「……ア、アスム、それってどういう意味?」
「以前、森で出会った俺と同じ転生者『桐生 伊織』は使命感に溢れた善人だったが、全ての勇者がそうだとは限らない。これから会いに行く『山代 洵』のようにスローライフとか抜かして魔王討伐に消極的だった奴もいれば、あわよくば魔王に成り代わろうとしていた奴も存在していた」
「え!? う、噓でしょ?」
私の問いに、アスムは無言で首を横に振るう。
ガチで? いくらラノベ脳に侵され魔王討伐そっちのけで好き放題に過ごしていとはいえ……まさか悪事に手を染めているなんて信じられないわ。
「俺は魔王討伐の旅を続けた四年間で四人ほどそういった『闇堕ち勇者』と遭遇し、実際に戦っている。そうだな、ニャンキー?」
「アスムの言うとおりだニャア。固有スキルを活かした強さに魔王と間違えて追っていたら、実は勇者だったってこともあったニャア」
どうやら本当みたい……やばっ超ショック! 最悪すぎてムカつくんですけど!
清き魂を選抜していたつもりが、まさか魔王と間違えるような勇者を
「だから大半の勇者共は、私とのコンタクトを拒み消息を絶っていたのね! 女神の私を欺くなんて信じられない! よくもやってくれたわねぇ、この恨みはらさでおくべきかぁぁぁ!!!」
「落ち着けユリ。別にお前が何かされたわけじゃないだろ?」
「けど信頼は裏切られたわ! いえ……よく考えてみれば最初から裏切られていたのかも」
何せ魔王討伐をぶん投げてセカンドライフを満喫しようとしている舐めた連中ばっかだからね。
その中で踏み越えてはいけない一線を越えた愚か者がいても可笑しくないか……いや十分に可笑しいでしょ! 頭が!
「俺が思うに、そういう奴ほど最初は志が高かったと思う。しかし何かしらの歯車が狂いだし、闇堕ちに至ったのだろう……人間は環境や心境で善にも悪にもなる。だから常に目標を持たなければならない。俺の場合、『モンスター飯』がそれになるだろう。伊織さんは『魔王討伐』、山代は山に引きこもっての『スローライフ』っという具合だ」
「言いたいことはわかるわ……それで闇堕ちした二人の勇者はどうしたの?」
「この世界のルールに則り、俺達で討伐した奴もいれば九割殺しにして国に引き渡した者もいる。どちらにせよ既に処刑され、この世にはいない」
ちなみにアスムは旅をしてきた中で、リエスタが召喚した『転移勇者』達と遭遇したことがあるらしい。
しかし転移勇者達は「魔王討伐したら地球に戻れる」という目標があるため、割と真面目に活動している者が大半だったとか。
「……そう、アスム達のおかげで大事にならずに済んでいたのね。ごめんなさい」
「ユリが謝ることじゃない。俺もそういった輩が許せない性分でもあった……だからベルフォード氏の話を聞き、人身売買組織も同じ臭いを感じたわけだ」
「同じ臭い? 雇われた手練れの用心棒がそうだというの?」
「まぁな。第一級冒険者が数名がかりで挑んでも敵わないとなれば容易に想像できる……あるいは魔王軍の幹部クラスが関わっているかの二択になるだろう」
どうやら勇者アスムの直感がそう告げているようだ。
「じゃあやっぱり、その組織と戦うつもり?」
「……どうだろうな。基本、国内の事はその国で解決するべきだと思っている。そのために評議会は国民から税を貰っている筈だ」
確かにアスムの言うとおりね。
こちらも旅を急ぐ身だし、しゃしゃり出てはキリがないわ。
アスムは「だがまぁ」っと言葉を挟む。
「どちらにせよ、明日の朝一で冒険者ギルドに立ち寄るつもりだ。ニャンキーも受け取ったギャラを家族に仕送りしたいだろうし、俺も久しぶりに冒険者としてクエストを受けて新たな魔物を狩り、食材を確保してきたいと考えている」
結局、アスムは『モンスター飯』一番なのね……別にいいけど。
夕食を終え、私達は部屋へと戻る。
頭に来すぎて悶々としていたけど、お風呂にだけはラティとしっかりと入った。
さらに、この
……私って案外、図太い女神なんだなぁって思った。
◇◆◇
翌朝、アスムは厨房を借りて私達に『ハムエッグ』を作ってくれた。
