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第42話 ゾンビの大群を避けながら交差点まで向かえ


 事故や避難などの理由から、放棄されたであろう自動車に、賢一たちは身を隠していた。



「ウエアア?」


「グルアアアア」


「グエエ」


「うわあ…………現れやがった…………」


「ひぃぃ」


 賢一は、ゾンビ達を睨み、オレンジ色の軽自動車から、ひそかに観察する。


 そして、段々と近づいてくる連中を前にして、車体の下に、すばやく匍匐ほふく前進していく。



 メイスーは、鉈包丁やバールなどを持っている、ウォーリアー達を見て、青ざめてしまう。


 集団で迫るのを間近にすると、彼女は恐怖感から気分が悪くなって、身動きできなくなる。



「グアア、ウルア」


「ギョエエエエ」


「グエ、グエエ、アアアア」


「グルアアアア?」


 どうやら、ゾンビ達は獲物を探しているらしく、アチコチに目を向けながら歩いてくる。


 進軍する彼らは、バイクや大型トラックを避けながら進軍してくる。



 レモン色の乗用車を、隠れみのにするべく、モイラは下に潜っていく。


 ダニエルは、身を隠すため、ぐうぜん路上に落ちていた段ボールの中に入った。



「ふぅ? 助かったわ」


「…………お願いだから、気がつかないでくれよ」


 モイラとダニエル達は、それぞれ息を潜めながら、大群が通りすぎるのを、ひたすら待つ。



「頭を下げろ、今は身動きするのは不味い」


「は、はい…………です」


 中型バイクの陰で、ゾンビ達に見つからないように、ジャンとメイスー達は、じっと動かない。



「ヤバいっ! あの二人の場所は、下手したら見つかってしまうっ! また、この手を使うしかない」


 慌てながら、賢一は、投げれば音が鳴りそうな小石や破片を探す。


 すると、近くに貝殻が落ちているのを目にすると、勢いよくつかんで、石垣にむかって投げた



 ゾンビの大群は、進軍するにつれて、蠢きながら悪臭を放ち、押し寄せていた。


 しかし、カツーーンと、石と貝が当たった事で、群れは反響音に引き寄せられていった。



「ウオオッ!?」


「ギャギャ、ギャギャ」


「グエエ~~~~」


「フガアアアア」


 群がるゾンビ達は、自動車やトラックを避けながら、石垣の方へと進んでいく。


 腐敗した体は、黄土色や灰色に濁り、腕をダラリと垂らしながら歩いている。



 眼球は、充血しており、口からは断続的な呻き声を発しながら、獲物を捕らえようと進む。


 そんな中、連中の気が逸れている間を、賢一たちは好機と捉えて、すばやく動いた。



「よし、今すぐ動くぞっ!」


 賢一は、左側に集まっていく、ゾンビ達を尻目に、キャンピングカーへと走っていく。



「うしっ! 中には誰もなし…………」


 キャンピングカーの左側ドアから入ったあと、賢一は、すぐに車内を確認する。


 そして、仲間たちを探すと、ジャンとメイスー達が身を隠しているさまを発見した。



「二人は、無事に次の隠れる場所に向かったか?」


「ちょっと、入れてよ…………隠れる場所が失くなったんだから?」


 彼らの様子をみて、賢一は車内に戻ろうとすると、エリーゼが入ってきた。



「済まんっ! 石垣より、もっと向こう側に投げるべきだった…………あの二人を助けるために、焦ってたんだ」


「それより、次は何に隠れながら何処に進む?」


 賢一は、ゾンビを引き寄せてしまった事を、詫びるが、エリーゼは青いスポーツカーに目をむける。



「行くわよっ!」


「あっ!」


 青いスポーツカーまで、エリーゼは走っていくと、フロントに貼りついた。


 賢一も、その後を追っていき、彼女とともに索敵しようと、周辺を警戒した。



 スポーツカーの奥にも、血が付着した白いタクシーがあり、ダニエルが下に潜りこもうとしている。


 その右側にある黒いバジャイには、モイラが身を隠そうとして、身を屈める姿が見えた。



 ジャンとメイスー達は、キャンピングカーの側まで、やってきた。



「こっちにまで来たか? あの灰色ビルの交差点を曲がるぞ、二人とも良いな? 先導する」


「決まったわね、さあ行きましょう」


「そうだな、アレを越えたら缶詰め工場に行けるしな」


「ふぅ? もう少しですけど、まだまだ敵が…………」


 少し遠くに見える灰色ビルを、賢一は指さして、それから忍び足で、バジャイへと移動する。


