乱戦となり、ギャングと生存者たちが武器を振るっている中、新たな人影が見えた。
「うらっ! お前は斬ってやるっ! お前はパンチだっ!」
「このっ! 新手かっ! ギャアアアアーー!!」
「きゃっ!?」
それは、ボロナイフを握るダニエルであり、まっすぐに突っ込んできた彼は、すぐさま敵を襲う。
まずは、大柄な白人ギャングが、鉄パイプを振るうと、それを回避しながら奴の腹を切り裂く。
細身の黒人女性ギャングに対しても、ダイバーナイフを持つ手首を、思いっきり殴る。
ついで、女だろうと容赦なく、顔面にも強烈なパンチを浴びせた。
「次は、アンタらの番よっ!」
「何するのよっ! ぎゃあっ!!」
「ぐぅっ!? クソッ!!」
高くジャンプしたあと、エリーゼは落下しつつ、ハチェットを真下に振るう。
それを、首筋の右側に喰らった、黒人女性ギャングは悲鳴を上げると、力なく倒れてしまった。
次いで、着地すると、ラテン系のギャングに対して、すばやく爪先を狙った蹴りを放った。
これにより、奴は怯んでしまい、一瞬だけ大きな隙を作ってしまった。
「ぐっ! クソがっ!! ん、後ろからかっ!」
「今だっ!! それっ!」
ラテン系のギャングは、後ろから、白人生存者により、鉄筋で襲われた。
しかし、攻撃を避けた奴が、木槍を振りまわして、彼の左腕を攻撃してしまった。
「この野郎、死ねっ!」
「うああああ」
追い討ちを掛けるべく、ラテン系のギャングは、白人生存者へと、木槍を顔面にむける。
「させないっ! これで、止めだああああっ!! 銃剣でも喰らいやがれっ!!」
「がはっ!? が…………ぐが、が」
木槍が突きだされるよりも先に、ゴボウ銃剣で、賢一が襲いかかった。
結果、ラテン系のギャングは、胸を後ろから突き刺され、吐血しながら絶命した。
「終わった…………コイツらが、ザコで助かった」
「君たち? 負傷者を手当てするために、あのレストランに入るんだっ! 負傷者は、私が肩を貸そう」
「有難い…………」
「助かったわ、これで休めるわ」
戦いが終わり、賢一は背後にある自動車の側に倒れているギャング達を、眺めてつぶやいた。
先に、射撃武器を持つ敵を倒していたため、楽に勝利することが出来たからだ。
一方、ジャンは負傷してしまった東アジア系の生存者を、助けようと近づいていく。
白人女性の生存者は、ゴミバケツ蓋やバールを握る手から、力を抜きながら感謝する。
こうして、彼らは使えそうな武器や道具などを、ギャング達の死体から回収した。
それから、レストランの中に入ると、皆が疲れた顔をしながら、店内で休む。
「アンタら、仲間が死んだが? 大丈夫か?」
レストランの中で、壁に背を預けたまま、賢一は生存者たちに声をかけた。
「彼は…………名前も知らないんだ…………さっきは驚いて、声も出なかったが」
「私たちは、観光客だし? この混乱で、たまたま一緒になったのよ」
「うっ! そうだ、取り敢えず休める場所を探してたら、この有り様だ」
白人生存者は、すこし困惑した顔をしながら、自分たちのことを話しだす。
白人女性の生存者も、ドッと疲れた表情で、カウンターに座りながら語りだす。
同じく、カウンターに座りながら、東アジア系の生存者は、包帯を巻いている左腕を触る。
彼らは、戦闘が終わり、これから何をすれば良いのか迷っているようだった。
「あまり、触らない方がいい? しばらくは休んでいるんだ」
「射撃武器は、置いといて上げるからね? ここから動かないようにしてて、後は救援を呼ぶわ」
ジャンは、自分が手当てした、東アジア系の生存者を気にして、優しい言葉をかけた。
カウンターの上に、ミニボウ&クロスボウ等を、矢筒とともに、モイラは置いた。
「すぐそこは、ゾンビの大集団が彷徨いている? つまり、危険だから下手に動くな? 食料もあるしな」
「貴方たちは、どこに行くんですか? それとも、私たちと待ってくれるんでしょうか?」
