車両により、作成されたバリケードを抜けたばかりの賢一たちは、自動車が走る音を聞いた。
「なんだ?」
賢一は、不意に聞こえた物音に反応して、振り向くと、業務用バンが、入口を塞いでいた。
「門を閉じたのよ? ゾンビ達が入って来ないようにね? さあ、行くわよっ!」
「ここも、守らねば成らないからな」
モイラとジャン達は、いつでも武器を取り出せるように身構えながら街を歩いていく。
昨日、ここら辺のゾンビを倒したからか、近くには連中が、さ迷う姿が見えない。
かなり、遠くに人影らしき物は、幾つかあるが、ふらつきながら移動している。
そのため、彼等は近寄ることなく、交差点を左に曲がっていった。
「さて、ここが薬局の場所か? 一見すると、普通の建物だな?」
「上に、看板が有るから間違いないね」
すこし歩いたあと、賢一たちは市役所の近くにある薬局にまで、たどり着いた。
ここは、二階建ての横長ビルが、左右に存在する商店街らしき場所だ。
雨宿りや日除けのためか、突き出ている二階部分を支えるために、細い柱が地上にある。
様々な店があり、かつては活気につつまれていただろうが、今は閑散としている。
シャッターは閉じられ、窓もカーテンで隠されたまま、誰も入れないように成っていた。
ただ、赤や黄色など、色とりどりの看板だけが、目立っている。
「どうする? ピッキングでも、するか? でも、道具は無いし?」
「そんな泥棒みたいな真似は、出来ないわ…………とは言え、非常自体だから無理やり、ドアをブチ破ろうかしら」
「銃弾を撃つのか? 周囲に、ゾンビが存在しないといいがな」
「ゾンビが来たら、また戦わないと、怖いですっ!」
ガタガタと音が鳴らしながら、賢一は持ち上げようとしていた。
しかし、薬局の入口は、シャッターで閉められており、オマケに鍵がかかっていた。
仕方がないので、モイラは下側にある鍵穴に向かって、コルト45を向ける。
辺りを見渡し、ジャンは警戒感を高めながら、フレッシャー&ジャンピンガー達を、待ち構える。
恐怖感から、メイスーは中華包丁を取り出して、戦闘になった場合に備えた。
「ああ、確かに射撃音で、奴らが寄って集ってくるだろうなっ! 俺も備え無ければっ!」
「その前にっ! 伏せてっ!」
「うわっ! な、なんだいっ!?」
「ゲロロッ!」
スラム街に漂う雰囲気を感じて、ダニエルは直ぐさま、腰からトカレフを抜いた。
エリーゼも、危険を察知して、モイラを背後から突き飛ばした。
その直後、スピットゲローによる強酸が飛んできて、シャッターを汚した。
シュゥゥ~~と言う音とともに、喉が焼けるような臭い匂いが漂う。
「反撃だっ! ライフル弾を喰らいやがれっ!」
「野郎っ! ブチ抜いてやるっ!」
「ゲローーーー!?」
「きゃあっ! あれ?」
賢一は、AR15を構え、ジャンも背中から、モスバーグ500を抜き取ろうとした。
しかし、先に誰かが、スピットゲローの頭部に何発か、弾丸を当ててしまった。
それを見て、メイスーは驚き、二階の方を見上げると、誰が撃ったかと確認しようとした。
銃撃は、何度も放たれたため、遠くからゾンビ達が集まってきた。
「ウガアアアア~~~~」
「ギュイイーー」
「クソがっ! ゾンビが来やがるっ! 窓を開けるんじゃなかったぜっ!」
「誰か居るのね? 私たちが援護するわっ! ゾンビ達は撃ち抜くっ!」
「近づいてきたら、首を叩き切るわ」
フレッシャー、ジャンピンガー等に混じり、ウォーリアー達まで、やってきた。
二階からは、次々に拳銃弾が鳴り響き、向かい側の屋根に乗っかった、敵を撃ち殺していく。
右側右から、迫りくる死者たちに対して、モイラは、コルト45から弾丸を放つ。
左側の方は、エリーゼが両手で、ハチェットを振るわんと頭上に掲げた。
「グギャアーー!?」
