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第35話 市役所で、一泊する事に………


 賢一たちは、甘と話しながら、ドタバタと人々が歩き回る、市役所内を進む。



『今夜は、そこで宿泊してくれ? もう時間帯も、夕暮れだ? 外を出歩くワケには成らんからな』


「分かった、じゃあ明日は残りの部隊を調べに行ってくる」


 そう言いながら、甘に対して、賢一は役場の受付カウンターが見えた場所を目指しつつ歩いていく。



「缶詰め工場や漁協、それから市場とビーチに向かう? そこから、また少し時間がかかるからな」


『缶詰め工場、漁協だな? そっちには兵士や作業員のゾンビ達が、さ迷っているだろうから気をつけてくれ? 市場まで行ったら、船を用意してくれ』


 賢一は、次なる目的地を告げると、甘は移動手段の確保を頼んだ。



「分かっているっ! 他の島への移動手段だな? じゃあ、また明日な」


『ああ、また何かあった場合、遠慮なく連絡してくれ…………』


 受付まで来てしまった、賢一は無線を切ろうとすると、甘が先に切ってしまった。


 ここは、入口から左側に設けられた市役所の窓口であり、様々な人々が床や椅子に座っていた。



 市役所の職員は、段ボール箱を運び、兵士はグロック17に、マガジンを装着する。


 白人生存者とアラブ人生存者たちは、ゾンビに関して話し合い、警備員は鉄パイプに重りを着ける。



 ここは、長椅子が並べられており、足りない分はパイプ椅子が追加で設置されていた。


 当然ながら、それでも避難民が座るには足りず、壁に背中を預けたり、床に座る者まで存在する。



 大勢の人々で溢れ変えるため、受付担当を行う職員は、大慌てで走ったり、物資を運ぶ。



「やっぱり夜は危険か…………これから、どうする? 俺たちは、ここの防衛は任されてないが? 一泊する必要はある」


「そうだね? 明日は薬局に寄りながら缶詰め工場に行って、漁協の建物に行くしかない? で、今日は休ませて貰うしかないわ」


「なら、配給ががりの場所に行って、避難民とともに食糧配給を受け取りに行こうぜ」


「お腹が空いたら、餓死するからね…………ここで、死にたくは無いし」


 ゾンビが凶暴化するため、賢一たちは、今晩は市役所に泊まるしかない。


 モイラは、薬局に行くことを思いだしたが、その表情は疲れきっていた。



 腹を擦りながら、ダニエルは食べ物を探して、受付や、奥の方を眺めた。


 同じく、エリーゼも死んだ魚のような半目で、ため息を吐きながら呟いた。



「これは、田舎の村から来た奴の話しなんだが? ゲリラか? カルテルの仕業かは知らんが…………無惨な遺体が、最近は森の中で増えてたらしい」


「いや、それは夜を徘徊するゾンビの仕業じゃないか? 吸血鬼だか? 幽霊を見たとか、かなり前から変な噂を、地方のバナナ農家が話していたし」


「武器弾薬が足りてない? 今度は、白兵戦も想定しないと成らんな」


「明日、また援軍を送って貰って、弾薬や銃器を持ってきてくれるように頼んでおくしかない」


 白人生存者は、アジア系の生存者と、ゾンビに関する噂話を両方とも、腕組みしながら喋っている。


 漁師のような格好と、作業員に見える服装や話し方から、おそらく、二人は地元民だろう。



 メラネシア系の兵士は、フリッツ・ヘルメットを脱ぎながら、金色アフロに手を添える。


 悩む彼に、白人警備員は、険しい標準をしながら、無線機を取り出す。



「あ、おいっ! アイツら、噛まれているぞっ!」


「本当だっ! あの女、ゾンビ化するぞ、はやく殺せ」


 そんな中、メイスーの怪我が、黒人警備員や白人生存者に見つかってしまった。



「い、いや…………これは違いますっ! 私は感染しているけど、発症はしないんですっ!」


「黙れ、強酸を浴びた奴や噛まれた奴は、例外なく、ゾンビに成ったからな」


 怒鳴り声を浴びて、メイスーは萎縮してしまい、黒人生存者が、トンプソンの銃口を向ける。



「よせっ! 俺たちは保菌者だっ! 感染症に耐性があるから、噛まれただけでは、ゾンビ化しないっ!!」


