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第79話 ミノタウロスの石焼き焼肉

 アスム曰く、ミノタウロス肉は牛肉と同様に捨てる部位がないと言う。


「ユリ見ろ! このミノタウロスの鮮やかな霜降り状態を! まるで上質な和牛のようじゃないか!」


 シビエと化したミノタウロスを解体した後、アスムは瞳を輝かせて微笑み、処理した肉塊をわざわざ私に見せてくる。

 両腕と衣類には返り血が付着しており、イケメンでなければ完全にサイコパスな光景だ。

 てか、いちいち見せに来なくていいからね……。


「た、確かに見た目は牛肉っぽいわ」


「ああ、だが見ての通りそれ以上に筋肉繊維部分がやたらと太く厄介だ――俺の〈肉筋斬ミートスラッシュ〉で全ての繊維を断ち切り柔らかく処理することができる!」


 アスムは断言し、まな板で加工した肉に向けて何度も必殺技を叩き込んでいた。

 その間、弟子のエルミアが用意されたマンドレイクの皮を剥き、ニャンキーが包丁で切っている。アスムの指示とはいえ、抜群の連携力を発揮した。


 また一方で、


「――勇者アスム、言われたとおり〈錬成〉を終えたわよ」


 勇者イオリ・パーティの魔法術士ソーサラーシルビナが言ってくる。

 彼女の背後には勇者イオリとドワーフ戦士ダリアが、2cmほどの厚みで平たく大きな石で加工された重そうなプレートと同サイズで凹型の台座を持っている。


「うむ、見事な出来栄えだ。流石は勇者パーティの魔法術士ソーサラー、次に台座をセッテングして〈熱伝導ヒート〉魔法でプレートを温めておいてくれ」


「……いいけど、肉を焼くなら火の魔法がいいんじゃない? 道具だってフライパンでも良かったでしょ?」


「それでは味気ないからな……焼肉と言っても色々な調理法がある。どうせなら皆で囲んで美味しく食べれる方がいいだろ?」


「シルビナ、明日夢殿の言う通りだぞ。これは『石焼き用』のプレートだな?」


 イオリが口を挟む形で訊ねている。

 アスムはフッと微笑を浮かべた。


「同じ転生者だけあって、伊織さんは話がわかる。その為に、ガーゴイルの破片を『焼肉用プレート』と『台座用』に〈錬成〉してもらったんだ。協力してくれたお礼を兼ねて、皆で一緒に食べよう」


 え? イオリ達が持っているアレ、さっき回収したガーゴイルの破片で作られているの!?

 でもどうして、ガーゴイルの破片なの?

 高度な魔法で〈錬成〉したとはいえ、なんかばっちそうなんですけど……。


 アスムが説明するには、なんでもガーゴイルの肉体は『溶岩石』に近い気泡が多い石素材で作られており、均一に熱が伝わりやすいのだとか。


 まさか調理する器材まで魔物が使われるなんて……『モンスター飯』、恐るべしだわ。

 私が引いた眼差しで見ている中、アスムがキラキラした瞳を向けてくる。


「どうだ、ユリ! あれだけ無駄だと思った、ガーゴイルの素材を活かす時がきたぞ!」


 だからどうして、いちいち私に振るの!

 まるで私から催促したみたいに聞こえるじゃない!

 さっき「焼肉ぅ!」と大声ではしゃいでいたの、あんたとラティの二人だからね!



【ミノタウロスの石焼き焼肉】

《材料》

・ミノタウロスの肉(各部位)

・マンドレイク赤色(サツマイモ風味)

・マンドレイク黒色(ナス風味)

・マンドレイク緑色(ピーマン風味)

・マンドレイク橙色(パプリカ風味)

・玉ネギ

・もやし


《調味料》

・植物油(自家製)

・バター(自家製)

・自家製焼肉のたれ


《調理器具》

・ガーゴイルの石焼プレート

魔法術士ソーサラーシルビナの〈熱伝導ヒート〉魔法


《手順》

1.ミノタウロス肉の各部位を薄く均等に切り室温で置きます。

2.各マンドレイク、玉ねぎを切る。もやしはひげ根を取りましょう。

3.ガーゴイルの石焼プレートを〈熱伝導ヒート〉魔法で熱しておきます。

4.熱したら植物油とバターを入れ、ミノタウロスの肉と野菜類を焼きます。

 特に野菜類は混ぜながら焼いていきましょう。

5.香ばしく焼けたら出来上がりぃ! 焼肉のタレをつけて食べましょう!



 こいつ密かにマンドレイクを全コンプしていたのね!

 食材不足とか言って、しれっと〈アイテムボックス〉に保管していやがったわ!


