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第40話 缶詰め工場へと


 店長から薬品を貰って、賢一は疑問に思っていたことを聞いてみた。



「アンタは避難しないのか? ここのゾンビは、今ので居なくなったから安全だ? 近くに市役所もある」


「そうしたいが、さっき見たいに、奴らは不意に群れで、現れやがるっ! それに、昨日の戦いは激しかったじゃないか?」


 ゾンビ達を一掃したことで、一時的な安全地帯となったため、賢一は店長に避難を促した。



「そうだな? 分かった、無理に避難は進めない…………けど、病院や市役所から連絡があったら協力してくれっ!」


 店長が、危険な街に出たくないと、避難を拒否したため、賢一は代わりの提案を出した。



「代わりに、アンタらが安全なように、こっち側にも、市役所のバリケードを広げるように言っておくからな」


「ああ、頼むぜ? まだ、奥に薬剤師が隠れて居るんだからな」


 賢一は、それだけ言うと、薬局から離れていき、店長と別れた。


 こうして、彼らは缶詰め工場に向かうべく、道路の右側を進んでいった。



『甘か? 今、兵士から頼まれている缶詰め工場に向かう? 市役所の連中には、付近にある薬局まで、防衛範囲を広げて欲しいと伝えてくれ』


『その理由は何だ? 今、兵士や警官たちは避難民の救出やプルケト・イスラム解放戦線の相手で忙しいんだ』


 賢一は、行き先を告げながら、大通りを歩き、ゾンビとの接触を避けようとする。


 無線機の向こうで、甘は頼まれた事に関して、何も知らないため、何故だと思う。



『そっちの缶詰め工場だって、本当は君らが捜索しなくていいし、行っても確認するだけだぞ? 主目的は、首都への道を確保すること何だからな』


「分かっている? ただ、薬局の薬剤師たちを見つけたんだが、救出部隊は寄越せないんだろ?」


 甘の不思議に思っているであろう声に、賢一は民間人を救出するためだと告げる。



『その通りだ? さっき言った通り、どこも人手が足りてないからな』


「だから、市役所から救出に来るより、バリケードで安全圏自体を広げて貰おうと思ってな? ここから近いし、資材が揃ったら可能だろう」


 甘の言葉に、賢一は答えながら、メインストリートを歩いていく。


 広い道路には、焼け焦げた自動車や血濡れた地面があり、戦闘と混乱が激しかったと思われた。



 路上には、真ん中を区切る石垣に、美しいピンクや黄色の花が、植えられている。


 それとは、対照的なシンと静まりかえった雰囲気は、独特の不気味さを醸し出していた。



 このアンバランスな景色に、違和感と警戒感を募らせ、皆はゾンビが現れないように祈った。



「今朝、バリケードを見たが? 安全区域を増やそうとしてたな? それを、市役所の北側にまで広げてくれればいい」


 市内には、まだ多数の車両が残っており、賢一は兵士と警備員たちが、それらを活用すると考える。



『ああ、その通りだ…………トラック部隊が戻ってきたら、そうさせる? その時はバリケードの資材も増えているだろうからな? 彼らには、それまで待機して貰ってろ』


「分かった…………通信を切るぞ」


 それだけ言うと、甘との連絡を終えて、賢一は、真っ直ぐに前を見た。



「あの建物か、かなりの規模だな? ふぅ~~何か飲み物が欲しいぜ」


「贅沢を言わないの? 軍人なら、ジャングルで泥水もすすらないと」


 そこに見えるは、海に近い場所にある幾つかの建築物が、ズラリと並ぶ姿だ。


 大型タンク、工場、巨大倉庫などを目にして、賢一は、余りの暑さに移動することに嫌気がさす。



 モイラは、疲れを全く感じさせず、一気に、トラックの運転席から屋根に飛びった。


 そこから、周囲を見渡して、事故を起こしたり、乗り捨てられている車両と死体などを見渡す。



「俺は、さっさと自衛隊を引退して、アニメーターとか? ゲームプログラマーに成りたかったんだよ…………今度の訓練後に船から降りる積もりだったんだ」


 トホホと言うような顔を見せながら愚痴り、賢一は日焼けした真っ赤な両手を見つめる。


 平和主義者からは戦闘狂と見なされ、平時には無駄飯食いで、不要の産物と思われる自衛隊。



