事故や避難などの理由から、放棄されたであろう自動車に、賢一たちは身を隠していた。
「ウエアア?」
「グルアアアア」
「グエエ」
「うわあ…………現れやがった…………」
「ひぃぃ」
賢一は、ゾンビ達を睨み、オレンジ色の軽自動車から、ひそかに観察する。
そして、段々と近づいてくる連中を前にして、車体の下に、すばやく
メイスーは、鉈包丁やバールなどを持っている、ウォーリアー達を見て、青ざめてしまう。
集団で迫るのを間近にすると、彼女は恐怖感から気分が悪くなって、身動きできなくなる。
「グアア、ウルア」
「ギョエエエエ」
「グエ、グエエ、アアアア」
「グルアアアア?」
どうやら、ゾンビ達は獲物を探しているらしく、アチコチに目を向けながら歩いてくる。
進軍する彼らは、バイクや大型トラックを避けながら進軍してくる。
レモン色の乗用車を、隠れ
ダニエルは、身を隠すため、ぐうぜん路上に落ちていた段ボールの中に入った。
「ふぅ? 助かったわ」
「…………お願いだから、気がつかないでくれよ」
モイラとダニエル達は、それぞれ息を潜めながら、大群が通りすぎるのを、ひたすら待つ。
「頭を下げろ、今は身動きするのは不味い」
「は、はい…………です」
中型バイクの陰で、ゾンビ達に見つからないように、ジャンとメイスー達は、じっと動かない。
「ヤバいっ! あの二人の場所は、下手したら見つかってしまうっ! また、この手を使うしかない」
慌てながら、賢一は、投げれば音が鳴りそうな小石や破片を探す。
すると、近くに貝殻が落ちているのを目にすると、勢いよくつかんで、石垣にむかって投げた
ゾンビの大群は、進軍するにつれて、蠢きながら悪臭を放ち、押し寄せていた。
しかし、カツーーンと、石と貝が当たった事で、群れは反響音に引き寄せられていった。
「ウオオッ!?」
「ギャギャ、ギャギャ」
「グエエ~~~~」
「フガアアアア」
群がるゾンビ達は、自動車やトラックを避けながら、石垣の方へと進んでいく。
腐敗した体は、黄土色や灰色に濁り、腕をダラリと垂らしながら歩いている。
眼球は、充血しており、口からは断続的な呻き声を発しながら、獲物を捕らえようと進む。
そんな中、連中の気が逸れている間を、賢一たちは好機と捉えて、すばやく動いた。
「よし、今すぐ動くぞっ!」
賢一は、左側に集まっていく、ゾンビ達を尻目に、キャンピングカーへと走っていく。
「うしっ! 中には誰もなし…………」
キャンピングカーの左側ドアから入ったあと、賢一は、すぐに車内を確認する。
そして、仲間たちを探すと、ジャンとメイスー達が身を隠しているさまを発見した。
「二人は、無事に次の隠れる場所に向かったか?」
「ちょっと、入れてよ…………隠れる場所が失くなったんだから?」
彼らの様子をみて、賢一は車内に戻ろうとすると、エリーゼが入ってきた。
「済まんっ! 石垣より、もっと向こう側に投げるべきだった…………あの二人を助けるために、焦ってたんだ」
「それより、次は何に隠れながら何処に進む?」
賢一は、ゾンビを引き寄せてしまった事を、詫びるが、エリーゼは青いスポーツカーに目をむける。
「行くわよっ!」
「あっ!」
青いスポーツカーまで、エリーゼは走っていくと、フロントに貼りついた。
賢一も、その後を追っていき、彼女とともに索敵しようと、周辺を警戒した。
スポーツカーの奥にも、血が付着した白いタクシーがあり、ダニエルが下に潜りこもうとしている。
その右側にある黒いバジャイには、モイラが身を隠そうとして、身を屈める姿が見えた。
ジャンとメイスー達は、キャンピングカーの側まで、やってきた。
「こっちにまで来たか? あの灰色ビルの交差点を曲がるぞ、二人とも良いな? 先導する」
「決まったわね、さあ行きましょう」
「そうだな、アレを越えたら缶詰め工場に行けるしな」
「ふぅ? もう少しですけど、まだまだ敵が…………」
少し遠くに見える灰色ビルを、賢一は指さして、それから忍び足で、バジャイへと移動する。
