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第57話 ハルの記憶の回復

その後——。

ハルが働いていたてろめ屋にて。


「——ハル!!!」


(聡子……主任……?)

その声が響いた瞬間、ハルの体がピクリと動いた。

記憶の深淵から、ふわりと浮かび上がるように、彼女は現実の世界へと帰ってきた。


目を開けると、目の前には涙を溢れさせた聡子の姿があった。

彼女は震える手でハルの腕を掴み、ぎゅっと抱きしめる。


「……よかった……!戻ってきたのね……っ!」


「店長……」


その声には、言葉では言い尽くせない安堵と喜びが滲んでいた。


周囲を見渡せば、寝具店「てろめ屋」に集まった人々——

店長や従業員、そして常連客のメメさんまでもが、みんなハルを見つめている。


「おかえり、ハル!」

アキの声だ。


「ただいま、アキ」


「おかえり」

その声が、次々と響く。


暖かな照明の下、ハルは自分の足で立ち、深く息を吸い込んだ。

店の柔らかな布団の香り、カウンターの木のぬくもり、そして懐かしい人々の笑顔——

それらすべてが、変わらずここにはあった。


「みんな……ただいま。」

照れながらのハルのその一言が、彼女の帰還を確かなものにした。


すると、聡子が満面の笑みを浮かべながら、ハルの背中をバシッと叩いた。


「まったく心配させてくれたな!

今日の仕事は免除してやるから、まずはゆっくり休め!」


「主任……、心配かけてごめんなさい……」


「ほんとにびっくりしたよ、ハルちゃん!」

メメさんもハルの手を握りしめる。


そこにいる誰もが、ハルが戻ってきたことを喜び、心から彼を迎え入れていた。


「……ありがとう、みんな……!」


ハルは目頭が熱くなるのを感じながら、彼らの顔を順番に見つめた。


自分は、確かにここにいる。

この世界に、帰ってきたのだ


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