賢一たちは、ゾンビの大集団から逃れたあと、一時的な休憩所として、レストランに入っていた。
「ここは、小さな店だが、中は涼しいな」
「冷房が動いてなくても、日陰で暑く成らないんだわ」
賢一とモイラ達は、僅かな紙幣や硬貨などを、カウンターに置いた。
もちろん、それから冷凍庫を漁り、紅茶やアイスコーヒーなどを取り出していた。
「外よりかは、マシな温度だぜっ! しかし、よく略奪者に荒らされてなかったな」
「全くです」
「そのお陰で、こうして休めたんだけどね」
「お前ら、呑気に飲んでばかりは居られないぞっ!」
ダニエル、メイスー、エリーゼ達が、レストランの丸テーブルを囲む。
明るい声が響く中、グレープジュースを飲みながら、ジャンだけは裏口を開けて、外を警戒する。
すると、いきなり外から刃物が、壁に当たった金属音が聞こえた。
静まり返る瞬間、彼らの視線は、裏側にある道路へと向いていた。
「おいっ! 他のギャングだっ! 俺たちの食糧を盗む気だぞっ!」
「殺してやるわ、ザコ野郎どもがっ!」
「く、くそ、泥棒たちだっ!」
「負けるワケには行かないわっ! 戦うのよっ!」
何が起こったのか、心拍数が上がる中、外からは、声が聞こえてきた。
どうやら、ギャングと生存者たちが、左右から出会い頭の戦闘をはじめたらしい。
「奴ら、始めやがったぞっ! 銃声を鳴らさないでくれると良いが?」
「ジャン、音が鳴ったらドアを閉めろっ! 民間人を救う前に、ゾンビが来てしまうっ!」
ドアの隙間から、ジャンが戦いを見守る中、賢一は直ぐに、カウンターを飛びこえる。
こうして、椅子に座って、安心しきっていた仲間たちに、緊張感が一気に広がった。
「くっ! 賢一…………それはっ!」
「分かっているっ! だが、ゾンビの大集団は相手にできないぞっ!」
「それより、私たちも狙われるかも知れない、店に入ってきたら殺るよ」
「うう、また戦闘ですか?」
ジャンは、かならず民間人を救出しようとする熱血漢だが、それでも今の状況は不味い。
もし、銃撃が始まったら、周りからゾンビの大集団が現れるだろう。
それを心配して、賢一は何時でも、ドアを閉められるように待機する。
狭い店内に、大量のゾンビ達が押し寄せてくることを想定して、モイラは多用途銃剣をにぎる。
メイスーは、顔を青くさせながらも、中華包丁を握りしめながら、敵がくるのを待ち構える。
「うらああ~~!? 斬られろっ!」
「死ね、死ね、お前らは死ぬんだわっ!」
「殺られて、たまるかっ!」
「私たちは、死なないわっ!!」
よく見ると、ギャングと生存者たちは、双方とも銃器を使っておらず、金属音だけが木霊する。
どうやら、飛び道具などは、弓矢や投擲武器だけしか使ってないようだ。
大柄な白人ギャングは、鉄パイプを振り回して、暴れながら突進する。
細身の黒人女性ギャングも、ペティナイフを、すばやく何度も投げる。
黒人生存者は、金属バットを両手で掲げながら、攻撃を受け止め、後ろに下がる。
ゴミバケツ蓋を構えながら、白人女性の生存者は、投擲武器による連撃を耐えていた。
「敵は、銃器は使っていないっ! 派手な音が鳴るから使えないようだなっ! なら、加勢するか」
「ああっ!! 民間人を助けようっ!! それが、俺たちの仕事だっ!!」
「うわっ! どこから出てきたんだっ! グエッ!」
「お前ら、何もんだっ! グ…………うう」
そう言いながら、賢一は飛び出ていき、右側の車に隠れているギャング達に向かっていく。
ジャンも、少し出遅れたが、勢いよく同じ方向に突進していった。
二人が走っていく方向には、何台かの自動車があり、そこにギャング達は、身を隠していた。
白人ギャングは、ミニボウから矢を放ったあと、賢一のゴボウ銃剣に胸を貫かれた。
それを見て、東南アジア系のギャングは、クロスボウを射とうとしたが、逆に自分が刺された。
