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第17話 栄花の二人 ダート視点

 レースと分かれてカエデちゃんと二人で診療所の物置部屋に入ると、ドアの真ん中にあるボタンのうち、上から二番目のボタンを二回押してから扉を開く。

するとその先には長い机の上に書類が綺麗に並べて置かれている部屋が現れた。


「ようこそお姉様、栄花へそしてここが私が副団長を務める栄花騎士団本部ですっ!」


 カエデちゃんの後ろから、ドヤァって言葉が出て来そうなほどの雰囲気を感じて微笑ましくなる。

本当に栄花騎士団が好きなんだなぁって感じで凄い可愛い。


「もっと和風的な雰囲気を想像してたけど私達の所と変わらないんだね」

「それはそうですよ、田舎に行けば和風建築は増えますけど基本的には他の国と変わりませんね、こういうのは雰囲気を変えすぎると他所の国と交流する時に不便なんですよ」

「何か色々とあるんだねぇ」


 他の国との交流に関しては全然分からないけど、きっと色んな事があるんだろうなぁって思う。

でも違ってる事があるかも……


「カエデちゃん、何かこの部屋良い匂いがするね」

「あ、わかりますか?ヒジリちゃんが毎日良い匂いがするお花を飾ってくれるんですっ!それも匂いが合わさって不快にならないように気を使ってくれてっ!」

「ヒジリさんが誰かはわからないけど、良いお姉さんなんだね」

「はいっ!ちょっとお金にうるさい所はあるけど良い人ですよっ!」


 私達がそんな事を話していると、副団長室のドアがノックされる。

もしかして騒がしくし過ぎたせいでここにいる事が外の人にバレちゃったのかな。


「この元気な声は姫ちゃん?んもー、帰って来てるなら教えてよー!」

「あなたね……、緊急の用で一旦帰って来ただけかもしれないじゃない、邪魔をしちゃダメよ」

「でもぉ、姫ちゃん成分を毎日補給しないとこのお仕事やってられないっていうかぁ……、あぁこうしている間にも我慢できなくなって来たかも、入るよー!」

「ちょっと待ちなさいっ!」

「いくらアンちゃんでも待っちませーん!」


 元気な声が聞こえたかと思うと、ドアが勢いよく開かれて綺麗な銀髪をサイドテールにして纏めていて、可愛いピンク色の瞳を見た、上に赤い着物を着て下だけ短いスカートを穿いた女性が入って来て私に抱き着いて来た。

その人を止めるかのように手を伸ばした黒髪で赤い目をした見覚えのある綺麗な女の人が見えたけど、間に合わなかったのが諦めた顔をしている。


「姫ちゃーん、ぎゅーってさせて、元気を分けて―って……、あぁ?誰だお前」

「誰だお前って、この人は昨日戻った時にお話ししたと思いますが、あちらでお世話になる事になった診療所にいるダートお姉様です」


 何ていうか凄い綺麗な人なので反応の変化が激しすぎて怖い印象を受ける。

勝手に抱きしめて来たかと思うと、そのままの状態で可愛い声からいきなりドスを利かせた声になるのは背筋が冷たくなる。


「だから言ったじゃない待ちなさいって、姫ちゃんが一人であんなに騒ぐわけないんだから、冷静に考えたら分かるでしょ?」

「抱き着く相手間違えたじゃねぇかよ……、ごめんねぇダートちゃん、間違えちゃった」

「いえ、だ、大丈夫です」


 そう言いながら私からゆっくり離れる銀髪の女性を見てほっとするけど、正直精神的には大丈夫じゃない、でもここで何か言うと怖そうだから大丈夫って言う事にするけど、黒い髪の人はまともそうな人で良かったと思う。

気付いて止めようとしてくれたという事は、さっきアンって呼ばれていたけどこの人は安全な人の筈。

そんな事を考えて居るとアンさんが私の方に手を差し伸べて来た。


「ごめんねダートさん、昨日姫ちゃんから聞いたわ?、私のアキラと姫ちゃんが良くして貰ってるみたいでありがとうね」

「私のアキラ、もしかしてアキラさんの奥さんですか!?」

「あら……彼から名前を聞いてなかったのね?」

「奥さんがいるとは聞いてはいましたけど名前までは……」

「そう……しょうがない人ね、【ポルトゥス】も心拍数的に嘘を付いてないと言ってるしあなたの事を信じるわ」


 アンさんと握手していたらそんな事を言われてびっくりする。

ポルトゥス……、確か私がAランク冒険者昇格試験の時に戦ったアンデッドの名前もポルトゥスだし、その時戦った人の名前もこの人と同じアンだった筈だから、この人はまさかあの時の?