その後を追って、白いタクシーへと、なるべく音を立てないように、エリーゼは向かっていく。
ジャンは、青いスポーツカーに行くと、そこから景色を眺めつつ、路上を彷徨くゾンビ達を睨む。
同じく、腐敗臭を発する連中を見ながら、メイスーは疲れた顔を、さらに青くさせる。
「メイスー、大丈夫か? ここから先は、車が少ないし? 隠れていくにも限界がある? 取り敢えず、肩を貸すか」
「賢一、俺が連れていくっ! 賢一、彼女の心配は要らない」
「い、いえ、心配ないです…………臭いが、キツかっただけです」
「そんな事より、かなり厄介な相手が来たわ…………」
賢一とジャン達は、メイスーを心配したが、深呼吸をした彼女は、真剣な表情を見せた。
そんな中、エリーゼは前方に、ウォーリアー&ジャンピンガー達が、いきなり現れたのを視認した。
「建物の上には、ゲロ吐きに走り屋まで、出やがったか…………」
「ゲロロ、ゲロローー」
「ギャアアァァァァ」
右側のカラフルな店舗や平屋からは、スピットゲローが現れて、屋上から路上を見下ろす。
左側のアパートからも、フレッシャー達が、一斉に飛びおりてきて、道路を徘徊しはじめる。
賢一は、連中を睨みながら、じっと何処かに過ぎ去っていくまで、待ち続けることにした。
そのため、ゾンビ達は何体かだけ、路地や店内へと入っていった。
「こりゃあ、数が多すぎる? しかも、上から見張られているからな」
「とは言え? カエル野郎は、二体しか見張ってないわ」
「それも、常に下を見ているワケじゃない…………ただ、屋上に立っているだけだ」
「どうします? このまま居なくなるまで、待ちますか?」
多数のゾンビが現れてきたため、賢一は困り果ててしまい、身動きが取れなくなる。
同じく、キャンピングカーの車内から、エリーゼは、屋上を睨みながら呟く。
ジャンも、スピットゲロー達の動きを観察しながら、とにかく隙を伺う。
不安げな顔のまま、メイスーは連中が過ぎ去るまで、大人しく待機していようと考えた。
「ああ、そうしよっ!? はあっ? 後ろから来てるな」
「アアアア」
「ウェアアアア~~~~」
下手に動くよりも、賢一も待つことで、敵が減ってから行動しようと思った。
しかし、先ほど通った道からも、ウォーリアーを含むゾンビ達が、こっちに向かってきた。
「クッ! これじゃ、隠密行動や暗殺もできない」
「確かに、この状態では…………はっ!」
後ろからも、数は少ないが、ゾンビが迫る状況き、賢一は困り果ててしまう。
そんな中、メイスーはドアから離れていたが、小型バックパックから何かを取りだした。
「いや、私に任せてくださいっ! 丸ノコがあったはずです」
「そんな物で、何をするんだ? 近づくのも…………待てよ?」
「まさか…………忍者みたいに、殺るのね」
「投擲するのか、それなら、隠れながら攻撃できるな」
メイスーは、丸ノコを取り出すと、投擲しようと、ドアから出ていく。
賢一も、彼女が行おうとする事が分かり、止めようと伸ばした手を引っこめた。
エリーゼとジャン達も、その様子を見守りながら、ゾンビ達が殺られるさまを眺めようとした。
その時、ちょうど、白人ゾンビと黒人女性フレッシャー達が、ふらつきながら歩く姿が見えた。
「そうですっ! みんな見てて、くださいっ!」
「グエンッ!?」
「ゲガッ!!」
白人ゾンビの首には、刃が刺さり、黒人女性フレッシャーも、こめかみを切り裂かれた。
メイスーによる投擲は、正確であり、二体を簡単に倒してしまった。
「うらっ! 止めだよ」
「グア…………」
「これなら行けるっ!」
「ゲロロッ!」
「やったな、モイラ達も動いたようだ…………あっ! 不味い、上の連中がっ!」
地面に倒れたまま、動けない白人ゾンビに、モイラは後頭部から、多用途銃剣を突きさした。
ダニエルは、白人女性フレッシャーの背後に回り、ボロナイフで首を切り裂こうとする。
賢一は、メイスーの活躍を喜ぶが、彼は屋上から見張るスピットゲロー達に目をむけた。
どうやら、連中は下から聞こえた物音に気がついたらしく、路上を覗きこもうとしていた。