目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報

第41話 缶詰め工場への道


 賢一たちは、大通りを歩いていたが、物言わぬ死体たちが、一斉に動きだした。


 事故を起こした軽自動車やタクシーの陰から、ゾンビ達は、ノロノロと歩いてくる。



「グルアア?」


「ウアア…………」


「頭を攻撃すれば、もう一度、死ぬわよ?」


「ウラッ! ウラッ! 喰らえ」


 エリーゼは、フレッシャーの正面に回り込み、顔面を、あまり物音が鳴らないサップで殴りまくる。


 ダニエルは、ジャンピンガーに背中から襲いかかり、地面に押し倒しながら、頭を叩きつけた。



「ウギャッ!?」


「グルアアッ?」


 フレッシャーやジャンピンガー達は、動き出したり、騒いで、他のゾンビ達を集めたら厄介だ。


 なので、こちらに気がつく前に、密かに近づかれ、優先的に倒されてゆく。



「済まないけど、私達のために、死んでくれ」


 そう言って、モイラは一体のゾンビを背後から捕まえると、首を切り裂いてしまう。



「ふぅ? これで、全部かしら? しかし、これ以上は持たないわ」


 奥には、白い大型バスがあり、こちら側から向こうの様子は、見えなくなっている。


 一仕事を終えて、モイラは次なる敵を探しながら、辺りを警戒する。



「ウアアアア…………」


「アアアアアア」


「グオウアアアアーーーー!!」


「ガルルッ!」


 大きなバスの車体は、姿こそ見せないが、反対側でも、ゾンビ達が騒いでいる様子が分かる。


 しかも、かなり声が大きなゾンビが叫んでいるらしく、下手に近づくのは不味い感じがした。



「どうする? ここから先に行くとなると、連中の合間を通らないと成らないが?」


「どうするも、こうするも、ゾンビ達を避けて行くしかないわ」


「こっちだっ! あの巨大なゾンビからは離れているし、トラックの陰から救援に向かえる」


「密かに進めば、車列の裏から先へと進めますね?」


 地面に伏せて、バスの下から、賢一とモイラ達は、ゾンビ達が動く様子をさぐる。


 右側の方では、ジャンとメイスー達が、太った巨漢ゾンビと赤い中型トラックを見つけた。



 路上に視線を移すと、他にも多数のゾンビ達が歩いており、とても安全に進めそうではなかった。


 だが、二人が見つけた車列の方は、比較的に動く死者たちが少ない。



 ここからなら、上手く行けば、見つからずに先へと進めるだろうと、皆思った。



「ふぅ? 行くかっ! 先導する、着いてこい…………」


「私たちが、案内するよっ!」


「ウガ?」


 賢一とモイラ達は、バス右側から飛びでていき、赤いトラックの後ろから運転席へと向かう。


 途中、巨漢ゾンビが反応したが、二人が姿を車体の陰で動かなくなると、再び気にしなくなった。



「危なかったぜ」


「まだまだよ」


「この先、ウヨウヨしてやがる」


「黙ってて、見つかるわ」


 赤いトラックから先は、事故を起こした車両が何台も、電車のように繋がっている。


 しかし、場所によっては、左側のゾンビ達から気がつかれてしまう可能性がある。



 それを気にしながらも、賢一とモイラ達は、素早く移動しようとする。


 二人は、特殊部隊員であるため、足音を立てずに、うまく次の軽トラまで行けた。



 そのあとを追って、ダニエルが早歩きすると、エリーゼも同じように動いた。



「アアアア」


「ウウエ~~」


「お前ら、こっちに来るんだ」


「今、そちらに行くっ!」


「すこし待ってて、ください…………」


 ゾンビが路上を歩きまわる中、賢一は、軽トラの車体に、身を隠しながら連中を見張る。


 そして、後ろに振り返り、まだ来てない仲間たちを呼ぶが、ジャンとメイスー達は動けないでいた。



「おい? 本当に、今は無理っぽいぜ」


「不味いね、下手に動けないんだわ」


「ア、アア~~」


「ウオオオオ」


「こ、これじゃ、そっちまで行けない」


「不味いな? これでは救出される側だ…………」


 ダニエルは、最後の二人と敵を見ながら呟き、エリーゼは険しい目を路上にむける。


 ピックアップや業務用バンなとの周りを、巨漢ゾンビを中心に、ゾンビ達が気だるげに歩いている。