奴よりも早く、ジャンが素早く、ペティナイフを投擲したからだ。
「ふぅっ! 当たるかと思ったぜ…………」
「本当に危なかったな…………」
賢一とジャン達は、敵よりも早く、無鉄砲に走っていたため、攻撃された後から恐怖を感じた。
「後ろが殺られたぞっ!」
「構うか、この勢いのまま、殺るんだっ!」
「危ないっ! ぐふっ!?」
「キャッ! ダニー!!」
白人ギャングは、めちゃくちゃに鉄パイプを振るいながら、大声で怒鳴る。
黒人ギャングも、ロングナイフを真っ直ぐに突きだしながら叫ぶ。
奴の刺突を受けて、黒人生存者は、腹に一撃を喰らったため、金属バットを落としながら倒れる。
ゴミバケツを構え、バールを振り回していた、白人女性の生存者は、悲鳴を上げる。
「やれやれ、女だろうと殺してしまえっ!」
「このまま、私たちが勝つんだよっ!」
「後ろの連中は、任せろっ! やってやるぜっ!」
「うおおーー!! 殺してやるっ!!」
大柄な白人ギャングは、相変わらず、鉄パイプを振り回していた。
細身の黒人女性ギャングも、ダイバーナイフを抜き取り、闇雲に振るいまくる。
竹槍を持ち、怒り狂う、東アジア系ギャングは、乱れ突きを繰り出しながら走ってきた。
太平洋系のギャングも、二刀流で握りしめるマチェットで斬りかかるべく、向かってきた。
「うわっ! 連中、来やがったっ! なら、戦うしかないっ!」
「ああ、二刀流の奴は、俺に任せろっ!」
「その前に、私が相手に成るわっ!」
「これでも、喰らええっ!!」
ゴボウ銃剣を片手に、賢一は向かってくるギャング達と、交戦しようと身構える。
ジャンは、素早くペティナイフを投げようとして、手を勢いよく振るわんとした。
しかし、それよりも早く、モイラが前に出てきて、二人に襲いかかるギャング達を奇襲した。
また、その背後から、丸ノコを投げつけて、メイスーは突撃してくる敵を攻撃した。
「うぐっ? し、死ぬのは…………がはっ!」
「グエエエエッ!?」
「やったわ、次は誰が相手してくれるんだい?」
「ひぃぃっ! 血、血がっ! ゾンビより出てる? まだ、あんなに敵も…………」
竹槍を両手から落とし、アジア系のギャングは、腹を、マチェットに裂かれて倒れてしまった。
太平洋系のギャングも、丸ノコを喉元に受けて、口から血を撒き散らしながら、後ろに転んだ。
敵を倒したばかりのモイラは、次なる敵に狙いを定めると、路上を爆走する。
その背後から、メイスーは中華包丁を構えつつ、戦闘自体を怖がりながらも、なんとか彼女を追う。
「クソがっ! 後ろの連中も殺るぞっ!」
「殺られないわよっ!!」
「野郎、ぶっ殺してやるっ!」
「死ぬのは、お前たちだっ! この略奪者めっ!」
「こっちも、まだ戦えるわよっ!」
「そうだ、負けるワケには行かないっ!?」
ギャングと生存者たちも、双方が乱戦で、つばぜり合いに突入する。
大柄な白人ギャングは、鉄パイプを両手で頭上に掲げ、そこから一気に振り下ろす。
細身の黒人女性ギャングも、ダイバーナイフで、鋭い突きを何度も放つ。
ラテン系のギャングは、木槍を構えながら走りだし、敵を串刺しにしようとする。
白人生存者は、振り下ろしを避けると、鉄筋を両手で握り、反撃に移ろうとした。
ゴミバケツ蓋を構え、白人女性の生存者は、攻撃を受けつつも、逆に突進する。
東アジア系の生存者は、自らに向かってくる鋭い細木を、ヌンチャクで叩き弾く。
「俺たちも忘れるなよっ!」
「狭い路地から、こんにちは」
乱戦で、両者が武器を振るっている中、右側の狭い路地から、いきなり二人組が現れた。
それは、ボロナイフを握るダニエルであり、険しい顔の彼は、まっすぐに突っ込んできた。
ハチェットを肩に担ぐ、エリーゼも敵を蹴散らすべく、高くジャンプしながら相手を睨んだ。
その表情は冷たく、やがて彼女は、落下しながら強烈な攻撃を放った。