「私たちを撃つなら、その前に、こっちも撃つわよ…………」


「よせっ! 喧嘩するのは意味がねぇっ! せっかく、ゾンビの襲撃を生き延びたんだ」


「そうだっ! 俺たちは保菌者として、ワクチン作りと生存者の救出をしているだけだっ!」


 焦りながらも、賢一は相手を説得しようとするが、エリーゼは、スカンジウムに手を伸ばす。


 その間に入って、ダニエルは騒動を収めようとし始め、ジャンも自らが楯になろうと、前に出た。



「武器を下ろせっ! 撃たれたくは、ないだろう? お前らは包囲されているんだ」


「ゾンビなら、転化する前に頭を撃てば、確実に殺せる…………」


 東アジア系の兵士は、両手で構えるM16A2を、こちらに向けてきた。


 白人兵士も、同じ武器を持ちながら、真剣な顔と殺意の込もった眼光で、睨んでくる。



「よしなっ! 流れ弾が、民間人に当たるわよっ! 対テロ訓練はしてないの? それに、この距離なら弾丸が、私たちの体を貫いてしまうわ」


「その通り…………で、どうする? 私の腕前なら貴方の頭くらいは当てられるわよ」


「ま、待ってくださいっ! 私たちに戦う意思は無いわっ!」


 M16A2の小口径高速弾は、貫通力があり、モイラは乱射された場合を考慮して、手を上げた。


 一方、平然とした顔で、エリーゼは両手に握るスカンジウムを下ろそうとはしない。



 メイスーも、先ほどと同じように、アタフタしながらも、戦闘をどうにか止めようとする。


 さっきまでは、生存者と兵士たちの声で、騒がしかった受付も、緊迫感で静まりかっている。



「知るかっ! 足を撃てば、民間人への被害は気にしなくていい」


「チッ! 仕方ない、お前ら…………降伏しようっ! だが、撃たないでくれよ? 大人しくするから」


 白人兵士の前で、賢一は暴れる積もりは無いと示すために、両膝を床に突いた。



「そんなワケに行くかっ!」


「いや、待てっ! ソイツらを撃たないでくれっ!」


「彼等が、保菌者なのは本当なのよっ! 今、責任者を連れてきたわ」


 兵士たちや警備員たちは、感染者の危険性を放置です筈がなく、銃口を賢一たちに向けた。


 だが、銃弾が放たれる前に、ショーンとリズ達が、背後から軍人を連れて現れた。



「中尉っ!?」


「敬礼しろ」


「ああ、諸君? 敬礼は別にしなくていい…………それよりも、忙しい市長に代わって、私が説明しよう? 実は刑務所から連絡があってな」


 白人兵士と黒人兵士たちは、赤いベレー帽を被った中年の下士官を見ると驚いて、銃を下ろした。



「彼等が、保菌者であり、行方不明の部隊を捜索する任務と、ワクチン製造のために首都を目指しているのは本当だ…………だから、協力してやってくれ」


 下士官が、ゆっくりと喋ると、その場から緊張した雰囲気は収まった。



「刑務所の方から連絡があってな? それから、アダムス二等兵を、助けたのも彼等だっ! そのお陰で、援軍を呼べたのもな? だから、できる限りの支援をしてやってくれ」


「はっ! 分かりましたっ!」


「し、しし失礼しましたっ!!」


「助かったか…………はぁ」


「どうやら、そのようですね…………」


 下士官の話しを聞いて、白人兵士と黒人兵士たちは、銃口を下げた。


 賢一とメイスー達は、殺されなくて良かったと思い、ほっと胸を撫で下ろした。



「助かりました、自分はJSDF所属の尾野賢一ですっ!」


「私は、アメリカ海兵隊のモイラ軍曹ですっ!」


「マンダウエ消防局の消防士、ジャン・ルイーズ・シュミット、ただいま民間人の救助隊に加わっ!」


「敬礼は、要らないよ? それより、物資が今は乏しくてね? 明日、武器や弾薬が届いたら君たちにも、分けてやろう」


 敬礼する、賢一とモイラ達に合わせて、ジャンも公務員であるため、少尉に敬礼した。



「私からの僅かな礼だ、遠慮せずに受け取ってくれ…………今日は、もう避難民とともに休むといい? あと、部屋を用意したから、そこで休んでくれ?」


 少尉も、先に敬礼をされたため、自分もしないワケには行かず、仕方なく手を振るうのだった。


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