シンの言っていたように、トキの能力はマスカレイドと相性が良いのかもしれない。
彼が魔導工房で製造した機械の獣を武器に作り直す事が出来るという事は、トキの手数が増えるという事だ
でも……、何故あんなに心器を使う事を嫌がっていたのだろうか。
こんなに凄い能力があるのなら使った方がいいと思うんだけど……
「金属の素材に関してはぼくは詳しく無いから分からないけど、どうしてあんなに心器を使うのを嫌がってたの?」
「レースさんそれは……、トキさんは素材から武器を精製する鍛冶師ですからね、彼女曰く『あんな使ったら壊れる事のないとんでも武器何てあたい等鍛冶師の天敵だよっ!』という事でして……」
「でもトキは今心器を使ってるよね?、最初から使えば戦いが有利になっていたんじゃ?」
「武器職人の命である槌を武器として使いたがる奴は滅多にいない、あいつからしたら戦場に出さざるおえくなった時点で、プライドを傷付けられた事と同義なんだよ……、現に心器の能力が【製造、解体、付与】と戦闘向きでは無いからな、特に最後の能力は集中しないと使えない」
「ですが、その付与のおかげで栄花騎士団の心器を使う事が出来ない団員達に、素材に合わせた能力を付与した武器をトキさん自らが一人一人の得意武器に合わせて作ってくれるのでとても助かっています」
能力を付与した武器って聞いてるだけでも凄い能力だと思う、素材次第では心器よりも強い武器が作られたりするのだろうか。
もしそうだったとしたら、心器を顕現させる事が出来ない人達も強くなれる気がする。
「レースさんの表情から何を言いたいかは何となく分かりますが……、トキさん曰く『壊れない武器は作らないし、能力はあくまで素材次第だからそこまで強力な物は滅多に作れない』そうなので、心器以上かまたは同等の能力が付けられる素材が発見された時は栄花騎士団内にてトキさんしか開ける事が許されな倉庫にて、厳重に保存されているんですよ」
「へぇ……、そうなんだ」
「はい、ですが苦戦しているようですね……、このままだとトキさんの体力が持たないかもしれません」
カエデが言うように嵐のように暴れているトキの呼吸が荒くなって来ている。
現に機械の獣達に噛み付かれたりして身体に傷が増える事が増えて来たし、彼女の横をすり抜けてこちらに飛び掛かって来るが、ミュラッカの氷雪の盾と心器の大剣で迎撃してくれているおかげでまだ何とかなっているけど、このままでは押し切られてしまうだろう。
「下がれミュラッカ、万全ではないが俺が前に出て直接マスカレイドを叩く」
「それだとシン様が危険ですっ!」
「だがやらねば負けるのは俺達の方だ、お前の周りを見てみろ幼い子供が二人に実戦経験が少ない副団長が一人、そして後衛が二人と負傷した戦力だぞ、危険だと分かっていてもここは俺が行ってミュラッカの負担を減らした方がいい、幸いまだ血のストックは少しだけあるからな、何かあっても死にはしないだろうから安心しろ」
シンの言うとおりで、ぼく達は何とか身を守れるだろうけど前衛ではないしルミィを守りながらとなると難しい所があると思う。
ダリアの時空間魔術があるから大丈夫だと思うけどもしもの事があったらぼくでは皆を守る事が出来ないし、ダートなら多分空間魔術を使う事で逃げる事が出来ると思うけど……、彼女の事だから最後まで戦おうとする気がする。
「そんな言い方されて安心できる訳がありません、……もしもの話なのですが牙が戻りヴァンパイアとしての本来の姿を取り戻したらトキさんの戦いに加勢っ出来ますか?」
「……可能だと思うが、何を考えている?」
「それが聞けただけで満足です、レース兄様治癒術をシン様にお願いするわ、お願い直ぐにっ!」
「おいっ!俺に治癒術を使うなっ!」
「本能を抑えられないというのなら、私の血を幾らだけ差し上げますっ!だから早くお願いっ!」
……少しでもぼく達の生存率を上げるならミュラッカの言うようにシンに治癒術を掛けるしかない、でもそうなると妹が犠牲になってしまう、本当にそれでいいのだろうか。
「レース、ここは迷ってる時じゃないよ、今できる事をやるしかないと思う……、ミュラッカちゃんが前衛を離れてたら私が何とか時間を稼ぐから早くしてね?」
「俺も出来る限りルミィを守るから頼むっ!」
「……分かった」
「くっ、そこまでの覚悟があると言うならやれ、だがお前等どうなっても後悔するなよ?、」
……シンが覚悟を決めた顔をしてぼくの手を握り『治癒術は接近しないと使いづらいだろ?』と、使いやすい位置まで来てくれる。
彼もそこまで覚悟を決めてくれたなら後は治すだけだとぼくも気持ちを引き締めて治癒術を使うと、全身の傷が癒えて行くと共にシンの口から四本の差し歯が抜け鋭い牙が蘇って行く。
ただ最初こそ平気そうにしていたが、徐々に眼が血走って行き苦しそうに喉を抑え始めたと思うと血を吸わせる為に彼に急いで近付いたミュラッカへと飛び掛かり首元に牙を突き立てるのだった。