パリス・パーリ帝国に完全勝利を収めた翌日のリバース・ロンドン魔法女子学院にて。
アリアさんは教職員と生徒たちを大ホールに集めて祝勝パーティーを開催していた。
そんな中、本日の主役である俺様ことタマオ・キンジョーは――
「勇者様さぁぁぁっ!」
「腹筋っ! 腹筋を触らせてぇぇぇぇぇっ!」
「勇者さま! アタシ二の腕! 二の腕を触りたい!」
「チ●チンッ! チ●チンが見たい! 勇者さまのチ●チンがっ!」
「アッハッハ! コラコラ? 離れろ、メスガキ共? ――って、おい誰だ!? さっきから俺のケツをまさぐってるクソビ●チは!?」
――発情した女子生徒たちに身体をまさぐられていた。
「チクショウ!? 離れろメスガキ共! 俺は男に簡単に股を開く自動ドア女には興味ねぇんだ!」
「うわっ!? 腹筋カッチカチだぁ! 男スゲェ!?」
「二の腕なんかもう丸太だよ、丸太! やっぱ私らとは身体の作りが全然違う!」
「くぅっ!? 何故だ? あの男に触っていると、お股の間から水魔法が炸裂しそうになる……っ!? これも男の力なのか!?」
ベタベタ! ベタベタ!
人の話などお構いなしに、俺の腹筋や二の腕を、首筋や太ももを触って来る女子生徒たち。
その姿はもはや、女体を前にした男子高校生のソレ!
「えぇい! 離れろ、お前ら……凄い力だ!? ちょっ、リリアナちゃん! 見てないで助けて!?」
「おさわり1回500円! おさわり1回500円だよぉ!」
「おい、ふざけんなエセプリンセス!? ナニ勝手に人で商売始めてんだ!?」
近くに居たリリアナちゃんに助けを求めるも、募金箱を片手に俺をダシにして商売を始めていた。
一国のお姫様がすることじゃない……。
商魂
「わ、ワタシ1000円払うから2回おさわりね!」
「ぼ、ボクは3000円! 3000円払うから3回! 3回おさわりで!」
「1万払うからチ●チンをしゃぶらせてくれ!? 頼む!」
「まいどあり~っ! えへへ♪ これで1年間はお小遣いに困らないや!」
募金箱片手にほっくほく顔のリリアナちゃん。
もう最初に会った時の可憐なイメージは全て吹き飛んでしまったよ。
俺、この子にファーストキスを奪われたんだよな……。
ふざけんな!?
返せ、俺の
「はいはいっ! あなた達、そこまでです」
発情する女子生徒たちを窘める澄み切った声音が、ホールの中へ響き渡った。
その妙に耳に残る声音に、全員がピタッ! と動きを止める。
女子生徒たちの視線の先、そこには今まで『我関せず!』を決め込んで静観していたアリアさんが面倒くさそうに肩を竦めている姿が目に入った。
「カエル族の淑女たるもの『優雅』であれ。まったく……男性が珍しいのは分かりますが、もう少し慎みを覚えなさい」
「「「「はぁ~い……」」」」
「ほら、全員タマちゃんさんから――勇者様から離れなさい。淑女らしくホールの中央で踊って来なさい、これは学園長命令です」
「「「「えぇ~っ!?」」」」
途端にそこらかしこからブーイングの嵐が巻き起こった。
「アリア様だけ勇者さまを独占するなんてズルいぃ~っ!?」
「横暴だ! 職権乱用だ!?」
「あーし
「待ってください、アリア様! せめてチ●チンだけでもしゃぶらせて――」
「シャラップ! 大人しく命令に従わないと全員、今期の単位を1つ落としますよ?」
「実はアタシ、超ダンスしたかったんだぁ!」
「あーしも! もう踊りたくて身体がウズウズしてたぜ!」
「神が言っている、ここで踊る
「チ●チンよりも大切なモノが、そこにある!」
一瞬。
一瞬である。
アリアさんの一喝により、俺の周りに群がっていたメスガキ達は蜘蛛の子を散らすように一斉にホールの中央へと駆け出して行った。
この欲望に忠実なところ……嫌いじゃないぜ?
なんて事を考えていると、お金の詰まった募金箱を片手にリリアナちゃんが笑顔で俺のもとまでやって来た。
「いやぁ、大変だったねタマちゃん? お疲れ!」
「リリアナも踊ってきなさい。これはお姉ちゃん命令です」
「えぇ~っ!? ボクも!? 嫌だよ、面倒くさい」
「でないと、その募金箱を
「ガイアがボクに踊れと囁いている!」
パピューッ! と勢いよくホールの中央へと駆けだして行くリリアナちゃん。
やはり俺は彼女のことが大好きかもしれない。
「お疲れ様でした、タマちゃんさん」
「ほんと疲れたわ……。もう横になりたい」
「でも、女の子に囲まれて嬉しかったのでしょう?」
珍しく機嫌が良いのか、アリアさんは子どもっぽいイタズラめいた口調で俺の肩に自分の肩をトンッ! とぶつけた。
確かに女の子にチヤホヤされるのは、男として最高に気分が良いが……。
「勘弁してくれ。前にも言ったが、俺は男に簡単に股を開く女はノーセンキューなんだ」
何度も言うようだが、俺は『彼女は欲しいがビッチは死ね!』を信条にしているナイスガイだ。
歩く性病の塊のような女など、悪いが金を貰ってでもお断りだ!