あれほど硬かったパンも蒸し器で蒸すことで見違えるように柔らかく、下手に調味料を使わずとも手間を加えることで食材の味を存分に美味しく引き出されている。
やっぱアスムは料理の天才ね。
けど一つ腑に落ちないことがある。
「――このハムエッグの素材って何?」
「例のバジリスクの卵とオーク肉から作ったモノだ」
「やっぱ『モンスター飯』かよ! どうして都市部でわざわざ魔物肉なの!? 普通の食材でも良かったんじゃない!?」
「この国で売っている食材はバカ高い割には質が悪い……ユリだって昨夜で懲りているだろ?」
「そ、それは、まぁそうだけど……」
「だから手持ちの食材を使ったまでだ。それに、そのハムは俺の自信作だぞ――」
アスムは生き生きとテンションでレシピの説明をしてくる。
しかもやたら早口で。
【超簡単オークのハム】
《材料》
・オークのブロック肉(バラ肉)
・ハチミツ
《調味料》
・塩(自家製)
・胡椒(自家製)
《手順》
1.オークのブロック肉にハチミツを満遍なく塗ります。
2.全体に塩を多めにまぶし、清潔な布で包み密封します。
(地球ではラップかジップロックで密封するのが勧めです)
3.冷たい環境で5日~7日間ほど放置し、布から取り出して冷水に浸し塩抜きします。
浸す時間は約30分ほどです。
4.塩抜き後は水から取り出し胡椒を満遍なく振りかけます。
5.沸騰した鍋に投入し20分ほど茹でます。それから火を止めて2時間ほど待ちます。
6.鍋から取り出したら綺麗なハムの出来上がりです!
「――と、時間と手間を掛けて作ったんだ。その辺のハムより雑味がなくて美味いだろ?」
「うむ、流石はアスムじゃ! ハチミツの甘さと塩加減がよく染み渡り濃厚な肉の旨味が増しておる! さらに胡椒のスパイスがとても効いていて目玉焼きの白身によく合うではないかえ!?」
「流石、ラティ。実は今回使用した自家製の胡椒もブラックペッパー風に改良してある。したがって普段よりも辛味が強くワイルドな味わいとなっているんだ。勿論、コクのある半熟の卵黄にも合うぞ」
「うん、確かに美味しいわ……そこは素直に認めるんだけどね。けど認めてはいけないと思う私がいるのは何故かしら?」
もう感覚が麻痺してワケわかんなくなってきたわ。
結局、普段どおりに『モンスター飯』を堪能し、私達は冒険者ギルドに向かった。
◇◆◇
「このお金をボク名義で収めてほしいニャア」
受付場にて。
ニャンキーは300万Gを振り込んでいる。
これで故郷であるミーア族の集落付近に存在する冒険者ギルドから、彼の奥さんがいつでも引き落とすことができるそうだ。銀行みたいで便利なシステムね。
受付嬢は「わかりました」と愛想よく返答し対応している。
その間、アスムは掲示板に貼ってあるクエストの依頼書を真剣に眺めていた。
「……そろそろ魚系の魔物肉も獲得したいところだな」
「アスム、こっちに人身売買組織についての依頼書があるわ。ベルフォードさんが言ったとおり結構な懸賞金がかけられているわね。組織を壊滅させた者に1000万Gよ!」
「多様性があるマンドレイクも捨てがたい。そろそろストックが……」
「ちょっと聞いているの? こっちも目だけは通しておくって言ってたじゃない?」
「ああユリ、聞いているぞ。ついでと言っただろ? それによく見ろ、それは第一級冒険者用の依頼書だ。俺は受けることはできない」
「え、アスムは勇者でしょ?」
「勇者だがそれはそれだ。俺は冒険者として第二級の資格しかない……旅をする中、ガルド君が『魔王討伐が優先だ!』と言い張り、路銀を稼ぐくらいしか冒険させてくれなかったからな」
「そ、そうだったのね……ごめんなさい」
私は謝ると、アスムは「気にしなくていい」と優しい微笑を浮かべる。
「俺が気にするのは、同じ『転生勇者』が絡んでいるかどうかだ……もしそうなら対処可能なのは俺しかいないと思っている。だからここでは情報収集だけで構わない」
なるほど、アスムなりに考えていたのね。
モンスター飯になると、ブッ飛んで狂人化してしまうから少し誤解してたわ。
私がそう感心していると、
バン!
突然、大きな音を立て扉が開けられる。
不意に複数の男達が重々しい雰囲気で入ってきた。