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第53話 人身売買組織の全貌

「――皆の者! ノルネーミを統治する評議会より特別クエストの依頼がある! 成功報酬は、一パーティにつき5000万Gを約束しよう! 尚、冒険者の等級は問わん! 高額の前金も支払うぞ! 我こそはと思う者は前に出てきてくれ!」


 ギルドに入って来た途端、役人の男は大声でそう告げる。

 よく見ると関所の砦でアスムを尋問した役人の男だった。

 名はイルグというらしく班長の立場だとか。

 そのイルグは、ふとアスムの方に視線を向けた。


「おお、貴様は狂人……じゃなかった、ベルフォード様の客人ではないか? 貴様も冒険者の端くれならどうだ? 数は多い方がいい!」


「……内容にもよるが、まさか人身売買組織の討伐か?」


「それは極秘事項だ。詳しい内容は引き受けた者にしか告げられん」


 イルグの話をアスムは「なるほど」と聞き入り、私と目を合わせてくる。


「どうする、ユリ? ここは引き受けて話を聞くか? お金欲しいんだろ?」


 確かに当初の1000万Gでテンションを上げたけど、その言い方よ……。

 けどやっぱ5000万Gは魅力的なので、私は真面目な表情を浮かべて「そうですね。困った人達を見過ごせません」と最もらしい理由を述べた。

 アスムは「わかった」と頷く。


「なら、その特別クエストとやらを引き受けよう」


「よし! 他に手上げする者はいないか――」


 イルグの呼び掛けに、私達を含め5組の冒険者パーティが手を上げた。

 そして前金として金貨5枚の500万Gずつ手渡される。


「まずはこれで各々の装備を整えてくれ! それから指定した時間で役所に集合だ。そこでクエストの詳しい説明を行うからな! 遅刻あるいは欠席者には相応のペナルティを科すから覚悟しておけよ!」


 そう言うとイルグ達役人らは足早に去って行った。


「だそうだ。少し時間がある。まず俺達もやるべきことをしよう」


「アスム、やるべきことって何?」


「決まっているだろ? ユリとラティを冒険者として登録する。これからのことを踏まえ、やっておいて損はない」


「……そうね、わかったわ。けどラティは大丈夫なの?」


「確かに冒険者登録は12歳からだったか……まぁ年齢の件は俺が上手く誤魔化しておく。なぁに、転生者の俺でさえ存在が曖昧にもかかわらず簡単に入れた組織だからな。その辺は自己申告で済むのだろう」


 アスムにしては杜撰だけど、中にはワケありの冒険者もいるようだし細かい事を問わないのもギルドの性質らしい。

 早速、私とラティは冒険者登録を行った。


「――最高位聖職者アークビショップのユリさんですね。ギルドカードができました」


 受付嬢からギルドカードを受け取る。

 当然のことながら第七級からのスタートだ。

 最高位聖職者アークビショップの割には低いけど、そこを問われないのもギルドの良いところね。


 そしてラティも種族を「人族」として偽り、年齢も12歳と一回り以上も詐称してギルドカードを受け取っている。見た目の割には態度が偉そうで大人っぽい喋り方だから上手く誤魔化せた。


「……ラティの職業は戦士ウォーリア格闘家ファイターの兼務なの?」


「うむ。妾は魔法が使えぬようじゃからな。この辺が妥当だと思って選択したのじゃ」


 そういえば魔王ラティアスって高度な闇魔法を中心に操る魔女だった筈よ。

 主とする邪神パラノアが斃されたことで闇の魔力が消失し、今の幼児化した姿となり魔王だった頃の記憶を失っている。

 とはいえ、随分と思い切ったジョブチェンジだと思った。


「妥当って大丈夫なの? 特に格闘家ファイターなんて無茶もいいところじゃない?」


「しかし腕力には自信があるのじゃ。下手な大人よりもな」


 言われてみればこの子、食い意地の際はとんでもない馬鹿力を発揮していたわ。

 私とニャンキーでさえ取り押さえるのが限界で、仕方なくロープでぐるぐる巻きにしたくらいだからね。


「職種は後で書き換えることができる。色々と経験を積みながら模索するのも有りだろう」


 アスムはラティの肩に手を添え、熟練冒険者っぽいことを言っている。

 精神年齢が高いのは伊達じゃない。

 それから武器屋に行き、前金でラティの装備を整えることにした。


「アスム、妾はこれが良いぞ」


 ラティは飾ってあった大型の『スレッジハンマー』に向けて指を差した。

 本来は杭打ち用であるが、殴打用の武器としても使用できる。


「……重量がありすぎるし、おまけにデカすぎる。もっと身の丈にあった武器にしろ」


「大丈夫じゃ、この程度なら問題ないぞ」


 ラティは20㎏程あろうと思われるハンマーを軽々と持ち上げ、自在に振り回している。

 言うだけあって、とても幼女とは思えない怪力だ。

 アスムは溜息を吐く。


「……わかった購入しよう。ただし魔道屋で軽量化魔法などを施しカスタマイズする。所持するだけでも体力が削らせそうな代物だ。普段はユリの〈アイテムボックス〉に入れてもらえよ」


