賢一は、警備員ゾンビ達の赤黒く濡れている服装を眺めながら、唖然と立ち尽くす。
「援軍が来たんじゃなかったのか? これじゃ、援軍じゃなくて、敵の増援が来たんじゃないかっ!」
「甘を無線で呼ぶよっ! 誰か援護してくれっ! こっちも人手が必要だからね」
「その前に来るぜっ! あの腕に気を付けろっ! うわわっ!?」
「ゴアアアアアアアア」
武器を持った警備員のゾンビ達が、来ないうちに、賢一は迎撃体制を取ろうと身構える。
モイラは、市役所の方に引っ込みながら、無線機を使って、援軍を呼ぼうとする。
ボロナイフを突き付けながら、ダニエルは大柄なゾンビのタックルを回避しようと逃げた。
その間に、警備員を含む様々なゾンビ達が、建物を目指して、ヘスコ防壁から雪崩れ込んでくる。
「うげっ! 痛たた…………この野郎っ!」
「ダニエルさんっ!! 大丈夫ですかっ!?」
「グアア、グアアーーーー!!」
「ギャギャ」
「ゲロロッ!」
太い腕を回避しきれなかったため、ダニエルはパンチを胸に喰らってしまった。
しかし、お返しとばかりに、ボロナイフを振るう彼の身を、メイスーは案ずる。
それは、大柄なゾンビの腹を切り裂いたが、奴は未だに巨体を暴れさせる。
また、警備員ゾンビが軍刀を持ちながら走り、カエル型ゾンビが近づいてきた。
「メイスー、心配するなっ! 俺なら平気だからよっ!」
「君は下がるんだ、うわっ! 汚いなっ!」
「は、はいっ!」
ダニエルは、胸に痛みを感じながらも、女性の前で、恥ずかしい姿を見せまいと気丈に振るまう。
その背後から、ジャンが飛び出すが、カエル型ゾンビが隙を狙い、勢いよく強酸を吐いた。
もちろん、それを彼は頭を下げた事で、運よく交わしたが、敵は次なる攻撃を狙ってきた。
メイスーは、指示に従って、後ろに下がるが、それでも両脇から襲ってくるゾンビ達を警戒する。
「
「ギャッ!」
「さっさと、援軍を寄越してっ!!」
「ウギィッ!」
無線機で話ながら、モイラは蹴りを放ち、フレッシャーの突撃を押さえる。
ハチェットで、ゾンビの頭蓋骨を真上から叩き割り、エリーゼは前に進みだす。
『…………君たちの所にも、奴らが現れたのか? どうやら、プルケト・イスラム解放戦線が、テロ攻撃してきたらしい』
甘は、冷静に話しながら、みんなに状況を説明しようとする。
『それで、ゾンビ達が迫撃砲の着弾音に集まってきたんだろう? そっちに無事な避難所から、警備員の部隊が向かったと聞いている』
「おい、甘っ! ソイツ等は、全員ゾンビになっているぞ」
もう、そこは大丈夫だろうと答える甘だが、賢一は怒鳴りながら、ゾンビの顔を素手で殴る。
『賢一か? 心配するなっ! 幾つかの場所から警備員や警察官が向かっているっ! きっと、すぐに別な援軍が到着するっ! それまで、耐えてくれっ! 分かったな』
「ああ、分かったぜっ! こうなったら、戦うしかないか」
「ギャギャギャ」
「グオオオオオオッ!」
「甘、もう無線を切るよっ! 殺るか、殺られるか…………だね」
甘の言葉を聞きながら、賢一は走ってくる警備員ゾンビ達を睨み、大柄なゾンビにも警戒する。
モイラは、銃撃を潜り抜けてきた敵に目を向けると、多用途銃剣を振るいまくった。
「ギャギャッ! ギャギャギャ、グワッ!」
「グギギ~~~~」
「撃ち殺せっ!」
「一階の窓まで来てるぞ」
しかし、外に取り残された彼等の奮闘だけでは、敵を押さえられない。
銃器や竹槍を使って、ゾンビ達を中に入れまいと、生存者たちは必死になる。
「グアアーーーー!!」
「うわわっ! 俺を追うなってんだっ!」
「あっ! 待て、こっちに目を向けろっ! ぐっ! 他のゾンビが来たか」
「ギャギャ~~~~」
