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第73話 図書館の夜と真実の断片

夕方の古石町。

空気が湿り気を帯び、木々の葉が風のない夕暮れにざわつく。

陽翔の足は、古石町のはずれにある図書館へと向かっていた。


「お父さんが言ってた。本読んでれば、世界のことがちょっとだけわかるって」


この町の"おかしさ"――その正体に少しでも近づけるなら〕

そう思って、陽翔は自転車を押して坂道を登った。


図書館は古びていた。

屋根瓦は色褪せ、建物全体が昔のまま時を止めたようだった。

ドアのベルも鳴らない。足音が、床に染みついた静けさに吸い込まれていく。


「…誰も、いないの……?」


そこは人気のない閲覧室。

けれど、陽翔はまるで引き寄せられるように、奥の書庫へと進んでいった。


そして、そこで彼は"それ"を見つけた。


――埃をかぶったホログラフ付きの資料筐体。


陽翔は試しに電源を入れた。

すると……、かすれた光が空中に浮かび、文字が浮かび上がった。


「古石町=絶滅種保存環境。人類未確認知性による記憶擬態プロトコル」

「指定生命体:恐竜種。管理AI《イムジオン・コア》」


「……え?」


陽翔は息を呑んだ。

脳が、言葉の意味を処理しきれずに固まっていた。


"恐竜たちが人間に擬態している?"

"この町全体が……保存された絶滅種の記憶……?"


(え、どういうこと?)


陽翔は思考が空回りして、体が震えた。

そのとき――


図書館のガラス窓を、光の"うろこ"が走った。


まるで空がひび割れて、ノイズが現実に染み出してきたかのように。

空間が歪み、陽翔の足元が軋む。


「うわっ!」


バランスを崩して転んだ陽翔が顔を上げると、そこに――ひとりの少女が立っていた。


背に剣を背負い、瞳に強い光を宿した少女。


「……お前、見えたのか? 今のひび割れが」


「え、えっと……お姉ちゃん……誰?

それに、なんで……剣……!?」


「うるせぇな、ち着け。

別にてめーを斬りに来たんじゃねぇよ。

私は……蓮姫」


彼女は鼻を鳴らし、不機嫌そうに腰に手を当てた。


「"この町ここ"がおかしいって気づいてる奴、

ようやく見つけたってわけだ。

お前、ちょっとは骨のあるガキかもな」


陽翔の鼓動が、ドクン、と一拍跳ねた。

この町の秘密、恐竜たちの真実――そして、蓮姫という名の"異端"。


図書館の静けさの中で、ふたりの出会いが、物語を静かに動かし始めた。

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