「えっ、私? アスムだって〈アイテムボックス〉持っているじゃない?」


「すまんが『モンスター飯』の食材と調味料で容量いっぱいだ。とても仲間の所持品を収納するだけの余裕はない」


 思わず「ドヤ顔で言うなよ!」とツッコミたい。

 〈アイテムボックス〉は30個も収納できるのに、その大半を『モンスター飯』に費やすなんてやっぱり病気よ! 病気ッ!


 それからラティの防具を購入する。

 格闘家ファイター(自称)でもある彼女は鋼鉄手甲ガントレッド鋼鉄足甲ソルレットを装備した。

 また『魔道屋』に行き、付与魔道師エンチャンターの店主に武器と防具の攻撃力と防御力の向上、さらに軽量化などの付与魔法を限界まで施される。

 おかげで前金500万Gは綺麗に使い切った。


「うむ! これで妾も戦える身となったぞい! ユリ、其方は妾が守ってやるのじゃ!」


「……ありがと。期待しているわ」


 ちびっ子元魔王に守ってもらう女神ってどーよ?

 こうして準備を整えた私達は役所へと向かった。


◇◆◇


 定刻で向かった役所では既に他の冒険者達が集まっている。

 私達も含め30名くらいだ。

 会議場らしき部屋に案内されると、そこに責任者の班長イルグと15名ほどの役人が座っている。


 促されるまま席に着いた。

 イルグは席から立ち上がり一礼する。


「よくぞ呼び掛けに応じてくれた! ではクエストの詳細を説明しょう――」


 内容はやはり人身売買組織についてだった。

 組織名は『黒き自主独立団ブラック・フリーダム』といい、ノルネーミ共和国内で奴隷商を対象とした人身売買を行っているらしい。

 そして先日、ベルフォード親子が話していた通り村の子供達を拉致しているのだとか。


「……さらにここからは各自他言無用でお願いしたい」


 イルグの重々しい口調で説明を続ける。


 それは衝撃的な内容だった。

 実は国を代表とする評議会の中に組織と密かに内通する者がいるのだとか。


 名はモートスという商人であり、『黒き自主独立団ブラック・フリーダム』と奴隷商人を繋ぐ橋渡しハブ役を担っている。

 ちなみに情報源はモートスの屋敷で雇われていたメイドからであり、彼女は実際の現場を目撃しており身の危険を感じて役所へと密告してきた。

 現在は既に退職しており、安全な場所にいるそうだ。


 評議会の役員達も以前からモートスの行動に不審な点を感じており、密告により確信に至ったという。


「――密告者の話によると、今夜モートスの屋敷で自国の子供達を対象とした人身売買が行われるという情報だ。我らは連中が取引をしている現場に踏み込み、証拠を掴んだ上でモートスごと一網打尽にする! 是非とも諸君らの力を借りたい!」


 まさか評議会の中に裏切り者がいたとはね……それなら捜査が難航する筈だわ。

 これまではそのモートスを通じて全て組織と奴隷商人達に動きが筒抜けだったわけね。

 けど評議会はモートスの正体を知ったことで、それを逆手に取り嘘の情報を流して奴らを油断させているようだ。

 そこで屋敷に捜索差押ガサ入れし、現場を取り押さえて一掃する算段である。


「……急遽、破格の報酬で冒険者を雇ったのも、確実に奴らを壊滅させるつもりなのだろう。そして『黒き自主独立団ブラック・フリーダム』に雇われた用心棒対策だな」


「第一級の冒険者達を重症に追いやった手練ね……つまり私達と戦わせようとしているのね」


「ああ、ユリ。だがしかし、冒険者の等級問わず応募している……ただ頭数を揃えたわけじゃなく、場合によっては俺達を盾にする腹積りかもしれん」


 アスムは冷静に言うとイルグに向けて挙手した。


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