「グエエ…………」
竹槍を持って、突撃してくる黒人ウォーリアーは、何発か弾丸を浴びて、前のめりに倒れた。
フレッシャーは、首にハチェットの刃を叩き込まれて、後ろに転んでしまった。
「次々と来やがるっ! 射撃で、仕留めなければっ!」
「賢一、お前のM16、連射できないのかよっ!」
「この距離なら、銃は間に合わないか? タガネで頑張るしかないっ!」
「くく、くるなら? 中華包丁で、切り裂きますよっ! だから、来ないでっ!」
左側から迫るウォーリアー達を、賢一は単発射撃で、何発もライフル弾を浴びせていく。
対するダニエルは、右側から迫るフレッシャー達に、トンプソンを連射しまくる。
小走りで突撃してくるゾンビの頭に、ジャンは思いっきり、タガネを打ち込む。
攻撃を潜り抜けてきたばかりのジャンピンガーを、メイスーは何度も切り刻む。
「俺のは、AR15つって、民間用だから単発でしか、撃てないんだよっ!」
「ああ、だったら、もっと撃てっ!」
「ギャアッ!」
「グエエエエ~~」
賢一は、すばやく引き金を動かし続け、何発ものライフル弾で、ウォーリアー達を倒していく。
中には、木槍や鉄パイプ槍などを持っている連中を、二体同時に弾が貫通する。
一方、ダニエルのトンプソンは、連射速度は遅いが、バラまいた弾丸により敵を足止めする。
こちらは、致命傷には成らないが、腹部や手足に当たった者らを、一時的に怯ませた。
「あと、一体、終わりだよ…………ふぅ」
ウォーリアーは、45口径弾が、胴体に何発か当たるとともに、後ろに倒れ込んだ。
モイラは、両手に握るコルト45を下げて、もう安全になっただろうかと、辺りを確認する。
「これで、全部か? おい? 上のアンタ、頼むから薬を分けて、くれないかっ! 病院で困ってる人間が存在するんだ」
「ああ? お前ら、ギャングだろう? 信用成らないから無理だっ!」
賢一は、汗まみれになった顔を天井に向けて、薬局の店長らしき人物に声をかけた。
「さっさと、行かないならマグナム弾を喰らうぞっ! せっかく、外で喫煙しようとしてたのに、全く、ゾンビが出やがるとはっ!」
店長らしき人物は、姿こそ見えないが、下手に窓の下に出ていけば、射殺されるかも知れない。
そう考えると、みんなは動けなくなってしまい、どうやって、説得しようかと悩んだ。
「俺たちは、ギャングじゃないっ! 撃たないでくれっ! 俺は日本国自衛隊員だっ!」
「こっちは、海兵隊員だよ」
「知るかっ! どうせ、ゲリラやギャングだろっ!」
賢一は、もう少し説得しようと試み、モイラも声を出したが、店長らしき人物は怒鳴るばかりだ。
「いや、違うっ! 俺たちは救助隊なんだっ! 頼むから助けてくれっ! 俺は、地元の消防士なんだ」
「あん? 消防士だと? じゃあ、グラットンの名前は?」
ジャンが必死で説得しようとすると、店長らしき人物は反応してきた。
「レックス・グラットンだろう? 俺より、何歳か歳上の消防士だっ! いつも、酒の代わりに、果物系のジュースを飲んでる奴だっ!」
「よく分かったな? 俺の親戚だっ! 信用してやるっ! だが、薬を受け取ったら帰れよっ! 何が必要なんだっ!」
説得が成功したため、ジャンは窓の下にまで向かいだし、店長は姿を見せた。
彼は、東南アジア系であり、赤いTシャツを着ており、両手に44マグナムを握っていた。
「ああ、待ってくれ? 賢一、頼む? 紙を持っていただろう」
「ここに、必要な薬をメモした紙があるっ! 今出ていくから撃つなよ? それから、紙を投げるけど手榴弾と勘違いするなよっ!」
ようやく話が通じたため、ジャンは胸を撫で下ろすと、賢一を呼んだ。
「これか…………ふんっ! 今、袋ごと渡すから待っていろ」
こうして、店長から袋ごと、複数の薬を投げ渡されて、賢一たちは依頼を無事完了した。