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第90話 黄金の流星団

 どうやらアスムが「烏合の衆」と罵ったことが、【黄金の流星団】副団長ミハインの勘に触ってしまったようだ。


 つーか、それが理由でクエーサーを使って私達を轢こうとするのってどーよ?


 冗談じゃ済まされないんですけど!


 対するアスムは至極平静であり、「いやはや……」と呟き、深々と頭を下げてみせた。


「聞こえていたのならすまん……俺は集団クラン規模の冒険者パーティには些か苦手意識があってな。いや本当に悪かったよ……」


 なんでも過去、アスムが『モンスター飯』の素材に狙っていた大型の魔物を集団クラウンの冒険者達によって何度か横取りされていたことがあったのだとか。


 いくらチート級のフィジカルを誇る彼でも、所詮は『個』であり多勢の『組織』には遅れを取ったと語っている。


 またアスムは勇者である以前、冒険者としても最速ルーキーとして名を轟かせると同時に、その活躍を快く思ってない冒険者達も少なからずいたようだ。


 そういえば『古のドワーフ大トンネル』でもミノタウロスを取られないよう、猛ダッシュで迷宮の壁に必殺技を叩き込んでブッ壊してたいわね?


 アスムの謝罪に、攻撃的だったミハインの雰囲気がすぅっと解けて柔らかくなる。


「ははは、そうでしたか。こちらこそです。確かグサンタム帝国に向かっていると仰っていましたね?」


 この小人妖精リトルフの副団長、やっぱ地獄耳ね。


 でもどうしてわかったのかしら? 何かの技能系、あるいは彼の固有スキルとか?


「そうだが、何か?」


「実は僕達【黄金の流星団】も、グサンタム帝国へと向かっておりまして――よろしければご一緒に乗って行きませんか?」


 いきなりの申し出に、アスムは「なんだと?」と首を傾げる。


「ということは、あんたらも突如出現したとされるダンジョン攻略が目的か?」


「はい。グサンタム帝国は冒険者ギルドが存在せず、今回そのダンジョンが出現したことで異例に冒険者の募集をしております。未踏の国で攻略することで、よりパーティの名を世に広める機会でもありますから。なので我らと共に如何ですか?」


 つい先程とは売って変わって友好的なミハイン。


 ――正直、悪い話じゃないわ。


 私達の本当の目的は、地下に潜伏し密教を広める邪神イシュタム派の邪教徒を探ること。


 そのためにダンジョン出現にかこつけて入国を試みようとしていたからね。


 だから尚更、ミハイン達について行くことで怪しまれず入国することが出来る筈よ。



 それに歩き疲れていたから身体を休めながら移動できるという利点もあるわ。


 けど、まんまと乗っかって良いのかと考えてしまう……さっきの一件があるだけに。


 このミハインという小人妖精リトルフを信用していいのかしら?


「……ところで、ミハイン君。運搬車両ワゴンに調理場が備わっているのか?」


 唐突に妙なことを訊いてくるアスム。

 あんたそれ、今は関係ない話よね?


 ミハインは嫌な顔せず爽やかな微笑を浮かべ首肯する。


「ええ、勿論。最新設備を投入し食材も豊富に揃えており、専属のコックもおりますが……それが何か?」


「ちなみに俺が使用することが可能か? 食材はこちらで用意したモノで調理したいのだが?」


「ええ、僕は別に構いませんよ」


 その回答に、アスムは「よし!」と力強く頷いた。


「ならば目的地まで厄介になろう! よかったな、ユリ! 好きな時に『モンスター飯』が食えるぞ!」


 だからどうして私を名指しするの!? やめてぇ! まるで私が催促したかのようになっているんじゃない!


 てか私、そんなに『モンスター飯』食べるの楽しみにしてないから!