なんて思っていると、何故かアリアさんがムッ! とした表情になった。
「人の教え子をビッチ扱いするのはやめてください。それに女の子にチヤホヤされるのも今の内だけですよ?」
「??? どういう意味?」
「そのまんまの意味です」
アリアさんは【使い魔契約】のルーンが刻まれた自分の首回りを指先で優しくなぞりながら、
「外の世界にはタマちゃんさんよりもカッコイイ大人の男性が大勢いますからね。我が国の女性と違って、他所の国の女性はチヤホヤしてくれませんよ?」
「ふんっ、別にいいもんね! 俺ドMだし、優しくされるより叱られる方が興奮するし!」
「いやタマちゃんさんの性癖なんか知りませんよ……。ハァ……これから一緒に旅をするというのに、先が思いやられますね」
アリアさんの溜め息が楽し気なホールの空気に混ざって溶けていく。
俺はその様子を横目で観察しながら、
「えっ? えっ!? もしかしてアリアさん、俺の旅についてくる気なの!?」
「??? もちろんですけど?」
それが何か? とさも当たり前のようにそう口にするお姫様。
いやいや、初耳なんですけど!?
「なんで!?」
「『なんで』も何も、【使い魔契約】の制約をもう忘れたんですか?」
「あっ」
そこでアリアさんが何を言いたいのか理解した。
そうだった。
アリアさんは俺から半径1メートル以上離れる事が出来ないんだった。
色々あってすっかり忘れてたわ……。
「大変不本意ですが、タマちゃんさんの旅のお供としてワタクシも一緒に同行しますよ。幸い2人とも目的地は同じですし、【使い魔契約】を破棄するまでは仲良くしましょう」
そう言って『しょうがない』とばかりに肩を竦めるアリアさん。
そう言えば珠子が言ってたっけ?
俺の元気玉と【使い魔契約】を破棄する方法が南東の島国――ネオ・ジパングにあると。
確かにアリアさんの言う通り、俺と彼女の利害は完全に一致している。
なんだか作為的なモノを感じるほどに。
「あれ? でも学院はどうするの? 学園長やめるの?」
「やめませんよ? 学園長もお姫様も一時休業です」
代わりはリリアナにでもやらせましょうか、と口にするアリアさん。
それは止めた方がいいんじゃないかな?
確実に俺達が戻って来るまでの間に国が
いいの、帰ってくる場所が無くなっても?
本当にいいの?
「それでは今後ともよろしくお願いしますね、タマちゃんさん」
そう言って花が綻んだようにニッコリ♪ と微笑むアリアさん。
そのロイヤルスマイルは実に可愛く、鋼の理性と信念を持っている俺でなければ今頃、彼女にプロポーズして不敬罪で処刑されている所だ。
アリアさんの邪気のない笑顔に思わず見惚れていると、何のリアクションも返さない俺を不審に思ったのか、彼女はコテン? と首を傾げた。
「タマちゃんさん……?」
「あぁ~……その、なんだ? いい加減『タマちゃんさん』呼びは止めてくれ。股間がムズムズする」
「性病ですか?」
A,違います。
「では、何とお呼びすればよろしいですか?」
「えっ? そうだなぁ……アリアさんが呼びやすい名前なら何でも」
「何でもですか……分かりました」
それが一番難しいのですが、と唇を尖らせるアリアさん。
別にそんなに悩まなくても、普通に苗字で呼んでくれて構わないのに。
俺への
その姿はまるで1枚の絵画のように美しく、うん。
やっぱ美人は何をやっても絵になるなぁ。
なんて場違いの事を思っていると、何か思いついたのか「あっ!」と頭の上の豆電球がピコンッ! と光った。
「決まった?」
「決まりました!」
「よし、なら今後ともよろしく」
「はい! よろしくお願いします、シューティングスター・ハイブリットブレイブ・マキシマムキャノン・ザ・ライジングスペシャル・ウルトラエディション・ドリームエクストリーム・ファンタスティックマジカル・スーパーマイティードラゴンタイタン・グレートプロミス・スターチャリオット・ピピ・ピピピピピピピ・エスカリボルグ」
「寿限無かな?」
ネーミングセンスを母親のお腹の中に置いて来たとしか思えない。
「もう普通に『金城さん』でいいよ」
「いえ、ソレだと普通すぎてツマラナイです。却下です」
「でも、シューティング何たらとは呼ばれたくないしなぁ……」
「『シューティング何たら』ではありません! シューティングスター・ハイブリットブレイブ・マキシマムキャノン・ザ・ライジングスペシャル・ウルトラエディション・ドリームエクストリーム・ファンタスティックマジカル・スーパーマイティードラゴンタイタン・グレートプロミス・スターチャリオット・ピピ・ピピピピピピピ・エスカリボルグです!」
「気に入ってるの、ソレ?」
はいっ! と元気よく頷くアリアさん。
実に気持ちのいい返事だ。……気持ちの悪い渾名を考えるクセに。
俺が乗り気でない事に気づいたのだろう。
アリアさんは『しょうがないなぁ』とでも言いたげに肩を竦めながら、「分かりました」とその果実を彷彿とさせる唇を動かした。
「では我が国を救っていただいた事ですし『勇者様』でどうですか?」
「勇者か……うん。わかった、それでいこう」
正直『勇者』呼びは気恥ずかしかったが、シューティングスター・ハイブリットブレイブ・マキシマムキャノン・ザ・ライジングスペシャル・ウルトラエディション・ドリームエクストリーム・ファンタスティックマジカル・スーパーマイティードラゴンタイタン・グレートプロミス・スターチャリオット・ピピ・ピピピピピピピ・エスカリボルグと呼ばれるよりはマシである。
……よく言えたな、俺? やるじゃん♪
もしかしたら俺の天職は探偵じゃなくて声優さんなのかもしれない。
自分の才能に戦々恐々としていると、アリアさんは「では改めまして」と真面目な顔で俺に向き直った。
「今後ともよろしくお願いします、勇者様」
「こちらこそよろしくね、お姫様」
そう言って