賢一は、生存者たちに対して、自分たちが来た方角を指差して、向こうは危ない場所だと教えた。
それを聞きながら、白人女性の生存者は、救援に駆けつけてくれた彼等に、予定を質問した。
「俺たちは、缶詰め工場に向かう? 悪いが、救援が来るまで、アンタ達とは居られないんだ」
「ここは、安全圏だから心配ないわ…………」
そう言いながら、賢一は無線機を取り出し、エリーゼは壁際で、両腕を組みながら呟く。
「甘、生存者を見つけた? レストランに居るんだが?」
『分かった、詳しい場所を教えろ? しかし、救助隊は直ぐには遅れないからな…………さっきも言ったが、みんな忙しいんだ』
賢一と甘たちは、無線機で会話しながら、生存者について話しあう。
「外は、ゾンビが少ないぞっ! そいじゃ~~行くぜ」
「うぅぅ…………また、行くしか?」
再びレストランの入口から、ダニエルは外に出て、ゾンビ達やギャング達を警戒した。
そして、彼が安全を確認すると、メイスーは怖がりながらも、ドアから出ていく。
「そう言う事だからな? そっちも、達者でな」
「ああ、無事を祈ってるよ」
ドアから、賢一が出ていくと、他の仲間たちも、レストランを後にする。
彼に向かって、東アジア系の生存者は、感謝しながら礼を言った。
「さて、あのギャング達は弱かったな? もっと、強いのかと思ったが」
「訓練を積んでないし、修羅場も経験してないからだわ? でも、もっと強いのも出るだろうから注意しましょう」
軍人として、経験を詰んでいる、賢一とモイラ達から見れば、ギャング達は余りにも弱すぎた。
しかし、油断は禁物であり、次に出会うギャング集団が、かなり強い可能性は捨てきれない。
「だな、そして向かう先には…………あと、もう少しで、缶詰め工場だな」
「ゾンビも少ないわ? 一気に、攻めてしまいましょう」
「おっし、ここからは一気に倒していくぜ」
「数が少ないからって、油断しないでね」
賢一は、強いギャング達やゾンビ集団とは、なるべく、出くわさないように願いながら歩く。
モイラも同じく、奇襲を仕掛けられないように、道路をみて、屋上や地下室を警戒しながら進む。
ダニエルは、近くのゾンビを目標に定めると、呑気な顔で、ボロナイフを片手に走っていく。
それを、ため息を吐きながら、エリーゼは眺めながら、サップを強く握る。
こうして、缶詰め工場までの道を、彼らは道路に散らばるゾンビ達を蹴散らしながら通っていった。
「着いたな…………銀色の科学工場の群れ? と言うか、大群だ」
「他に、水産加工業や石油コンビナートの建物も、ありますね?」
沿岸部に、数多くある工業地帯に到達して、賢一とメイスー達は、目を丸くする。
遠目だと、幾つかの建物が見えただけだが、近づいてから視認すると、それが巨大だと分かる。
左側には、大きなタンクがあり、十階ほどの高さで、上部は黄色い円形通路が見える。
真ん中には、駐車場を備えた灰色ビルがあり、それは左右の構造物と、連絡橋などで繋がっていた。
右側には、創庫があり、ここには大量の缶詰めが、備蓄されていると思われた。
この工業区画だが、地面に目を向けると、大型トラックや乗用車などに、赤い血液が付着していた。
しかも、奥には軍用トラックやハンヴィーもあり、そこかしこに死体が転がっている。
どうやら、作業員や兵士たちは、ここで激戦を繰り広げたようだ。
「うぅぅ? 潮風に血痕や腐敗臭が混ざると、ヤバイな…………」
「甘に連絡しましょう? ここは殲滅されていると」
激しい戦いがあったであろう戦場跡を見て、賢一は吐きそうになる。
その間に、モイラは無線機を取り出して、連絡したあと、早々に立ち去ろうとした。
「ん? 待って、誰かが動いたわっ!」
「はあ? ゾンビじゃねぇか~~?」
皆が、駐車場から離れようとした時、左側のタンクを囲む通路に、エリーゼは人影を見つけた。
しかし、ダニエルは一刻も早く、このヤバそうな雰囲気を持つ場所から逃げ出したかった。