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第37話 夜間の遠吠え


 賢一たちは、不気味な吠え声を聞きながらも、市役所内の長い廊下を歩いた。


 やがて、彼等は夜勤職員や災害時などに、使用するためのシャワールームに着いた。



「ここが、シャワールームです」


「我々は、待機してます」


「おお、ゾンビが入って来ないように頼むぜ? ケツを噛まれるなんて、ゴメンだからな」


「下ネタを言ってないで、早くいきなさい」


 白人兵士と黒人兵士たちは、両脇で自動小銃を肩に担ぎながら立つ事にした。


 その真ん中を、ズカズカと歩きながら、ダニエルが冗談を言うと、エリーゼは後ろから蹴りを放つ。



「痛いっ!? ちょ、冗談くらいっ!!」


「そんなこと、言ってないで、早くしないと? また、やられるわよ」


「もう、一撃必要かしら?」


「面倒を起こすな…………子供じゃないんだからな」


「これが、駐屯地内だったら上官に、ペナルティーを喰らってるぞ」


 ふざけながら、シャワールームへと逃げ去っていく、ダニエル。


 そんな彼を見ながら、モイラは呆れ返り、両腕を組ながら、首を振るう。



 エリーゼは、パンチを繰り出そうと身構えたが、冗談で言ってるだけなため、もちろん止めた。


 両腕を組ながら、ジャンは愚痴りつつも、足早に個室へと進んでいく。



 皆の背中を見ながら、賢一は上着を脱ぎながら、歩いて行った。



「と、とにかく、浴室に行きましょう」


 仲間たちに遅れると思って、メイスーは慌てて、子走りし始めた。



「最後のグループですね? 現在、水道水や電力消費の問題から、長くは浴びられませんので」


「女性の方は、どうぞ、こちらへ」


 東南アジア系の男性兵士は、手短に、シャワーを浴びられる時間が短いことを説明する。


 太平洋系の女性兵士も、ドアから避けて、三人を部屋へと案内した。



「ふぅ~~スッキリするぜ」


「ああ、熱い湯が疲れを流す」


 男性用と女性用に、別けられている、シャワールームへと入ったあと、ダニエルは頭を洗う。


 ジャンは、背中に手を回しながら確りと、体の隅々まで、綺麗にしようとする。



「ふぅ? 噛まれても、平気とは言え? 実戦と銃撃音…………ブラックホークダウンとは違うよな? 熱いのに震えが止まらない」


 シャワーを浴びながら、賢一は今日の戦いを思いだし、色々と考えてしまう。


 まるで、喧嘩や教師に然られた後みたいに、恐怖で体が硬直して、緊張からブルブルと震えるのだ。



「はあ? もう自衛隊なんて、辞めようと思っていたのに、こんな事に成るとはな」


 賢一は、戦争映画やアクション映画に憧れて、自衛隊に入隊した。


 しかし、度重なる厳しい訓練や上官からの罵倒に加え、今回はゾンビとも戦った。



 そのため、彼はストレスから心身共に、限界に達しており、恐怖感や倦怠感が浮かんでいた。


 これは、PTSDを発症し始めており、その疲れは、いずれ爆発してしまうだろう。



「時間です? 着替えて下さい」


「もう、そんな時間か? あまり、考えるのは止したほうが良いな? それに生き残らないと、いけないし」


 東南アジア系の兵士が、声をかけると、賢一は即座に、タオルで体を拭いた。


 いつ、PTSDにより、精神が壊れるか、分からないが、それでも今は戦うしかない。



 だから、彼は迷彩服を着ながら、シャワールームから素早く出ていった。


 それから暫くして、兵士たちに護衛されながら、体を洗った彼等は、小会議室へと戻ってきていた。



「ふぁぁ? やっぱり、髪を洗うと、サッパリしますね~~」


「同感だわ、これで、グッスリと寝られる」


「マットかい? よっと、基地や船室のベッドが恋しいわ」


 いつの間にか、小会議室には、青い運動用マットが敷かれており、そこで眠れそうに見えた。


 恐らくは、兵士か警備員たちのどちらかが、就寝用に用意してくれたと思われる。



 ドンッと、ドアから一番に近いマットの上に、身を投げると、メイスーは両手を天に向ける。


