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第6話 マスカレイド

 こちらを不敵な笑みを浮かべるマスカレイドを見た師匠が彼の視線を追ってぼく達を見つけると普段は見せないような真剣な顔をして口を開こうとするが、魔導工房から青く輝く魔力の明かりが周囲を照らしながら、次々と生産され襲い掛かる四足歩行するサーベルのような鋭い牙を持った機械の獣や小さな鳥の姿をした胸部が赤く点滅しながら飛翔する兵器がとどまる事無く襲い続ける。

それらを魔術のみで全て迎撃する姿は、最早第三者が入る隙を一切感じさせない。

仮にぼく等の内の誰かが手を出そうものならその瞬間に物言わぬ無惨な死体へと変わり果てるだろう。


「ぼく達が来たのは間違えだったのかもしれない……」

「……レース?」


 気付いたら無意識に口からそんな言葉が零れていた。

多分心の中で言葉にして整理するのに脳が追い付かなかったのだろう。

それ程までの目の前で起きている事は異次元の戦いだ。

例えるなら師匠達と比べたらぼく達の強さなど生まれたばかりの赤子に過ぎない、彼女達が害意を持って頭を手で撫でたらその瞬間に死ぬ。

それ程までの実力差を二人の魔力の波長で嫌でも体感させられる。

とは言え来てしまった以上は逃げる事は許されないだろう、ぼく達が出来るのは生存する確率を少しでも上げる為の努力しかない。


「いや何でもない、今はぼく達の出来る事をしよう」

「あのそれなら、私に良い考えがあるので聞いて貰えますか?」


 カエデさんが手を上げてそういうと右手にガラスで出来たペンを出現させる。

もしかしてこれは心器なのかと一瞬脳裏に過ぎったけど今はそれを追求する時期ではない。


「いいよ、何か案があるなら何でも言って欲しい」

「ありがとうございます、では今から私の心器を使い文章で説明します……、黎明に内容が知られるとまずいので極力声を出さないようにお願いしますね」


 ぼくとダートは無言でうなずくとマスカレイドから隠すように彼女の前に立って姿を隠すと、カエデさんは空中にガラスペンを走らせ魔力を使い文字をその場に書いていく。

成程、獣の姿をした機械は速く走る為に顔と脚以外の装甲が薄くできていて足を滑らせる等をして転倒した場合起き上がる事が出来なくなる。

鳥の兵器は胸部に爆弾が付いており対象にぶつかった瞬間に起爆するが急激な温度変化に弱い……、その為にはぼくの魔術が必要だと書かれている。


「……出来そうですか?」


 カエデさんが不安そうな顔をしてぼくの事を見る。

この子はどうしてマスカレイドの戦い方を知っているのだろうかと、心器の事といい聞きたい事が増えるけど今は頼れるのが彼女しかいない。

それにダートが信頼した子だ、ぼくもこの子をカエデを信じよう。

ぼくは頷くと手元に意識を集中して行く……。


「ほぉう、ルディー、貴様の自慢の小僧が何かやるようだぞ?」

「気安く呼ばないでくれないかしら、あの子達に手を出したらどうなるかわかっているわよね?」


 戦いながらも余裕があるのかマスカレイドが新しい玩具を見つけたような顔をする。

彼からしたら確かにぼくはその程度なのかもしれない、でも今からその評価を変えてやる。

手元に心器の長杖が顕現させる、アキラさんからは許可を出すまで実戦で使うなと言われているけど今はこの力が必要だ。


「あの小僧が心器を使えるようになるとはな……、これは興味深いやってみろ」

「レイドっ!あんた余所見してんじゃないよっ!」

「……余所見も何も俺達の実力ではこのまま終わらないだろう?さすがに飽きて来たからな新しい刺激が欲しいのだよ」


 そんなやり取りが聞こえるが関係ない。

マスカレイドに走って近づきながら長杖を横薙ぎにして雪の魔術を放つ。

魔力が通った場所が一瞬にして雪が積もった状態へと塗り替えられて行き獣達の動きを止める。

更にもう一度今度は風属性の魔術を勢いよく放つ、強風に舞い上げられた雪は地吹雪となり鳥達が活動を停止していく。

そして最後に雪に触れた物全てを、ぼくの特性を魔術に乗せて【固定】しようとしたけど魔力が足りない……。

心器も維持する事が出来なくなり消えてしまった。



「……面白い、戦う才能が無い心優しい小僧が捻くれたと思えば今度は力を付けて俺の前に立つ、やはり人は良い物だ成長する姿は素晴らしい」


 雪のせいでこれ以上獣と鳥を生産しても意味が無いと理解したのだろう、魔導工房の活動を止めるとマスカレイドがぼくに向かって歩いてくる。