「あ、あのっ!もしかしてアンさんって、私がAランク冒険者になる時の昇格試験で戦った事ありませんか!?」

「……あら、ダートって名前で冒険者、まさかあなたあの時の【泥霧の魔術師】さん?」

「はいっ、あの時は大変お世話になりました」

「別にお世話なんてしてないわ……、仕事だから対応しただけだけど、まさかあの時の子と私のアキラが交流を持つことになる何て予想もしてなかったわ」

「ちょっとアンちゃん、会った事ある人なら言ってよー」


 それにしても心拍数を図るとか変な事をいきなり言っていたし、ここは安全な筈って思ってたけどそんな事無かったのかもしれない。

そんな事を思っていると……


「アンちゃん、ヒジリちゃん!この人は私の大事な客人です、失礼な事をしないようにお願いしますね」

「姫ちゃんに言われなくても私は何もしないわ?……、私のアキラに手を出したなら別だけどね」

「あたしもー、姫ちゃんのお客さんなら仲良くするよー、ダートちゃん宜しくねぇ」


 改めてヒジリさんと呼ばれた人が抱き着いてくる。

この人は抱き着く癖でもあるのかなって思うけど、さっきのと違って悪い気は起きないから大丈夫だと思う。


「お二人共本当に仲良くしてくださいね?、後ここにダートさんを連れて来た理由なんですが――」


 カエデちゃんが私の身に起きた事を二人に説明してくれる。

それを聞いていた二人は興味深げに聞いていたけど、心器が二つあるって話が出た時に驚いた顔をした。


「……それは興味深いわね、ヒジリ、あなたはどう思う?」

「多分、暗示の魔術を使い続けたせいで起きた例外だと思うけどぉ、あたいだとそれ位しかわかんないかなぁ、アンちゃんは?」

「そうね、あなたと同じ考えだけど、症例が少なさ過ぎて判断が難しいのも事実、一度団長に相談した方がいいと思うけど、あのグラサンに報告いれると許可をしていない人物が心器を顕現させた事に関してうるさく言われて問題が大きくなるから止めた方がいいわね」

「だぁよねぇ、あのグラサン頭が固いからあんまり話したくないしー、ここはいっその事こういう事例がありましたって事で後で処理しちゃお?だんちょーへの報告も順番変えちゃえばいいんだよ、姫ちゃんからダートちゃんの心器使用の許可を私達に求めた後に、顕現させたら二つ出ちゃったーって」

「そうね、それでいきましょう、姫ちゃんその流れで宜しくね」


 二人はそういうとさっきの流れを紙に書いてカエデちゃんに渡す。

確かに私は栄花の許可無しだったからこのままだと問題になるんだなって思うけど、この流れなら問題無さそうだけど本当にこれでいいのかな。


「あ、あの、こういうのはまずは父上に報告しないと……」

「ダメだよ姫ちゃん、こういうのは時と場合って言うのがあるのそこんとこ上手くやろー」

「姫ちゃんが足りない部分は私達がこうやって補助するからいつでも頼って頂戴……」

「お二人がそういうなら……、あ、あと他に何ですけどおねえさ、いえ、ダートさん達がいる診療所で働いてくれる治癒術を使える人を三人程探したいなって思うんですが、誰か紹介できる人っていますか?」

「……それならあたしとアンちゃんが行こっか?、あたしは治癒術が得意だし、アンちゃんも使えるから力になれるはずだよ?、まぁ他に幹部や一般団員の中にはメセリーから来た優秀な教会所属の治癒術士がいるけど、あいつらあたし以上にお金に厳しいから関わらない方がいいでしょー?って事で決まりねっ!」


……ヒジリさんの発言を聞いて、アンさんが嬉しそうな顔をした。

多分、彼女からしたらアキラさんと会える事が凄い嬉しんだろうなぁって思うけど、私もレースと離れていて、会えるとなったら同じ反応をしそうだからこの人と仲良くなれそうな気がする。

ただ心器の事も直ぐに収まって、新しく働いてくれる人の事も決まったおかげで私とレースの負担がこれから減ると思うと嬉しくなるけど外国の人を国に無断で沢山入れてしまって良いのかなって思いながらも新しい出会いに感謝するのだった。


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