 こうして私達はしばらくの間、【黄金の流星団】と行動を共にすることなった。


◇◆◇


 外観と同様に内部は分厚い鋼鉄に覆われた巨艦だった。

 しかし通路の方は思いの外狭いようで、かなりの閉塞感がある。


 二列で歩くのがやっとで、緊急時以外は歩く方向が決まっているとか。

 まるで船内のような造りだが、実際に乗組員はここを「陸地を渡る船」と例えていた。


「僕は団長に報告してくるから、アスムさん達に艦内・ ・を案内してやってくれ」


「わかったよ、兄貴。んじゃ行くぞ、お前ら」


 ミハインと別れ、ダリオの後へとついて行く。


「ダリオ君、まずは厨房を見せてくれ」


「相変わらずだな、アスムは……駄目だ。お前のこった、厨房に入り浸るに決まっている。コックにいちゃもんつけて揉められても厄介だから、そこは最後だからな!」


 流石は戦友。アスムの狂人ぶりを理解している。

 ずばり言い当てられた彼は「チッ」と舌打ちしていた。


「……先生、ここだけの話ですが、ワタシはどうもミハインという小人妖精リトルフが信用でき兼ねません」


 エミリアがアスムの耳元でぼそっと囁いている。

 それは隣で歩く私にも聞こえていた。


 ついさっきまで私も同じことを考えていただけに、エルミアの気持ちがわかる。


 あの時、本気で私達を轢き殺そうとしていたのなら相当ヤバイ奴だ。

 寸止めで終わったのもアスムが勇者だと知り、従弟のダリオと繋がりがあるとわかったからかもしれない。


 あるいはアスムの反応を試したのか……割と名が知れているだけに。


「そうだな、エル。俺も同じ見解だ」


「なんと?」


「ダリオ君の親戚だからとはいえ油断してはいけない。ああいうタイプは常に裏表があるからな。クエーサーで俺達を轢こうとしたのも半分は本気、もう半分はハッタリだと俺の〈調理材料の慧眼イングレディエント・キーンアイ〉で看破している」


「ええ!? お、おまっ……それ知っていて、のこのこ乗船したのかよぉぉぉ!?」


 私は思わず大声でツッコんでしまう。


 当然ながら先頭を歩くダリオに聞こえてしまい、「ん? ユリさんどうした?」と問われ、私は「おほほほ、なんでも」と典型的な言い訳でなんとか誤魔化した。


「……ユリ、聞こえていたのか? 案外お前も地獄耳だな」


「うっさいなぁ! それでアスムにはどういう意図で誘いに乗ったのよ!?」


「無論、決まっている――そこに厨房があるからだ!」


「は?」


「料理人である以上、この船でどのような厨房で如何なる料理が作られているのか気になると思わないのかね、ユリファくん?」


「いや言っている意味わかんないし……少なくとも命を狙ったかもしれない輩に招かれて、安易に来て良かったのかって話よね?」


「俺は後悔しない! 後悔する時は小汚い厨房を見てしまった時だけだ!」


 あっ駄目だ、こいつ。


 完全に狂人スィッチが入ったみたい。


「流石です、先生! どのような状況下でも『モンスター飯』への飽くなき探究と研鑽! 心から尊敬しますぞ!」


 おいバカ弟子、お前もいい加減にしろよ!


 どんだけ前向きなのよ! 某ラノベの馬鹿ヒロイン並みに、そんなイカレ主人公様を持ち上げてワッショイしてんじゃないわよ!


「ちょ、マイン……博識の魔法士ソーサラーの貴女からも何とか言ってあげて。パーティの知恵袋でしょ?」


「あらあら、ユリさん。これぞ、虎穴に入らずんば虎子を得ずですよぉ」


 え? え? どういうこと?


 それって、リスクを冒して行動しなければ、大きな成果を挙げることはできないって意味?

 大きな成果って何!? モンスター飯!? てか舐めてんの!?


 もう、わけわかんないわ!


「……ニャンキーなら大人だし、私の言いたいことがわかるわよね?」


「勿論だニャア、ユリさん! この脳ミソがお花畑みたいな連中は危機感がまるでないニャア!」


「そうそう(けど脳ミソお花畑って意外と口が悪い猫ね……)」


「だからいざって時はボクだけ逃げるニャア! 既に逃走経路は確保しているニャア!」


「自分だけ逃げる前提かよ!? 憶病飛び越えて卑怯なんですけど!」


 どいつもこいつもポンコツというより自分勝手なだけじゃない!

 まともな奴いないわけ!?


「ユリ、妾は腹が――」


「あとで聞くからね」


 悪いけど、ラティの意見を聞いている場合じゃない。

 どうせ「腹減ったぞぉ」とボケるつもりでしょ。全然議題と関係ないじゃない。


『ご安心くだサイ、ユリ様。いざとなれば、このディフが戦闘モードで脱出いたしマス。成功確率65%デス』


 おお、唯一まともな仲間がいたわ! でも種族じゃなく魔法生物の小型ゴーレムだけど。


 けど、あれ? 成功確率……やたら低くね?


「一応、各部屋にベッドとトイレとシャワーがついているぜ。けど移動中は使用制限があるから注意だからな」


 通路の突き当りで、ダリオは説明しながらスライド式の扉を開けた。


 刹那、


「いや~ん、エッチィ!」


 部屋にはパンツ一丁の裸のお兄さんが腰をくねらせ身悶えている。

 何故かオネェっぽく両胸を手で覆い隠しながら。


「こ、今度は何ッ!?」


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