ぼく達の会話に割り込むように、遠くから戦闘音がする。
あそこは確かトキとシンがガイストを捜しに行った場所だった筈だから、遭遇して戦いになったのかもしれない。
「……カエデ様、この話は後にしてあっちに合流するわよ」
「分かりました、レースさんやダート姉様も来てくださいっ!あの強さは前衛三人だけでは不安なので、それに私じゃ戦力にはなれないし……」
「分かった、それじゃ行こうか」
「うん……、でも私達が行っても力になれるのかな」
急いで向かおうとすると、ダリアが驚いたような顔をしてこっちを見るとルミィと手を繋いで歩いてくる。
「おいっ!行くのはいいけど俺とルミィはどうすんだよっ!」
「出来ればルミィと安全な場所に隠れていて欲しいけど……」
「この何処に安全な場所があんだ父さんよぉ、この場で安全なのは全員で行動する事だろうがっ!……たく、お前等少しくらい冷静になれよ、こういう時こそ落ち着かないと駄目だろ、特にカエデは戦いよりも頭を使う方が専門な所あるんだから、視野が狭くなってどうすんだ」
「ダリアさん、ごめんなさい確かにそうですね、皆で行って合流しましょう、ルミィ様はそれでいいですか?」
「……うん、おいてけぼりはいやなの」
「わかりました、ルミィ様はダリアさんの側から決して離れないでくださいね」
ダリアがいれば大丈夫だろう、彼女が使える時空間魔術なら何かあったとしても時を止めて助ける事が出来る。
そう思いながら全員で急いで向かうとそこにいたのは、倒れたまま動かないガイストと白衣を来た人物だった。
「……何でここにマスカレイドが?」
「もしかしてガイスト姉様を助けに来たのかもしれないわね」
「助けにって、ぼくの知っている彼はそんな事をする人じゃ……、ダートはどう思う?」
「多分だけど、重要な能力を持っている人材を捕えられるのが嫌なのかも……」
「それなら確かにありそう」
この状況からどうやって戦闘に加わればいいのだろうか。
以前マスカレイドと戦った時のように、数えきれない程の大量の魔導具の獣達が心器の魔導工房から製造され二人に向かって突撃していく。
その集団にトキが単独で雄たけびを上げながら、戦斧を両手に持つと力任せに振り回して破壊し続けていた。
「シン様っ!今加勢に参りますっ!」
「来るなミュラッカっ!来たら巻き込まれるぞっ!」
「相手は【黎明】マスカレイドですっ!、そのような相手にトキさんだけじゃ危険過ぎますっ!」
「あれなら大丈夫だ、むしろマスカレイドとの相性が良いから下手に割り込んだ方が危険だ」
至る所から血を流しているシンが、剣を手に持ちながら戦線を離れてこっちへとやってくる。
急いで治癒術で身体の傷を癒そうとするけど、使おうとした瞬間に焦ったような顔をして距離を取られてしまう。
「えっとシンさん、傷を治さないと……」
「気持ちはありがたいが……俺は治癒術と相性が悪いから止めて欲しい、折角抜いた牙が生えてしまったら吸血衝動を抑えられないからな」
「それってどういう事なの?」
「……ヴァンパイアは相手に噛み付いて血を吸うのだけど、その時に牙から麻酔効果のある毒を流し込み痛みを和らげる、けどこれが問題で牙があると本能的に人族の血を吸いたくなる衝動に襲われるようになる」
「なるほど……」
という事は治癒術を使う事でもし牙が治ってしまったら、その本能的な衝動に襲われてぼく達に被害を与えてしまう可能性があるから使って欲しくないという事か……、なら今迄彼はどうやって自分の傷を治して来たのだろうか。
まさかとは思うけど自分の血を飲んで?、グロウフェレスとの戦いの時に取り出して飲んでいたのは見ていたけど……、定期的に血を抜いているという事は体の負担が多いと思うし大丈夫なのかと心配になる。
「シンさんは、そのせいで治癒術での治療を受ける事が出来ないので任務で怪我をした場合長期療養せざる負えないんです」
「……今回もこの通り深手を負ったからな、暫くはこの国で休ませて貰うつもりだ、王が代替わりした後で色々と騒がしくなるだろうから現地で情報を得れる人員がいた方が良いだろ」
「分かりました、団長にはそう伝えておきますね」
そうしている間にマスカレイドがぼく達に気付いたのか、こちらを見て何かを考えるような仕草すると製造された機械の獣達をこちらに向けて進軍させる。
ミュラッカが迎撃の為に心器の大剣を顕現させて構えると、トキが周囲の獣たちを薙ぎ払いながらぼく達を守る様に前方に来て……
「あぁもうめんどくさいねぇっ!……、これじゃあ鍛冶師のあたいが心器を使わざるおえないじゃないか!悪いけどあんたの作った魔導具の機械全部素材にさせてもらうよっ!」
「……素材にする?この俺の作品を貴様のようだ土臭いドワーフがか?面白い迎えが来るまでの時間稼ぎだったが興味が湧いた、やってみろ」
「その人を馬鹿にしたような顔を歪ませてあげるから覚悟しなっ!」
……トキの手元に鍛冶用の大槌を顕現させると飛び掛かって来た機械の獣に向かって振り下ろす。
すると一瞬にして金属の塊と魔導具用に回路へと分解され……『そしてこれを素材にもう一回振り下ろせばぁっ!良いしょおっ!』地面に落ちた金属へ大槌を叩きつけると両刃の黒い戦斧が生成される。
その武器を見たトキが顔を何故か怒りに染めて『寒冷地用に配合された金属何てお洒落な者使ってんじゃないよっ!おかげで衝撃に弱すぎて一回限の使い捨てじゃないかいっ!』と大声で叫ぶのだった。