賢一たちは、危うく射殺される危機に貧したが、どうにか助かったのであった。
「では、私は失礼するよ?」
少尉は、そう言いながら受付を後にして、廊下へと向かっていった。
「部屋は用意されてると言っても、監視は付くだろうな? 発症してないとは言え、俺たちは感染者なんだからな…………」
「だろうね? 騒動も起こして、しまったんだし? このまま、ここには居られないわ」
「周りの視線も、鋭いわ」
「はああーー! 朝昼は、ここを守るために体を張ったのに、夜は邪魔者あつかいか? 英雄として、待遇を良くして欲しいぜ」
愚痴ってしまう、賢一とモイラ達は、唖然と立ち尽くすが、周りは彼等に敵意を向けている。
生存者、兵士、警備員などからなる群衆は、六人の様子を遠巻きに伺っていた。
やがて、両腕を掻きながら、エリーゼは疲れたような声で呟いた。
ダニエルも、本来ならば、俺は英雄なんだと思い、堂々としている。
「なあ? お前ら、この兵隊たちが部屋まで、案内してくれるらしいぜ? 飯は後で用意してくれるらしい? シャワーや洗濯機も使わせてくれるとさ?」
「それは有難いけど、ショーン? そっちも無事でな? また、明日の朝、会おう」
ショーンは、背後に控えている、二名の白人兵士たちを紹介する。
すると、賢一は礼を言いながら、二人の側へと歩いていくと、仲間も後を追っていった。
「おう、こっちは巡回任務を任せてくれ」
それだけ言うと、ショーンも生存者の中に、ゾンビ化した者が、潜んでないかと探しにいった。
「こちらです、この先に部屋があります」
「ドアは、私たちが見張りますから、御安心を」
白人兵士と黒人兵士たちの案内で、広い空間を通り、廊下に出ると、奥にあるドアへと向かう。
「ああ、分かっている」
「さあ、じゃあ入らせて貰うわ」
賢一とモイラ達は、ドアを開けると、銃を向けられないうちに、はやく仲に入っていった。
「しっかし、ここは小会議室か? 寝るためのマットすら無いのか? あるのは、オフィスチェアと長テーブルだけかよ」
「文句を言わないの? 屋根があるだけでも、マシよ? 夜の砂漠の寒さに比べたら、ここも天国よ」
「ですよね? しかし、シャワー室は分かりますけど、洗濯機は何処に?」
「あ~~? それを言われると、気になるが? あと着替えがな…………」
部屋に入るなり、ダニエルは文句を言うが、エリーゼは椅子に座りながら頬杖をつく。
メイスーは、小型バックを置いて、キョロキョロと、丸い黒目を動かす。
大型バックパックを、壁際に立て掛けるように置いて、ジャンも愚痴る。
六人は、明日の計画を確認して、シャワールームに向かおうと考えた。
その時、ドアをコンコンと叩く音ともに、誰かが入室を求める声が響いた。
「おい? 入るぞっ! 食糧を運んできた、夕食の時間だ」
「保存食だけど、我慢してね?」
いきなり、ドアが開いたかと思うと、ライルズが食糧を持って、現れた。
その後ろから、スザンナも同じく、食べ物と飲み物を運んできた。
「ツナ缶、ミックスビーンズ缶、トマトソースのパスタ缶、コーン缶とかの中身を組み合わせて、簡単なパスタやサラダ風に、アレンジしたものだ」
「レトルト食品よ? フリーズドライのスープやカレー? レトルトのご飯、お粥ね~~」
「ああ、お前らか?」
「また、会うとはね」
食糧配膳する係りとして、ライルズとスザンナ達が、晩飯を運んできてくれたのだ。
賢一とモイラ達は、二人を見ると、偶然再開したことに、少しだけ驚いた。
「なあ? シャワールームは何処にあるんだ? 洗濯機の場所も分からないが?」
「シャワールームは、市役所内にあるから案内人に聞いてくれ? 洗濯機は、市役所の隣にある民家の奴を使うんだ? ただ、着替えは無いからな?」
「さっきの戦いで、援軍にきた私たち警備員が、そっちも確保したのよ」
「それで、仮設基地でもないのに、そんな物があるワケね?」
頭に、?マークを浮かべながら、賢一が質問すると、ライルズが答えてくれた。
