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第43話 交差点を抜けて


 賢一は、屋上に立っているスピットゲロー達が、こちらに気がついたと思った。


 これは不味いと、大慌てで、彼は辺りを見渡して、どうにかしようと動いた。



「みんなっ! 下がれっ! ガアガア、ガアガアッ!!」


「うわっ? な、何するの?」


「おい、押すなってんだっ!?」


「ゲロロ~~?」


「ゲロロ、ゲロロロロ」


 慌てふためきながら、賢一は車内に、エリーゼとジャン達を、おくに押し込みながら叫んだ。


 キャンピングカーから聞こえた声に、二体のスピットゲロー達は、注意を向けてきた。



「はあ、これで、三人は助かった…………」


「でも、私たちは、どうするの?」


「仕方ない、何か使えそうな物を探すぞ」


 スピットゲロー達の気を引いて、賢一は何とか、メイスー達を救うことができた。


 ただ、今度は自分たちが、ゾンビの群れから気を引いてしまい、窮地に陥ってしまう。



 エリーゼは、真顔で呟きながら、ハチェットを両手で握りしめる。


 ジャンの方は、広々とした車内に、なにか使えそうな物は無いかと、さがし始める。



「おっ! これは、使えるな? 勿体ないから飲ませて、貰うぞ」


「はあ? 何するんだ?」


 ジャンは、いきなり、車内中央にある小さなテーブルに置いてあった物に、サッと手を伸ばした。


 それは、メロンソーダーの入った瓶であり、一気飲みする彼を、不思議そうに賢一は眺めた。



「あ、分かったわ」


「そうか、そう言う事か」


 エリーゼと賢一たちは、ジャンの姿を見て、これから彼が何をするのか分かった。



「いくぞっ!!」


 ジャンは、キャンピングカーの窓を開けると、石垣に向かって、思いっきり空瓶を投げた。


 ガシャンッと、ガラスが砕けちる物音が響き渡ると、周囲のゾンビ達は、そちらに目をむける。



「ゲロロッ!?」


「ゲロロロロ?」


「ガアガア~~?」


「ウアアアア」


 スピットゲロー達は、キャンピングカーの屋根に飛び乗り、石垣を睨みつける。


 もちろん、後方からも大量に、ゾンビ達の集団が、ノロノロとした動きで近づいてきた。



「よし、これで行けるっ!?」


「邪魔なのは排除するわ」


「ギャッ!?」


「とにかく、先を急ごう? 三人と合流しないと」


 密かに歩きながら、賢一は、フレッシャー達に見つからないように行動する。


 エリーゼは、ウォーリアーの後頭部を狙って、サップを振るい、いきなり転倒させる。



 そして、この武器は音が鳴りにくいため、同じ部分を敵が動かなくなるまで、彼女は叩きまくった。


 二人の背後で、ジャンはゾンビ集団が後方から来ないか見張りながら移動する。



「モイラ、無事なようだな?」


「賢一、こっちは数が少ないわ」


 血が付着している白いタクシーにまで、賢一は走っていくと、周りのゾンビ達を警戒する。


 そして、辺りに敵が存在しないことを確認すると、モイラを見つけた。



 彼女は、少し離れた位置にある、白いライトバンの下へと、死体を押しこんでいた。


 しかし、まだまだ他のゾンビ達は、道路に群がっており、行く手を阻もうとしている。



 そして、いくつかのフレッシャー&ウォーリアー達は、メイスーが投げる丸ノコに斬られていく。



「ウゲッ!?」


「ゲアアッ?」


「アレ? 私…………こんなに投げるの上手かったけ?」


「やるじゃんっ! なら、俺も活躍しないとなっ!」


「グキィーー?」


 ゾンビ達は、丸ノコの刃を、喉元やオデコに喰らい、次々と力なく倒れていく。


 右側にある黒いバジャイでは、メイスーが困惑しながら死体を引っ張っている。



 そこから、彼女が投げた武器を回収している間、ダニエルは密かに、ウォーリアーの背後を取った。


 次いで、後ろから一気にボロナイフを振るい、首を撥ね飛ばしてしまった。



「モイラ、この先の交差点を曲がるっ! あのビルの手前だ」


「分かったよっ! 私も、ステルスキルしながら行くねっ!」


「ふぅ? 後方には、これでっ!」


「彼女な、丸ノコを手裏剣みたいに使っているのか? なら、このペティナイフを貰うぞ」


