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第58話 蘭の記憶の回復

一方その頃。

マグナや蓮姫達のいる洞窟の奥深く、静かに流れる時間——


蘭の瞳がふっと揺れた。

まるで闇の中から光へと呼び戻されるように、彼女はゆっくりと瞬きを繰り返す。


鈴は息をのむ。

蘭の頬に手を伸ばし、恐る恐る尋ねた。


「……蘭?」


すると、そんな鈴の声に応じるように、蘭の瞳が鈴を捉える。


「……お姉ちゃん?」


その瞬間、鈴の目からぶわっと涙が溢れた。

彼女は強く蘭を抱きしめ、肩を震わせながら、言葉を絞り出す。


「蘭……ごめん!

……ずっと……私は……お母さんがあんたばっかり可愛がるから……それが悔しくて……、

あなたに辛く当たってばかりで……」

鈴の声は、途切れ途切れだった。


蘭は、そんな鈴の背中をそっと撫でる。

自分の中に眠っていた記憶が少しずつ戻っていくにつれ、心の奥にぽっと暖かいものが灯るのを感じた。


「……そんな事ないよ、お姉ちゃん。

お姉ちゃんは昔からずっと私の為にいつも頑張ってくれていたよ」


鈴は顔を上げる。

蘭は、優しく微笑んでいた。

「私も、ごめん……お姉ちゃんにもパパやママにも心配かけちゃったね。」


たった一言。

それだけで、鈴の心の奥に張り詰めていたものが、すうっとほどけていくのを感じた。


蓮姫とマグナは、そんな二人の姿を静かに見守っていた。


ふと、鈴は顔を上げると、マグナへと深く頭を下げた。


「マグナ……本当にありがとう。」


マグナはゆっくりと首を振る。

その巨大な体が再び静寂の中でゆらめきながら、低く、しかし力強い声で応じた。


「礼は不要だ。お前たちの絆こそが、記憶を取り戻す力になったのだろう。」


鈴は蓮姫へも視線を向ける。

蓮姫は軽く肩をすくめながら、それでも柔らかく微笑んだ。


「私も、お前たちの助けになれて嬉しいよ」


蘭はそんな蓮姫の言葉を聞くと、静かに目を閉じる。

すべてが戻ってきた——忘れていた日々、交わした言葉、そして心の奥に眠っていた姉のぬくもり。


それは何にも代えがたい、大切なものだった。


洞窟の奥で揺れる光は、まるで新たな未来への扉のように輝いていた。


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