世界の話のようだった。


「私は王宮育ちなのだけど……布団というものはそんなに重要なものなのか?」


「えっ? 重要だよ! 人は布団なしじゃ生きていけないんだから!」

ハルは目を丸くして即答する。


「王宮では、急な戦いに備えて軽くて持ち運びできる絹の敷物で眠るから、正直、布団を意識したことはなかったな」


「絹!? そんな贅沢な……!」

ハルはぽかんと口を開ける。お互いの文化に驚きながら、次第に距離が縮まっていく。


「あんたの世界の布団、戦の役に立つのか?」


「だから戦じゃないってば!」



そんな取り止めのない話をしながら二人が歩き続ける中——。


「——あっ!!」


突然の声に、ハルがぴたりと足を止めた。


蓮姫が振り向くと、一人の見慣れない少女が立っていた。

ハルと同じく異国の衣装に身を包んでいるが、その瞳には蓮姫とは違った、

しかし確かな強さが宿っている。


「え——と、鈴、お姉……ちゃん……?」

ハルは何故かバツが悪そうに呟く。


「蘭、今までどこにいたの?

私探したんだよ!」


「ごめんなさい……」


「まあまあ、そうカッカしなさんなって。

ところで。あんたが蘭の姉か?」

蓮姫が尋ねると、鈴は静かに頷いた。


「ええ、そうよ。あなたは……蓮姫、

古代の姫君よね?」


「そうだ。って、何で知っているんだ!?」

蓮姫は鈴の鋭い投げかけに、目を丸くする。


「それは……訳があって言えないの。ごめんなさい……」


「まあ、いいさ。そんな辛気臭い顔はやめろ」


「ありがとう。」


「ところであんた、さっきからキョロキョロして何かを探しているのか?」


「破壊と再生のマグネタイトよ。

蘭と探していたんだけど……。」


その言葉に、蓮姫は息を飲む。

そして、迷いなく告げる。

「すまない……それ、私が持ち主ごと壊してしまったかもしれん」


「はぁ——!?!」

鈴は目を見開く。だが蓮姫の説明を聞くと、

深いため息をついた。


「……そう。まあ、それなら仕方ないわね。」


「お詫びと言ってはなんだが……時の主なら、あんたの妹の記憶障害を治せるかもしれない。

私は今から奴に野暮用があるんだが、一緒に着いてくるか?」

蓮姫がそう言うと、鈴の目の色が変わった。


「蘭の記憶……本当に戻せるの!?」

鈴は蓮姫に詰め寄る。


ハルは状況を理解できず混乱し、その声はかすかに震えていた。


失ったものを取り戻せる可能性——

その希望が鈴の胸に灯る。


「行こう、蘭!」

鈴は強い決意を固め、蘭は静かに頷いた。


こうして——蓮姫の案内の元、姉妹は一緒にある洞窟へと向かう。


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