「ゲロロッ! ゲロロロロ」
「きゃあっ! 汚いわっ!」
「退きな、私が相手をするわっ!」
「グエッ!?」
調子に乗りすぎたのか、大柄なゾンビは、何度も攻撃してくる、ダニエルを追い始めた。
タガネを握りながら、ジャンは彼等を追おうとするが、警備員ゾンビの軍刀が彼に迫る。
カエル型ゾンビは、遠距離から強酸を弧を描くように飛ばしてきて、メイスーは身を屈めてしまう。
それを、警備員ゾンビの首を掴んだまま、エリーゼは肉盾にしながら、攻撃を防御した。
「しかし、武器持ちは厄介だな? ん…………? アレだっ! モイラ、もっと長い武器を使うんだっ!」
ゾンビ化した警備員たちは、武器持ちゾンビと同じく、血に濡れている刃物や打撃武器を使う。
幸い、もう既に生存者たちは、市役所内に入っているため、刃などから感染することは無い。
とは言え、厄介な武器持ちゾンビ達を前に、賢一は、どうすれば良いかと考える。
すると、倒した敵が落とした武器が、地面に頃がっているのが、ふと目に入った。
「モイラ、これを使えっ! 俺たちも、刀を使えば武器持ちに対抗できるはずだっ! 特に長い刀ならなっ!」
「グアアーーーー! グア?」
「よっと、サンキュー! 賢一、それじゃ派手に暴れるわよっ!」
「ギャアアアアアア、ギャアアッ!?」
地面に落ちてあったのは、ゴボウ銃剣であり、賢一は素早く拾った。
警備員ゾンビが、バールを振るうと、彼は即座に避けて、お返しとばかりに目玉を刃で突き刺す。
黒いマチェットを、モイラは足元に投げられると、転がりながら、それを手に取った
そして、襲いかかる警備員ゾンビのトレンチメイスを刃で受け止めながら、相手を押し退けた。
「グウウ?」
「これは、刃が余り研がれてないな? だが、刺す事には特化しているっ!」
「グルルッ! グアッ!」
「ゲロロッ! ゲロロッ!?」
「賢一さんは、殺らせませんっ!」
警備員ゾンビが倒れると、賢一は、ゴボウ銃剣に着いた血を振り払い、次の獲物を狙う。
武器持ちゾンビが、包丁を取り付けた鉄パイプ槍を振るうと、メイスーは背中から押し倒す。
そして、カエル型ゾンビが近づいて来ると、強酸を吐こうとした瞬間に、小石を投げつけた。
おそらくは、クレイモア地雷や手榴弾が、爆発した時に、破片が落ちていたのだろう。
「おいっ! ふざけんなっ! こっちに来るなよ」
「何て、頑丈な奴なんだ…………」
「グオオオオッ!!」
「このっ! あれ、刃が深く刺さらないわ?」
「メイスー、助かったっ! あと、さきに大柄なゾンビを集中的にやるっ!」
「分かりました、でも気を付けて下さいっ! 他の武器持ちも危険ですからっ!」
大柄なゾンビには、何発か弾丸が当たるも、血肉を背中から吹き出すだけに終わる。
頭にでも、当たれば死ぬだろうが、銃弾を気にせず、奴はダニエルとジャン達を追い続ける。
もちろん、二人から腕や胸を斬られたり、殴られても全く動じない。
なので、エリーゼは背後から両手に力を込めた、ハチェットで、強烈な一撃を叩きこんだ。
だが、やはり、攻撃が大した効果を上げなかったらしく、彼女は手応えを感じなかった。
賢一とメイスー達は、武器持ちゾンビの竹槍やハチェットを回避しながら走る。
「二人とも、アイツは任せたわよ」
「グヘ?」
「私たちは、敵の注意を
「ウギギ?」
「グアアーー!」
「グエエエエ」
マチェットを振るい、モイラは鉄パイプを振るう警備員ゾンビの首を刈り取る。
サーベルを握る、武器持ちゾンビの手首を、エリーゼは思いっきり叩き斬った。
しかし、未だに何種類ものゾンビ達が、群れをなして、ヘスコ防壁を越えてくる。
その数は一向に減らず、無限に思えるほど、命知らずな突撃を繰り返していた。