夕方の古石町。
空気が湿り気を帯び、木々の葉が風のない夕暮れにざわつく。
陽翔の足は、古石町のはずれにある図書館へと向かっていた。
「お父さんが言ってた。本読んでれば、世界のことがちょっとだけわかるって」
この町の"おかしさ"――その正体に少しでも近づけるなら〕
そう思って、陽翔は自転車を押して坂道を登った。
図書館は古びていた。
屋根瓦は色褪せ、建物全体が昔のまま時を止めたようだった。
ドアのベルも鳴らない。足音が、床に染みついた静けさに吸い込まれていく。
「…誰も、いないの……?」
そこは人気のない閲覧室。
けれど、陽翔はまるで引き寄せられるように、奥の書庫へと進んでいった。
そして、そこで彼は"それ"を見つけた。
――埃をかぶったホログラフ付きの資料筐体。
陽翔は試しに電源を入れた。
すると……、かすれた光が空中に浮かび、文字が浮かび上がった。
「古石町=絶滅種保存環境。人類未確認知性による記憶擬態プロトコル」
「指定生命体:恐竜種。管理AI《イムジオン・コア》」
「……え?」
陽翔は息を呑んだ。
脳が、言葉の意味を処理しきれずに固まっていた。
"恐竜たちが人間に擬態している?"
"この町全体が……保存された絶滅種の記憶……?"
(え、どういうこと?)
陽翔は思考が空回りして、体が震えた。
そのとき――
図書館のガラス窓を、光の"うろこ"が走った。
まるで空がひび割れて、ノイズが現実に染み出してきたかのように。
空間が歪み、陽翔の足元が軋む。
「うわっ!」
バランスを崩して転んだ陽翔が顔を上げると、そこに――ひとりの少女が立っていた。
背に剣を背負い、瞳に強い光を宿した少女。
「……お前、見えたのか? 今のひび割れが」
「え、えっと……お姉ちゃん……誰?
それに、なんで……剣……!?」
「うるせぇな、
別にてめーを斬りに来たんじゃねぇよ。
私は……蓮姫」
彼女は鼻を鳴らし、不機嫌そうに腰に手を当てた。
「"
ようやく見つけたってわけだ。
お前、ちょっとは骨のあるガキかもな」
陽翔の鼓動が、ドクン、と一拍跳ねた。
この町の秘密、恐竜たちの真実――そして、蓮姫という名の"異端"。
図書館の静けさの中で、ふたりの出会いが、物語を静かに動かし始めた。