「――完成ッ、と言いたいが実はこれだけでは終わらない」


「え? アスム、他に何かあるの? ご飯とか?」


「勿論、それもある。焼肉といえば当然、白飯だ。それに納豆もあるぞ」


 焼肉に納豆か……マニアには乙の組み合わせね。

 いや、そうじゃないわ。

 他に何か作ったのかしら? 見たところ焼肉以外は何も作ってなさそうだけど……。


 すると、アスムは〈アイテムボックス〉から複数の瓶を取り出し簡易テーブルの上に置いた。


「こんなこともあろうかと、材料が揃った時に作っておいたんだ――」



【焼肉のタレ(モンスター飯版)】


《材料》

・黒色マンドレイクの実(赤唐辛子風味)

・橙色マンドレイクの実(レモン風味)

・アメーバ(トロミ程度)


《調味料》

・ごま油(自家製)

・醤油(自家製)

・にんにく(市販購入)

・砂糖とお酒(自家製)

・いりごま


《手順》

1.予め各マンドレイクの実とにんにくを摺り下ろします。

2.フライパンにごま油、にんにくを入れ弱火で香りが出るまで炒めます。

3.香りが出てきたら、いりごま以外の材料を全て投入します。混ぜながらぶくぶくと泡が出るまで熱しましょう。

4.火と止めたら、いりごまを入れて冷めたら完成です!



「焼肉といえば、タレェ! これがあって肉と白米が絶妙に調和され活かされると言っても過言じゃないだろう!」


「くぅ~っ! 肉だけに憎い! 憎すぎる演出だのぅ、アスムゥゥゥ!! 褒めて使わずぞぉぉぉぉいぃぃぃ!!!」


 アスムとラティが再びテンションを上げる。

 相変わらず超うざいコンビだけど、ラティってば何気に上手いこと言ったわ。


 それから大きな平たいテーブルのような石焼プレートを囲む形で私達は座った。


 考えて見れば、イオリ達と一緒に食べるのって初めてね。

 互いに灰汁が強いけど、私が認める二人の転生勇者……他の勇者達もこうして仲が良ければいいんだけど。


 ジュウゥゥゥ


 石焼プレートの上で焼かれる並べられた各部位の肉。

 いい感じで油がのり香ばしい音を鳴らしながら、私達の鼻腔を刺激して魅了してくる。


 ごくり


 やばい。


 ぶっちゃけ、超美味しそうだ。

 いえ、絶対美味しいに決まっているわ!


 そして、アスムとイオリに倣って全員が合掌する。


「いただきます!」


 命を頂く通過儀式を終え、各々が焼けた肉摘まみタレに漬けて口にした。


 刹那、


「うま~~~い!」


 当然の如く、私を含め皆から感想が漏れた。


「下処理があってか、ゴムみたいで硬いって聞いたけど、とても柔らかくてジューシーに焼き上がっているわ! タレも甘辛風でご飯に合って美味しい!」


「ユリ、下処理だけのおかげじゃないぞ。石焼プレートで焼くことで均一に熱が伝わっているためでもある」


 隣で腰を降ろすアスムが爽やかに微笑み言ってきた。


「つまりフライパンで焼くのとは違うってこと?」


「そうだ。この石焼プレートは〈熱伝導ヒート〉魔法で熱を加えることで、遠赤外線で焼かれている。遠赤外線で焼くことで肉表面のタンパク質を高温で焼き、じっくり固められるから、旨味が逃げることなく肉汁が中に閉じ込められるんだ」


「うむ! だから肉や他の食材も外側がカリッとし、香ばしい風味が加わっておるのじゃな! 中もふっくらと噛み応えのある深みある味わいとなっておる! それぞれの肉がタレに程よく絡まり、肉汁ごと噛めば噛むほどに口の中で踊り溢れているように美味じゃ!」


 アスムのうんちくに、ラティが幼女らしからぬ秀逸の食レポを被せてきた。

 いつも思うけど、この子、魔王だった頃も美食家だったのかしら?


「確かに石焼だと炭火調理と比べて焦がさず失敗しにくいニャア」


「拘った先にある美味! これが『モンスター飯』の真髄なのですね、先生!?」


 ニャンキーとエルミアも焼肉を頬張りながら感想を漏らしている。


 勇者イオリ達も「これは美味い、美味すぎる!」、「やばいよ、これぇ!」、「魔物肉だとわかっていても食が止まりません!」、「協力して正解だったわ!」、「……絶対に文句なし」、「普通の肉より美味しいんじゃないのぅ!」と大絶賛だ。


 特にイオリは白ご飯に納豆を掛けながら食べており、「懐かしすぎて涙が出てくる……」と瞳が潤んでいた。

 そんな和気藹々と焼肉を楽しむ中、ふとアスムは箸を止める。


「伊織さん……確か迷ったと言っていたが、今は何処を目指しているんだ?」


 基本『モンスター飯』以外のことには無頓着なアスムが気になるのも無理はない。


 勇者イオリ・パーティは未だ『魔王討伐』に躍起になっているからだ。


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