その続きを、スザンナが説明してくれて、モイラは納得しながら腕を組む。
「それなら、後で、熱々のシャワーを浴びに行きましょうかっ!!」
「私も、湯に浸かりたいですね? と言っても、短時間のシャワーが浴びられるだけ、マシですよね」
「幸い、服には血液が付着してないし? 着替えは、まだ我慢できるわね」
「その前に、飯を喰うとしようぜ? 腹が減って、餓死したら、ゾンビ化しちまうかも知れないからな」
「同感だな、腹が減っていては、何のやる気も起きないっ! 明日の救助に備えて、食事にしよう」
モイラとメイスー達は、汗で濡れた体を洗うべく、熱々の湯を求める。
エリーゼは、ぐったりとした表情で、二人と同じく、いつ浴室まで行こうかしらと考える。
腹を空かせているダニエルは、テーブルの上に置かれたトレーから料理を手に取った。
眉間に
「ま、届ける物は渡したし、俺たちは巡回任務に戻るぞ」
「まだまだ、後退のシフト時間じゃないからね」
「済まなかったな? ちょうど、腹が空いてたから助かった」
「ありがとうね、これで一息つけるわ」
一仕事を終えたばかりのライルズとスザンナ達は、まだまだ作業や巡回任務などが残っている。
そんな二人に、賢一とモイラ達は、礼を言って、食べ物を運んでくれた事に感謝した。
「それより、時間になれば、交代制で入浴やサポートの兵士が、巡回に来るからな」
「その時まで、トイレ以外はなるべく外に出ないでね? 夜は危険だし」
それだけ言うと、ライルズとスザンナ達は、早々と部屋から退室していった。
「まあ、二人も行ったし? 取り敢えず、飯を食おうか? このパスタ、行けるな? スープも覚めないうちに飲もう? ああ~~自衛隊の戦闘糧食とは、また違った味が美味い」
今日の戦闘で疲れきっている賢一は、体を癒すべく、麺を口に運び、スープで喉を暖める。
「サラダのサッパリした感じと、カレーの辛味も美味しいですっ!」
「これで、ビールとタバコでも有れば、最高なんだが」
「それは贅沢って、もんだぞ…………この状況では、食えるだけでも有難いと思え」
冷たい野菜と、ドロドロのカレーを味わい、メイスーは笑顔を見せる。
文句を言いながら、ダニエルが食べていると、ジャンは説教しつつも、紙コップに手を伸ばす。
「ふぅ? 腹を満たしたぞ」
「だねえ? 非常食とは言え、なかなか豪華だったわ」
「失礼します、シャワールームの順番に成りますので?」
「貴方たちは、感染症の疑いがあるため、我々が同行します」
夕食を終えたばかりの賢一は、思わず口からゲップが出そうになり、モイラも眠そうな顔になる。
そんな中、兵士たちが入ってきて、彼等をシャワールームへと案内した。
「はあ、分かった」
「分かってるぜ? 信用がないんだろ?」
「仕方がないわね」
「まあ、こんな扱いよね~~」
賢一とダニエル達は、素直に従い、エリーゼとモイ達は、椅子から立ち上がる。
こうして、彼等は汗を洗い流すため、すぐに兵士たちの後に着いていった。
その途中、電気で照らされてない、暗く長い廊下を歩いていると、外から妙な声が聞こえた。
まるで、遠吠えや奇声を発する猛獣のような咆哮が、屋外から響いている。
それに、昼よりも通りを歩く、ゾンビ達の群れは、かなり多いようだ。
「ウオオオオオ~~~~!?」
「ガアアアアァァ~~~~!!」
「このための灯火管制か? 暑いのに、窓も開けてないのは、音が聞こえないようにか?」
「それも、あるでしょうが? 省力化のためにも、電気は使えないのかも? まだ、変電所や発電所は大丈夫そうだけど…………」
賢一は、廊下の蒸し暑さに愚痴り、インフラ施設を、モイラも軍人として心配する。
ゾンビやテロリスト等が、水道局や通信施設を狙うと、大変な事になるからだ。
「その通りです、夜になると、ゾンビが凶暴化するため、我々はカーテンを閉めてます」
「まるで、地獄のような光景ですよ? 奴ら、朝より動きは素早くなってますし? それから窓には近づかないで下さい」
白人兵士と黒人兵士たちは、賢一たちを、シャワールームまで連れていった。