一方その頃。
マグナや蓮姫達のいる洞窟の奥深く、静かに流れる時間——
蘭の瞳がふっと揺れた。
まるで闇の中から光へと呼び戻されるように、彼女はゆっくりと瞬きを繰り返す。
鈴は息をのむ。
蘭の頬に手を伸ばし、恐る恐る尋ねた。
「……蘭?」
すると、そんな鈴の声に応じるように、蘭の瞳が鈴を捉える。
「……お姉ちゃん?」
その瞬間、鈴の目からぶわっと涙が溢れた。
彼女は強く蘭を抱きしめ、肩を震わせながら、言葉を絞り出す。
「蘭……ごめん!
……ずっと……私は……お母さんがあんたばっかり可愛がるから……それが悔しくて……、
あなたに辛く当たってばかりで……」
鈴の声は、途切れ途切れだった。
蘭は、そんな鈴の背中をそっと撫でる。
自分の中に眠っていた記憶が少しずつ戻っていくにつれ、心の奥にぽっと暖かいものが灯るのを感じた。
「……そんな事ないよ、お姉ちゃん。
お姉ちゃんは昔からずっと私の為にいつも頑張ってくれていたよ」
鈴は顔を上げる。
蘭は、優しく微笑んでいた。
「私も、ごめん……お姉ちゃんにもパパやママにも心配かけちゃったね。」
たった一言。
それだけで、鈴の心の奥に張り詰めていたものが、すうっとほどけていくのを感じた。
蓮姫とマグナは、そんな二人の姿を静かに見守っていた。
ふと、鈴は顔を上げると、マグナへと深く頭を下げた。
「マグナ……本当にありがとう。」
マグナはゆっくりと首を振る。
その巨大な体が再び静寂の中でゆらめきながら、低く、しかし力強い声で応じた。
「礼は不要だ。お前たちの絆こそが、記憶を取り戻す力になったのだろう。」
鈴は蓮姫へも視線を向ける。
蓮姫は軽く肩をすくめながら、それでも柔らかく微笑んだ。
「私も、お前たちの助けになれて嬉しいよ」
蘭はそんな蓮姫の言葉を聞くと、静かに目を閉じる。
すべてが戻ってきた——忘れていた日々、交わした言葉、そして心の奥に眠っていた姉のぬくもり。
それは何にも代えがたい、大切なものだった。
洞窟の奥で揺れる光は、まるで新たな未来への扉のように輝いていた。