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第36話 市役所の晩餐


 賢一たちは、危うく射殺される危機に貧したが、どうにか助かったのであった。



「では、私は失礼するよ?」


 少尉は、そう言いながら受付を後にして、廊下へと向かっていった。



「部屋は用意されてると言っても、監視は付くだろうな? 発症してないとは言え、俺たちは感染者なんだからな…………」


「だろうね? 騒動も起こして、しまったんだし? このまま、ここには居られないわ」


「周りの視線も、鋭いわ」


「はああーー! 朝昼は、ここを守るために体を張ったのに、夜は邪魔者あつかいか? 英雄として、待遇を良くして欲しいぜ」


 愚痴ってしまう、賢一とモイラ達は、唖然と立ち尽くすが、周りは彼等に敵意を向けている。


 生存者、兵士、警備員などからなる群衆は、六人の様子を遠巻きに伺っていた。



 やがて、両腕を掻きながら、エリーゼは疲れたような声で呟いた。


 ダニエルも、本来ならば、俺は英雄なんだと思い、堂々としている。



「なあ? お前ら、この兵隊たちが部屋まで、案内してくれるらしいぜ? 飯は後で用意してくれるらしい? シャワーや洗濯機も使わせてくれるとさ?」


「それは有難いけど、ショーン? そっちも無事でな? また、明日の朝、会おう」


 ショーンは、背後に控えている、二名の白人兵士たちを紹介する。


 すると、賢一は礼を言いながら、二人の側へと歩いていくと、仲間も後を追っていった。



「おう、こっちは巡回任務を任せてくれ」


 それだけ言うと、ショーンも生存者の中に、ゾンビ化した者が、潜んでないかと探しにいった。



「こちらです、この先に部屋があります」


「ドアは、私たちが見張りますから、御安心を」


 白人兵士と黒人兵士たちの案内で、広い空間を通り、廊下に出ると、奥にあるドアへと向かう。



「ああ、分かっている」


「さあ、じゃあ入らせて貰うわ」


 賢一とモイラ達は、ドアを開けると、銃を向けられないうちに、はやく仲に入っていった。



「しっかし、ここは小会議室か? 寝るためのマットすら無いのか? あるのは、オフィスチェアと長テーブルだけかよ」


「文句を言わないの? 屋根があるだけでも、マシよ? 夜の砂漠の寒さに比べたら、ここも天国よ」


「ですよね? しかし、シャワー室は分かりますけど、洗濯機は何処に?」


「あ~~? それを言われると、気になるが? あと着替えがな…………」


 部屋に入るなり、ダニエルは文句を言うが、エリーゼは椅子に座りながら頬杖をつく。


 メイスーは、小型バックを置いて、キョロキョロと、丸い黒目を動かす。



 大型バックパックを、壁際に立て掛けるように置いて、ジャンも愚痴る。


 六人は、明日の計画を確認して、シャワールームに向かおうと考えた。



 その時、ドアをコンコンと叩く音ともに、誰かが入室を求める声が響いた。



「おい? 入るぞっ! 食糧を運んできた、夕食の時間だ」


「保存食だけど、我慢してね?」


 いきなり、ドアが開いたかと思うと、ライルズが食糧を持って、現れた。


 その後ろから、スザンナも同じく、食べ物と飲み物を運んできた。



「ツナ缶、ミックスビーンズ缶、トマトソースのパスタ缶、コーン缶とかの中身を組み合わせて、簡単なパスタやサラダ風に、アレンジしたものだ」


「レトルト食品よ? フリーズドライのスープやカレー? レトルトのご飯、お粥ね~~」


「ああ、お前らか?」


「また、会うとはね」


 食糧配膳する係りとして、ライルズとスザンナ達が、晩飯を運んできてくれたのだ。


 賢一とモイラ達は、二人を見ると、偶然再開したことに、少しだけ驚いた。



「なあ? シャワールームは何処にあるんだ? 洗濯機の場所も分からないが?」


「シャワールームは、市役所内にあるから案内人に聞いてくれ? 洗濯機は、市役所の隣にある民家の奴を使うんだ? ただ、着替えは無いからな?」


「さっきの戦いで、援軍にきた私たち警備員が、そっちも確保したのよ」


「それで、仮設基地でもないのに、そんな物があるワケね?」


 頭に、?マークを浮かべながら、賢一が質問すると、ライルズが答えてくれた。


 その続きを、スザンナが説明してくれて、モイラは納得しながら腕を組む。