 賢一は、白いライトバンの左側に隠れながら、石垣に群がるウォーリアー達から身を隠す。


 多用途銃剣を逆手に持ち、モイラは腰を低くしながら様子を伺う。



 エリーゼは、頃がっていた敵の頭部を、いきおいよく投げ飛ばして、店側にむかって転がした。


 ウォーリアーの死体から、キャンプ用ベストを剥ぎ取りながら呟く。



 その両側にある大きなポケットには、料理に使う小型包丁ペティナイフが、たくさん入っていた。



「メイスー達は?」


「回収してからっ! はやく、隠れないと」


「グキィィーー!?」


「おい? 大丈夫だぜっ!」


 黒いバジャイから、メイスーは前方にある赤色のミキサー車に向かって走る。


 ダニエルも、彼女に気がついて、マチェットを振るうウォーリアーの首を跳ねる。



 そこから、彼女が投げた武器を回収している間、ダニエルは密かに、ウォーリアーの背後を取った。


 次いで、後ろから一気にボロナイフを振るい、首を撥ね飛ばしてしまった。



「そこから、左に曲がれっ! ビルの前を通ってい行くっ!」


「先に、敵を倒していくわよ、着いてきて」


「グゲェ?」


「分かったぜ、今から俺たちも行く」


「はあ、まだまだ敵が残ってますね…………」



 賢一は、身を隠しながら白いライトバンから飛びでていき、身を屈めつつ足音を立てずに歩く。


 多用途銃剣を、カマキリのように構えながら、モイラは、邪魔なゾンビに斬りかかる。



 二人に合流しようと、ダニエルも後を追って、石垣の方へと、すばやく向かった。


 疲れた表情のまま、メイスーも何とか、彼に着いていき、次々と刃を投げる。



「グアア~~」


「ギィィィィ」


「後ろから来たわ」


「なら、俺も投げるっ!」


 後方から走ってきたばかりのウォーリアー&フレッシャー達に、エリーゼが気づいた。


 ジャンは、連中の眉間を狙って、ペティナイフを投げると、見事に命中させた。



「やるじゃない」


「ダーツ投げは、得意なんだ」


「グア…………」


「ウェェ」


 エリーゼは、次々と殺られていく、ゾンビ達を見て、ジャンの腕前に感心する。


 ウォーリアーは、手から鉄パイプ槍を落とし、フレッシャーは力なく後ろに倒れる。



「アイツら、やるな? だが、今はビルまで逃げる事が最優先だ」


 交差点の左側にあるビルに向かって、賢一は走っていき、身を潜ませられる場所をさがす。


 そして、その南側にあったレストランに駆け込み、木々に入りこんだ。



「お前ら、行くぞ、いつまでも待機してられない」


「もう少しで、ここから逃げられるわよ」


「分かっているわ」


「今、そっちに向かうから安心してくれ」


 レストランの木々に紛れながら、賢一はゾンビ達に聞こえないように小さな声で、仲間たちを呼ぶ。


 同じく、モイラも茂みに入るとともに、周囲にゾンビ達が、存在しないか探す。



 エリーゼは、ゾンビの注意が他を向いている間に、二人が隠れている場所まで、うまく逃げた。


 ジャンは、死体からペティナイフを回収すると、彼女を追っていった。



「お前ら、もう少しだぞっ!」


「分かってるっ! はぁ~~? ここなら見つからねぇぜっ!」


「ふぅ? こっち側は、ゾンビが少なくて良かったです」


 茂みの中から、賢一は小走りする、ダニエルとメイスー達へと声をかけた。


 幸い、二人ともゾンビの群れに見つかる事はなく、運良くレストランまで逃げられた。



「二人とも合流できたし? 次は真っ直ぐに進むぞっ! 休みたいけど、はやくゾンビの群れから逃げたいからな」


「同感です…………疲れよりも、ゾンビの方が怖いですぅ」


「ん? その前に、一杯飲もうぜ? まだ店内は荒らされてない」


「アンタねぇ…………まあ、そうね」


 ゾンビの群れから離れるために、先を急ごうと、賢一は再び路上を歩こうとする。


 こちらは、ゾンビ達が少ないので、メイスーも出来るだけ早く、ここから去ろうとした。



 ただ、ダニエルは涼しそうなレストランの店内を覗いて、ビールを見つけた。


 一瞬だけ、エリーゼは呆れたが、彼女もエナジードリンクの缶を見ると、考えを変えた。

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