……警戒して身構えていると、ダートが空間跳躍で飛んで来てその勢いのままぼくを突き飛ばす。

それと同時に何かが地面に当たり割れた音がした。


「レースっ!あなた私の反応遅れてたら死んでたよ!?」

「えっ……」

「あれを見てっ!」


 起き上がるとダートが指を差した場所を見ると地面が音を上げて溶けている。

もし彼女が助けてくれなかったらどうなっていたのか想像に難くない。


「あなた達っ!そこにいると邪魔だから離れなさいっ!」


 師匠が魔術を展開してマスカレイドを攻撃しようとするけどぼく達が邪魔で動けない。

力になる筈が足手まといになってしまった……。


「ルディー後で君と遊んでやるからそこで待っていろ、こいつらと話したい事がある」


 マスカレイドがこちらに近づいてくるが、途中で足を止めてカエデの方を見るとこっちに来るように手で促す。


「俺は君とも話がしたい、手を出さないと約束するからこっちに来なさい」

「……レースさん達に危害を加えないと約束をしてくれるなら行きます」

「わかった、約束しよう」


 カエデがぼく達の隣に来るのを見たマスカレイドは満足そうに頷くと白衣を広げて内側に何も無い事を見せた後に両手を広げて危害を加える物を持ってない事を証明する。

……どうやら約束を守ってくれるらしい。


「まずはそこの少女が考えた作戦だが実に素晴らしかった、味方の能力を生かして状況を打開する能力あれが無ければ俺とルディーの戦闘はどちらかが根を上げるまで止まらなかっただろう」


 マスカレイドが近づきながらカエデを褒める。

褒められるのは何だか嫌な感じだ、彼からしたらぼく達は敵として見られていないのだろう。


「そして次にだが俺が心器で生み出した魔科学兵器の活動を停止させたのは素晴らしかったが役割を終えら即座に後ろに下がるべきだったな、大きく成長したようだがそこで大きな減点だ、特に警戒して動けなかった結果ダートを危険に晒したのは小僧の落ち度だ……、俺の放った魔術が当たっていたら死んでいたぞ?この場合死ぬのは無能だけで良い、落第だな」


 ぼくの方を見てダメ出しをする。

そう言われると何も言えなくなる、確かにダートを危険にさらしたのはぼくの落ち度だ。

ただ何故敵に言われなければいけないのか。


「最後に俺はダート君を迎えに来た……」

「……あなたが私を迎えに?」

「あぁ、多少君の命と身体が研究に必要になったのだ、もし協力してくれるなら元の世界に戻してやるから力を貸してくれないか?」


 マスカレイドがダートにそう告げる。

彼女を元の世界に戻す?こいつは何を言っているんだ……?


「お断りします、私にはこの世界で出会った大切な人達や大事な人がいますっ!」

「……大事な人だと?俺の計算だと君は暗示の魔術のせいで孤立し天涯孤独になっている筈だったのだが」


 マスカレイドが驚いた顔をすると師匠の方を見る。

その瞳の中には怒気が込められていた、計画通りに行かなかった事が許せなかったらしい。


「ルディー、君がどうしてこんな辺境にダートを送ったのかと疑問に思っていたが今理解が出来た……、彼女に友人を作らせる事でこの世界に執着させる為だな?」

「そんな事考えてないわ?、ただ私はレースの事が心配だったから護衛を依頼しただけよ」

「……そう言う事にしておこう」


 マスカレイドが指を弾いて音を出すと、確かにそこに存在していた魔導工房の色が薄くなり消えて行く。

それを見届けた師匠も鉄扇を魔力へと戻して霧散させた。

薄々感じてはいたけどやはりあれは心器だったのか……、


「……強引にでもダート連れて行きたいところだが、今そのような事をするとルディーと本気の殺し合いをしなければならないのでな」

「……あら?私は別にそれで構わないわよ?」

「小僧達を巻き込んで良いならやればいい……、ダートよ、今回は断られてしまったが後日君に向けて使いを送らせてもらう、その時に改めて答えを聞かせて貰おう」


……マスカレイドはそういうとぼく達から背を向けて歩いて行く。

彼の姿が森の中に消えて見えなくなったのを確認したぼく等は緊張が解けてその場に座り込んでしまう。

ぼく等を見て師匠が手間がかかる子供を見るような顔をしているが今は生き残れた事を喜びたい。

そんな事を思いながら動けるようになるまで休むのだった。



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