その後——。
ハルが働いていたてろめ屋にて。
「——ハル!!!」
(聡子……主任……?)
その声が響いた瞬間、ハルの体がピクリと動いた。
記憶の深淵から、ふわりと浮かび上がるように、彼女は現実の世界へと帰ってきた。
目を開けると、目の前には涙を溢れさせた聡子の姿があった。
彼女は震える手でハルの腕を掴み、ぎゅっと抱きしめる。
「……よかった……!戻ってきたのね……っ!」
「店長……」
その声には、言葉では言い尽くせない安堵と喜びが滲んでいた。
周囲を見渡せば、寝具店「てろめ屋」に集まった人々——
店長や従業員、そして常連客のメメさんまでもが、みんなハルを見つめている。
「おかえり、ハル!」
アキの声だ。
「ただいま、アキ」
「おかえり」
その声が、次々と響く。
暖かな照明の下、ハルは自分の足で立ち、深く息を吸い込んだ。
店の柔らかな布団の香り、カウンターの木のぬくもり、そして懐かしい人々の笑顔——
それらすべてが、変わらずここにはあった。
「みんな……ただいま。」
照れながらのハルのその一言が、彼女の帰還を確かなものにした。
すると、聡子が満面の笑みを浮かべながら、ハルの背中をバシッと叩いた。
「まったく心配させてくれたな!
今日の仕事は免除してやるから、まずはゆっくり休め!」
「主任……、心配かけてごめんなさい……」
「ほんとにびっくりしたよ、ハルちゃん!」
メメさんもハルの手を握りしめる。
そこにいる誰もが、ハルが戻ってきたことを喜び、心から彼を迎え入れていた。
「……ありがとう、みんな……!」
ハルは目頭が熱くなるのを感じながら、彼らの顔を順番に見つめた。
自分は、確かにここにいる。
この世界に、帰ってきたのだ