 欠伸アクビをしながら、エリーゼとモイラ達も、体を横たえて、すぐに眠ろうと考えた。



「さて、今日は寝ようか? テレビでも見られれば良いが、そうも行かないからな」


「ここには、テレビが無いし? 何にもする事がないからね」


 賢一とモイラ達は、マットに寝転ぶと、すぐに寝ることにした。


 それから、時は過ぎていき、朝陽が市役所を照らす時間になった。



「後は…………ぐっ! うあ」


「早くしろっ! ダラダラしていると、撃ち殺されるぞ」


 有刺鉄線を潜り抜け、泥沼を前進する賢一は、次は崖に垂らされるロープを掴む。


 しかし、彼に狙いを定めた訓練教官は、尻や府ともを後ろから蹴りまくる。



「うわああっ! うおっ!? 冷たい…………ごぼごぼ」


 夜間上陸作戦で、上陸するための揚陸艦から海面に落下した賢一。


 その喉や肺に、大量に海水が流れ込み、苦しみながら叫ぶ事もできず、彼はパニックに陥る。



「グオオオオッ!?」


「グエエエエ~~~~!」


「うぇ…………うあ」


 続いて、ゾンビの大群が現れたかと思うと、一気に、彼を包み込んでしまった。



「うわあっ!? は、は、はぁ? 夢か?」


 右手首を見ながら、僅かに残っている噛まれた後や、周りを眺めては、賢一は溜め息をつく。



「なんだ、朝か? 飯は、まだか~~? やっぱ、ビールがないと良く眠れないぜ~~たく」


「ん? もう起床時間か、昨日の夜を人々は、安全に過ごせただろうか」


「うおし、皆も起きたか? 今日は…………また、ゾンビと戦うのか? 面倒だが仕方がない」


 ダニエルには、今の叫び声が聞こえたらしく、眠たそうな顔で、体を起こした。


 消防士として、早朝の早起きに慣れているため、ジャンも早くに目が覚めた。



 弱みを見せないように、賢一は何事もなかったかの如く、平静を装った。


 内心では、心が悲鳴を上げていたが、今は非常事態であるため、弱音を吐くワケには行かなかった。



「ふああ? 朝だね」


「おはよう御座います」


 続いて、二人も早起きに慣れているのか、モイラとメイスー達も、目を覚ました。



「んあ、朝かしら」


 エリーゼが最後に起きると、コンコンとドアが叩かれる音が室内に響いた。



「朝食の時間です? それと、食べ終わり次第、我々を呼んで下さい」


「物資集積所まで、ご案内します」


 それだけ言うと、白人兵士と黒人兵士たちは、朝食のトレーを置いて出ていった。



「乾パン、クラッカー? それに、インスタントスープ」


「まあ、朝からガツガツ食べると、胃がもたれれるからね? はあ、喉が温まるね?」


 インスタント料理を前にして、賢一が呟くと、モイラはカップに手を伸ばす。


 それから、スープに乾パンを浸しながら、皆で食事を行い、手短に朝食を済ませた。



「はあ、昨日より涼しい感じがするな? 早朝だから潮風が吹いているからか?」


「だろうね、さあ、それより物資集積所に行こうか」


「そうしましょうっ! 済みません、用意ができました」


「時間か、ケッ! 行きたくねぇぜ…………」


 昨日より僅かだが、室内の温度が下がっているのを感じて、賢一は呟く。


 モイラも節電のため、少し暑かった部屋が、今は涼しめになっている事を肌で感じた。



 そんな中、メイスーは勢いよく小型バックパックを背負うと、ドアを開いた。


 愚痴りながらも、ダニエルは後を着いていき、廊下に出て、左右に立っている兵士を見つける。



「時間だろう? 物資集積所まで、案内してくれや?」


「分かりました」


 ダニエルの言葉を聞いて、白人兵士と黒人兵士たちは、彼等を長い廊下へと連れていく。


 そうして、市役所の入口から出ると、業務用バン&コマンドウ装甲車などが、左側に見えた。



「あちらの方で、弾薬が受け取れます」


「隣は、避難してきた商人らしいです」


 白人兵士と黒人兵士たちは、そう言うと、賢一たちから離れていき、市役所に戻っていった。

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