 そんな中、メイスーとダニエル達は、増え始めた連中の様子を伺いながら動けないでいた。


 軽トラから、後ろの車両は、玉突き事故を起こしており、そこから先は身を隠しながら進める。



 しかし、二人が出ていこうとすると、どれか一体は、彼らが歩いているのを発見する危険性がある。



「メイスー、ジャン…………何か使える物は? はっ! これだっ!」


「ウガッ?」


「ギャギャギャッ!」


 二人を助けるべく、賢一は、車両同士が衝突した際にできた破片を掴むと、勢いよく投げてみた。


 すると、ゾンビ達は、物音が木霊した方に振りむいて、そちらに向かっていく。



「ウゴアアアア~~~~!?」


「アア」


「ウグアア…………」


 巨漢ゾンビは、腹から垂れている真っ赤な腸を掴むと、ブシャーーと、血液を噴射する。


 それは、太陽光が反射して、紅いレーザー光線のように見えた。



 また、ゾンビ達も物音が、カツンと鳴り響いた方向に、引き寄せられていった。


 こうして、安全な道を確保した彼らは、二人と無事に合流できるようになった。



「今だっ! メイスー、行くぞっ!」


「えっ! ええ、行きましょう」


 ジャンが、なるべく音を立てないように走り出すと、メイスーも屈みながら動きだす。



「よし、きたなっ! 大丈夫そうだな…………今のうちに、次に行くぞ」


「さっさと、行くわよ? ここに留まるのは危険だわ」


「ゴグアアアアーーーー!?」


「うひゃあっ! チビるとこだったぜ?」


「ひいいっ!!」


 賢一は、軽トラから青いダンプカーに、それから業務用バンへと移動していく。


 モイラも後を追っていくが、その背後から巨漢ゾンビが、凄まじい咆哮を上げた。



 それを聞いて、ダニエルは焦ってしまい、メイスーは両目を瞑りながら屈んでしまった。


 しかし、ゾンビ達の注意は向こう側に集まっており、こちらに気がつく様子はなかった。



「安心しろ? ここから先は、もう俺たちの姿が見えないからな」


 そう言って、賢一は青いダンプから、白い業務用バンの脇を通り、黒いジープまで歩いてくる。


 ここまで来ると、もう安全だと思っていたが、この先は、自動車が列を作ってなかった。



「チッ! 後は、あちこちに散らばる車を通りながら行くしかない」


「ステルス行動を続けるしかないわ、また私たちが先導するわよ」


「はあ、ゾンビ達の合間を通らないと成らないとわねっ!」


「うげげ、危ない橋は渡りたくないのにっ! アッラーよ? 俺を亡者達から守りたまえ」


「アンタ…………ムスリムなのに、酒飲むの? さっき、酒飲みたいと言ってたわよね?」


「酒の飲み過ぎは、体に良くないぞ? それに、いざと言う時に、判断力が鈍る」


「その前に、これが飲み過ぎによる悪夢であって、欲しいです…………」


 辺りを見渡すと、先ほどとは違い、広い道路と景色が見えてきた。


 賢一は、素早く歩き、ゾンビ達に見つからないように、オレンジの軽自動車へと向かっていく。


 レモン色の乗用車へと、すぐさま走っていった後、モイラは周辺を見渡す。



 右側には、さっきと同じく、石垣の向こうに、看板を掲げる色々な店屋がある。


 左側にも、三階ほどのサーモンピンク色をした長い商業ビルがあった。



 愚痴りながら、二人の後を追って、ダニエルは物陰から密かに歩いていく。


 エリーゼも、腰を曲げながら慎重に移動していき、何とか石垣へと、すばやく身を伏せた。



 ジャンとメイスー達は、二人とも右側に停めてあるバイクの裏に隠れた。



「ウラアア、アアッ!」


「グラアッ!」


「喧嘩するな、注意を集めちまうだろうが…………」


 路上を歩く料理包丁を持っている料理人ゾンビが、観光客ゾンビと肩が、ぶつかってしまった。


 その結果、二体は暴れだし、賢一は連中が、ゾンビ達を呼び寄せないかと心配した。



「動きが悪いな? ありゃあ? 甘の言っていた、ウォーリアーじゃなくて、ただの武器持ちゾンビか?」


「ガアガア、ガアガア」


「グルオオオオ」


「ギャギャアア~~」


「ウォーーーー!!」


 二体の様子を伺いながら、賢一は観察を続けていると、予想した通り、ゾンビの大群が現れた。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?