 その中でも、日々特訓と称する訓練は、過酷を極め、期間内に昇進しなければ首になると言う現実。


 しかも、実戦には参加させて貰えず、ただ戦う不利を続ける毎日に、彼は内心鬱憤を溜めていた。



 例え、実戦に参加したとして、秘密裏に自害や事故として、処理されてしまう。


 これは、イラクやベトナムに派遣された自衛隊員たちが辿る、公然の秘密だ。



「実戦に参加したい時は、絶対させてくれないで、兵隊を辞めたい時に実戦参加するとはな」


 ヒーローに成りたかったが、賢一は自衛隊員と言う半端な軍人のような存在に飽々していた。


 そして、辞める決心がついていたのに、いきなり、ゾンビ達による災害に巻き込まれた。



 彼は、戦闘訓練や実戦参加が、もう腸が煮えくり返るほど嫌になっていた。


 公的な軍人でもなく、民間人でもなない自衛隊と言う組織から、ただ離れたかったのだ、



「そんな泣き事ばかり、言っている暇は無いわ? スクープを探しに行くのよ」


「缶詰め工場だけじゃなくて、他の品物も扱っているんだろうな? きっと、あそこにも軍人たちが救助を求めているに違いない」


「コンクリートジャングルなら、泥水じゃなくて、カクテル、アイスコーヒー、エナドリとかが有るかもな」


「食べ物も、何処かにあるといいんですけど…………そう簡単に見つかりはしないですよね」


 エリーゼは、未だに戦場ジャーナリストとして、どんな危険にも飛び込む積もりだ。


 それは、戦争の真実や悪徳政治家による不正を追及する使命感があるからだ。



 工場の規模を見て、ジャンは呟きながら、眼孔を鋭くさせつつ、険しい顔つきになる。



 対するダニエルは、パンチを何度も突き出しながら、笑顔で歩いていく。


 不安そうな顔のメイスーは、誰よりも後ろを歩き、さらに背後を気にしては、何度も振り返る。



「モイラ、何か見つかったか? いや、ここも死体だらけだな」


「観光客やガイド、他にも色んな人々だった遺体だわ? でも、気をつけて」


 賢一が、トラックの後部付近にまでくると、モイラはコンテナ上部から、サッと飛び降りた。


 そうして、二人が辺りを眺めると、地元民や観光客の死体が転がっている様が、目に映った。



 自動車によって、下敷きにされた白人男性、何発も銃弾に撃たれたであろう黒人女性。


 鉄パイプを握りしめながら、死んでいるアラブ系の富豪、腹を食い散らかされた白人女性。



 さらには、路上に倒れるアジア系の警官など、混乱が酷かった事が分かる。



 戦闘や事故、ゾンビの襲撃などにより、無惨な姿となり果てた犠牲者たちを、二人は哀れに思った。



「変な感じがするわ…………罠や伏兵が潜伏している? WW2の日本兵みたいに、ゾンビが死んだ振りをしているわね」


「それは困ったなっ! ゲリコマ対策訓練は、受けたが? 相手が動く死体となると」


「グアア~~?」


 ジャングルでの活動経験と市街戦などが、かなり豊富なため、モイラは妙な気配を感じた。


 賢一も、それを言われた後、たしかに不審な空気が漂い、どうも倒れる死体たちが怪しく見えた。



「やっぱり、動き出したかっ! お前ら、銃器は使うなよっ! 音が他の連中を引き寄せてしまうからな」


 軽自動車の下から這いでてきた黒人ゾンビを見て、賢一は素早く走る。


 そして、アゴを蹴飛ばし、頭を踏みつけて、一気に倒してしまった。



「ウガアア?」


「アア…………」


「確かに、そうしないと成らないわ」


「俺の連続パンチを喰らえっ!!」


 身を屈めると、モイラは鞘から、マチェットを引き抜いて、近くのゾンビに向かった。


 両手を何度か、ぶつけ合わせて、髑髏指輪をカチカチと鳴らしながら、ダニエルは歩いていく。



 その間にも、ゾンビ達は、さまざまな場所から、ゾロゾロと姿を現す。


 フレッシャーは、路上から起き上がり、ジャンピンガーは、トラックのコンテナを開いて出てきた。



 連中は、肉の匂いを嗅いだか、足音に反応したらしく、獲物を見つけようと歩きだし始めた。

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