目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

第80話 無双する勇者二人

「ん? 我らはイサラン国を目指している」


 アスムの問いに、イオリはしれっと答えた。


 イ、イスラン国って、以前会った時に目指していた国じゃない!

 まさか、まだ辿り着いていないのぅ!?

 あれから何ヶ月経っていると思っているわけ!?

 やべぇよ、この百合集団! とんでもねぇ方向音痴だわ!


「……マジか、そりゃ難儀だな。だったら、この大トンネルを抜けるまで一緒に行動をしないか? 幸い俺達が目指す鉱山地帯『ドワーフの集落』も同じ出口の方だからな」


「本当か、明日夢殿? それはかたじけない……正直、我らだけでこの迷宮を抜け出せるか不安でしかなかった。勇者である以上、いたずらに他の冒険者に頼るわけにもいかなかったか事情もあり、仲間からも『知らない男に頼りたくない』と意地になってからな」


 確かにね。勇者パーティが方向音痴を理由で一般の冒険者に泣きついたら本末転倒よ。

 まぁアスムとは、それなりに親交もあるし男嫌いのパーティ女子達も嫌と言わないでしょう。


 実際にパーティの女子達から不満の声はなく、「勇者アスムなら信頼できるし、イオリ様が仰るなら別にいいよ」と返答があった。


「では決まりだ。共闘する間、食料関係は全て俺に任せてくれ。また唯一食べれない、ミノタウロスの目玉と角は戦利品として、伊織さん達にあげよう。旅の路銀にでもしてくれ」


 最近、懐が暖かいからか羽振りが良いアスム。


「おお、どれも換金すれば高額で売れる代物ばかりじゃないか……前回といい、何から何まで恩に着る。いつか必ず返すぞ」


 こうして大トンネルを通過するまで、勇者イオリ・パーティが仲間に加わった。

 けど、あくまで私とラティの正体は内緒にしておいた方がいいわ。

 特にラティなんか、もろ討伐対象だしね。


 それからの道のりは、イオリ達の独壇場と言っても可笑しくなかった。


「――〈絶刃領域アブソルート・ブレイド〉!」


 主に戦闘面では、勇者イオリが前衛で戦ってくれたからだ。


 特に彼女の固有スキル、〈絶刃領域アブソルート・ブレイド〉は凄まじかった。

 射程距離は約15メートル、その範囲内に侵入した敵を縦横無尽に斬り裂く能力だ。

 おまけに敵がどれほど頑強だろうと、存在が曖昧な幽体だろうと関係ない。魔法攻撃だろうと射程に入れば全て対象となる。

 さらにイオリが仲間と認めた者には一切の危害がなく、親交を深めたアスムを始め私達も対象となっていた。


「これは全盛期の勇者パーティ並みに楽ちんだニャア」


 普段は真っ先に身を隠す臆病猫のニャンキーも安心して胡坐をかいている。


「どれ、俺も戦いに参加してみようか――」


 アスムは〈アイテムボックス〉から二つの紐が付いた布を取り出した。

 何やら布の中央にガーゴイルの破片であった石を乗せて、一つの紐を小指に絡ませた。そしてもう一つの紐を親指と人差し指で摘むと高速に振り回し始める。


 ――ブォォォォォォォォン!


 !? は、速ぇ! 超速ぇぇぇぇ!!

 回転だけでも既に音速を超えているんじゃないのぅ!?


 半端ない風切り音が鳴り響く中、私は度肝を抜かれた。


 刹那、


 ヴォォォン!


 最早、視認不可能な速さで破片の石こと『投弾』が発射される。

 それは優に弾丸の威力を超えていた。


 一瞬でガーゴイルの強固な頭部を射抜き、後方の壁すら砕き貫通する威力だ。

 さらに複数の投弾を布に乗せることで複数発射や連続発射が可能であり、イオリの〈絶刃領域アブソルート・ブレイド〉から射程外の敵をほぼ一瞬で殲滅していく。


 す、凄すぎる!


 これがニャンキーの言っていた、アスムの超エグすぎる『|投石器〈スリング〉ショット』の威力なの!?

 そりゃ邪神パラノアも虚を衝かれるわけよ!