「それなら、後で、熱々のシャワーを浴びに行きましょうかっ!!」


「私も、湯に浸かりたいですね? と言っても、短時間のシャワーが浴びられるだけ、マシですよね」


「幸い、服には血液が付着してないし? 着替えは、まだ我慢できるわね」


「その前に、飯を喰うとしようぜ? 腹が減って、餓死したら、ゾンビ化しちまうかも知れないからな」


「同感だな、腹が減っていては、何のやる気も起きないっ! 明日の救助に備えて、食事にしよう」


 モイラとメイスー達は、汗で濡れた体を洗うべく、熱々の湯を求める。


 エリーゼは、ぐったりとした表情で、二人と同じく、いつ浴室まで行こうかしらと考える。



 腹を空かせているダニエルは、テーブルの上に置かれたトレーから料理を手に取った。


 眉間にシワを寄せながら、ジャンは民間人を救出する事を考えていた。



「ま、届ける物は渡したし、俺たちは巡回任務に戻るぞ」


「まだまだ、後退のシフト時間じゃないからね」


「済まなかったな? ちょうど、腹が空いてたから助かった」


「ありがとうね、これで一息つけるわ」


 一仕事を終えたばかりのライルズとスザンナ達は、まだまだ作業や巡回任務などが残っている。


 そんな二人に、賢一とモイラ達は、礼を言って、食べ物を運んでくれた事に感謝した。



「それより、時間になれば、交代制で入浴やサポートの兵士が、巡回に来るからな」


「その時まで、トイレ以外はなるべく外に出ないでね? 夜は危険だし」


 それだけ言うと、ライルズとスザンナ達は、早々と部屋から退室していった。



「まあ、二人も行ったし? 取り敢えず、飯を食おうか? このパスタ、行けるな? スープも覚めないうちに飲もう? ああ~~自衛隊の戦闘糧食とは、また違った味が美味い」


 今日の戦闘で疲れきっている賢一は、体を癒すべく、麺を口に運び、スープで喉を暖める。



「サラダのサッパリした感じと、カレーの辛味も美味しいですっ!」


「これで、ビールとタバコでも有れば、最高なんだが」


「それは贅沢って、もんだぞ…………この状況では、食えるだけでも有難いと思え」


 冷たい野菜と、ドロドロのカレーを味わい、メイスーは笑顔を見せる。


 文句を言いながら、ダニエルが食べていると、ジャンは説教しつつも、紙コップに手を伸ばす。



「ふぅ? 腹を満たしたぞ」


「だねえ? 非常食とは言え、なかなか豪華だったわ」


「失礼します、シャワールームの順番に成りますので?」


「貴方たちは、感染症の疑いがあるため、我々が同行します」


 夕食を終えたばかりの賢一は、思わず口からゲップが出そうになり、モイラも眠そうな顔になる。


 そんな中、兵士たちが入ってきて、彼等をシャワールームへと案内した。



「はあ、分かった」


「分かってるぜ? 信用がないんだろ?」


「仕方がないわね」


「まあ、こんな扱いよね~~」


 賢一とダニエル達は、素直に従い、エリーゼとモイ達は、椅子から立ち上がる。


 こうして、彼等は汗を洗い流すため、すぐに兵士たちの後に着いていった。



 その途中、電気で照らされてない、暗く長い廊下を歩いていると、外から妙な声が聞こえた。


 まるで、遠吠えや奇声を発する猛獣のような咆哮が、屋外から響いている。



 それに、昼よりも通りを歩く、ゾンビ達の群れは、かなり多いようだ。



「ウオオオオオ~~~~!?」


「ガアアアアァァ~~~~!!」


「このための灯火管制か? 暑いのに、窓も開けてないのは、音が聞こえないようにか?」


「それも、あるでしょうが? 省力化のためにも、電気は使えないのかも? まだ、変電所や発電所は大丈夫そうだけど…………」


 賢一は、廊下の蒸し暑さに愚痴り、インフラ施設を、モイラも軍人として心配する。


 ゾンビやテロリスト等が、水道局や通信施設を狙うと、大変な事になるからだ。



「その通りです、夜になると、ゾンビが凶暴化するため、我々はカーテンを閉めてます」


「まるで、地獄のような光景ですよ? 奴ら、朝より動きは素早くなってますし? それから窓には近づかないで下さい」


 白人兵士と黒人兵士たちは、賢一たちを、シャワールームまで連れていった。

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