洞窟の奥深く、静寂を切り裂くように地鳴りが響いた。
その中心には、巨大化したマグナの上半身だけがマグナの中から浮上する形で鎮座している。
敗北を認めた彼は、蓮姫との約束を果たすため、この場所でただひたすら待っていた。
暗闇の中で、彼の巨大な上半身がゆっくりと動き出す。
鍛え抜かれた褐色の肌には、マグマのように赤く光る紋様が刻まれ、時折そこから熱気が漏れ出していた。
「ようやく来たか、蓮姫。
約束通り、お前の願いを聞こう」
蓮姫は鋭い視線を送りながら一歩踏み出す。
「ああ。だがまず、確認させてくれ——
『一劫年のサイコロ』は、お前の手にあるのか?」
すると、マグナの瞳がわずかに光る。
「……ふむ。どうやらお前は、この時代においても知っているようだな。」
彼はゆっくりと手を差し出す。
その掌の上で、黒曜石のような光を放つ巨大なサイコロが浮かんでいた。
その各面には様々な時代の光景が浮かんでおり、それはまるで宇宙の流転を封じ込めたかのような神秘性を持っていた。
蓮姫はその存在を認めると、振り返り、鈴と蘭を見つめた。
そして、マグナに向けて告げる。
「お願いだ。この娘の願いを叶えてやってほしい。」
鈴は息をのみ、蘭の手を強く握る。
「……お願い……この子の記憶を戻してあげて……。」
マグナはしばし沈黙する。
その瞳の奥にあるものは、単なる力ではない。彼は長い時の流れの中で、人々の願いを見守り続けてきた存在なのだ。
「蘭、お前の記憶を取り戻すには、重大なリスクが伴う。」
鈴はハッとして蘭の顔色を伺う。
しかし……。
「私は大丈夫です。覚悟はできています。
よろしくお願いします」
ハルはそうハッキリ答えると、マグナは静かに頷き洞窟の壁に手をかざした。
すると、一瞬のうちに地層が裂け、そこには無数の光の粒が流れる巨大な構造が現れた。
まるで銀河のように輝くその内部には、この地球の記憶と、もう一つの地球の記憶が交錯していた。
「この空間——ここにあるのは、こっちの地球にあるハルの記憶。そして、あっちの地球にある蘭の記憶のチャンネルだ。」
鈴は息をのむ。
蘭は、まるでそこに吸い込まれそうな感覚を覚えながら、震える手を胸元に当てた。
「私は記憶を繋ぐことはできる。だが、失敗すれば——」
マグナの瞳が赤く光る。
「蘭、お前の人格そのものが崩壊する可能性がある。」
その言葉に、静寂が走った。
蓮姫は目を閉じる。そして、ゆっくりと鈴に向かって言葉を紡いだ。
「決めるのは、お前たちだ。」
鈴は迷わなかった。力強く蘭の肩を抱き、彼女の瞳を見つめる。
「蘭……戻りたい?」
蘭は震えた唇をぎゅっと結び——。
そして、静かに、強く頷いた。
「お願いします……私の記憶を、取り戻して……!」
「——わかった」
マグナは両手を広げる。
次の瞬間——洞窟全体が激しく揺れ、光の粒が渦を巻いて蘭の体へと流れ込んでいく。
その輝きは、記憶を超えた、魂の根源へと到達しようとしていた——。
※補足(架空)
一対一対応の世界
ハルの生まれた地球。
そこはホログラフィック原理を応用して作られた箱庭の地球。
最初は一対一対応で完全にリンクした地球だったが、一劫年のサイコロの影響で時代の変化など違いが広がっていた。
ハルは交通事故をきっかけに、
本当の地球に住む蘭と意識だけが入れ替わった。