 結局、この二人の勇者が無双して出現する敵を全て駆逐したようなものだ。

 おかげで、イオリのパーティ仲間も出る幕がなく呆然と見入っていた。



 そうして繰り返し進むこと五日後。

 私達はようやく『いしにえのドワーフ大トンネル』を通過することができた。


「おお、ついに迷宮から抜け出すことができたぞ! 道案内をしてくれた明日夢殿達には感謝しきれない!」


 イオリは久しぶりに目の当たりにした青空を見て感慨深く礼を言ってくる。

 なんでも私達と出会う前、約1カ月ほど迷路にハマっていたらしい。

 よくアスムみたいに壁をブチ壊そうとしなかったものだ。


「いや、こちらもミノタウロスの肉の件や戦闘面では大いに世話になっている。ウィンウィンっというやつだ」


「そうか……それなら貸し借りはナシってことだな」


「まぁな。ところで伊織さん達は、やはりイサラン国を目指すのか?」


「うむ、そうだ。魔王城を見つけ出すためにも何か手掛かりがあるかもしれん」


 やっぱり彼女達は魔王討伐を諦めていない。

 てか、肝心の邪神はとっくの前に斃されて昇天し、討伐対象の魔王なんて私の後ろで蒸かしたマンドレイク(ジャガイモ味)を美味しそうに頬張っているわ。


「……わかった。どうか気をつけてくれ。ああ、それと道に迷わないよう冒険者ギルドで臨時の支援役サポーターを雇うのも一つだぞ。このニャンキーも同じパーティだが雇用契約の下で仲間になってくれている」


「そうだニャア。月々30万Gで引き受けているニャア」


「おお、可愛らしい猫ニャン……じゃなかった、ニャンキー殿とはそういう関係であったのか。モフモフのミーア族か……良いかもしれん!」


 ちなみに勇者イオリは大の猫好きである。

 そんな彼女の背後では、仲間のダリア達が「イオリ様、雇って良いけど女子にしてよ」と注文している。

 なまじ百合パーティだから男は不要ってことらしい。


 てか、アスムもぶっちゃけイオリ達には迷わせた方が私達的には都合が良くね?

 そう清く正しい女神でありながら、ついよこしまな考えが過ってしまうけど……イオリ達のポンコツぶりを目の当たりにしちゃうと、つい助言の一つもしたくなるわ。


「では明日夢殿、世話になった。また何処かで会おう! ユリ殿も達者でな!」


「ああ、伊織さん達も元気でな!」


 アスムは爽やかに手を振り、私は彼の背後に隠れるように「……じゃあね」と控えめに手を振った。

 だってイオリのパーティ女子達がガン見してくるんだもん。

 私、そっち系じゃないのに……もう怖っ。


「よし、俺達も鉱山地帯の『ドワーフの集落』に行くぞ!」


 かくして勇者イオリ達と別れ、私達も自分らが目指すべく目的地へと赴く。



 数日後。


 ようやく鉱山地帯らしき山脈が見える場所まで到達した。


 深々と緑が覆い茂った山ばかりだが、所々で人為的に伐採され山肌が露出されており、点々と小さな小屋のような物が建てられている。


「あの山脈一帯がドワーフの採掘場だ――よし、ビンゴだ! 山代の山もあるぞ!」


「え? ど、何処? さっぱりわからないんだけど……」


 全てが同じ山に見える。


「そうか、確かに肉眼ではわかりにくいかもな……何せ奴の固有スキル〈神の山脈マウンテンズ・オブ・ゴッド〉は他の山と同化して擬態も可能だ」


 そう教えてくれるアスムの双眸から固有スキル〈調理材料の慧眼イングレディエント・キーンアイ〉が浮かび上がっていた。


 なるほど、アスムでなければ判別できないってわけだ。

 だから勇者ジュンは彼にだけ言伝を伝えて引っ越したのね。


「アスム、予定どおりマインに会いに行くニャア?」


「ああ、その方が山代とも話やすいだろう。鉱山の麓にある集落に彼女がいる筈だ」


 ニャンキーの問いにアスムは答え、「今時期の夜は冷え込むから、その前に辿り着きたい。急ぐぞ」と告げて歩き始める。


 数時間後、目的地の一つである『ドワーフの集落』に辿り着いた。


 村の入り口には、二名のドワーフが槍を持って待機している。

 彼らは自警団の番兵役であり、アスムの顔を見た途端「あっ! お前は、あの時の狂人勇者!」と声を荒げた。


 また酷い言われようだ……慣れたけど。

 つーか、アスムさん。この村で何やらかしとんねん。


 しかし彼は意に介さず「中に入れてもらうぞ」と告げ、番兵のドワーフから「仕方ない入れ」とほぼ顔パス状態で村に入ることができた。

 すると上空から、ぱらぱらと白い何かが幾つも降り注いでくる。


「雪か。考えてみれば人数分の冬装備が無かった……ついでにこの村で購入しよう」


 アスムが言うには最北地域だけに相当な積雪量となるらしい。


 しばらく歩くと、寸胴の体格であるドワーフ達から明らかに浮いた存在と遭遇する。

 漆黒の魔道服ローブを纏う随分と若く綺麗で可愛らしい丸眼鏡を掛けた少女だ。

 おまけに胸が大きい。


「……アスムさん?」


「やぁ、マイン。久しぶりだな」


 この子が元勇者パーティの魔法士ソーサラーマインね。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?