 その後を追って、白いタクシーへと、なるべく音を立てないように、エリーゼは向かっていく。



 ジャンは、青いスポーツカーに行くと、そこから景色を眺めつつ、路上を彷徨くゾンビ達を睨む。


 同じく、腐敗臭を発する連中を見ながら、メイスーは疲れた顔を、さらに青くさせる。



「メイスー、大丈夫か? ここから先は、車が少ないし? 隠れていくにも限界がある? 取り敢えず、肩を貸すか」


「賢一、俺が連れていくっ! 賢一、彼女の心配は要らない」


「い、いえ、心配ないです…………臭いが、キツかっただけです」


「そんな事より、かなり厄介な相手が来たわ…………」


 賢一とジャン達は、メイスーを心配したが、深呼吸をした彼女は、真剣な表情を見せた。


 そんな中、エリーゼは前方に、ウォーリアー&ジャンピンガー達が、いきなり現れたのを視認した。



「建物の上には、ゲロ吐きに走り屋まで、出やがったか…………」


「ゲロロ、ゲロローー」


「ギャアアァァァァ」


 右側のカラフルな店舗や平屋からは、スピットゲローが現れて、屋上から路上を見下ろす。


 左側のアパートからも、フレッシャー達が、一斉に飛びおりてきて、道路を徘徊しはじめる。



 賢一は、連中を睨みながら、じっと何処かに過ぎ去っていくまで、待ち続けることにした。


 そのため、ゾンビ達は何体かだけ、路地や店内へと入っていった。



「こりゃあ、数が多すぎる? しかも、上から見張られているからな」


「とは言え? カエル野郎は、二体しか見張ってないわ」


「それも、常に下を見ているワケじゃない…………ただ、屋上に立っているだけだ」


「どうします? このまま居なくなるまで、待ちますか?」


 多数のゾンビが現れてきたため、賢一は困り果ててしまい、身動きが取れなくなる。


 同じく、キャンピングカーの車内から、エリーゼは、屋上を睨みながら呟く。



 ジャンも、スピットゲロー達の動きを観察しながら、とにかく隙を伺う。


 不安げな顔のまま、メイスーは連中が過ぎ去るまで、大人しく待機していようと考えた。



「ああ、そうしよっ!? はあっ? 後ろから来てるな」


「アアアア」


「ウェアアアア~~~~」


 下手に動くよりも、賢一も待つことで、敵が減ってから行動しようと思った。


 しかし、先ほど通った道からも、ウォーリアーを含むゾンビ達が、こっちに向かってきた。



「クッ! これじゃ、隠密行動や暗殺もできない」


「確かに、この状態では…………はっ!」


 後ろからも、数は少ないが、ゾンビが迫る状況き、賢一は困り果ててしまう。


 そんな中、メイスーはドアから離れていたが、小型バックパックから何かを取りだした。



「いや、私に任せてくださいっ! 丸ノコがあったはずです」


「そんな物で、何をするんだ? 近づくのも…………待てよ?」


「まさか…………忍者みたいに、殺るのね」


「投擲するのか、それなら、隠れながら攻撃できるな」


 メイスーは、丸ノコを取り出すと、投擲しようと、ドアから出ていく。


 賢一も、彼女が行おうとする事が分かり、止めようと伸ばした手を引っこめた。



 エリーゼとジャン達も、その様子を見守りながら、ゾンビ達が殺られるさまを眺めようとした。


 その時、ちょうど、白人ゾンビと黒人女性フレッシャー達が、ふらつきながら歩く姿が見えた。



「そうですっ! みんな見てて、くださいっ!」


「グエンッ!?」


「ゲガッ!!」


 白人ゾンビの首には、刃が刺さり、黒人女性フレッシャーも、こめかみを切り裂かれた。


 メイスーによる投擲は、正確であり、二体を簡単に倒してしまった。



「うらっ! 止めだよ」


「グア…………」


「これなら行けるっ!」


「ゲロロッ!」


「やったな、モイラ達も動いたようだ…………あっ! 不味い、上の連中がっ!」


 地面に倒れたまま、動けない白人ゾンビに、モイラは後頭部から、多用途銃剣を突きさした。


 ダニエルは、白人女性フレッシャーの背後に回り、ボロナイフで首を切り裂こうとする。



 賢一は、メイスーの活躍を喜ぶが、彼は屋上から見張るスピットゲロー達に目をむけた。


 どうやら、連中は下から聞こえた物音に気がついたらしく、路上を覗きこもうとしていた。

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