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第45話 レストランに、一時避難


 乱戦となり、ギャングと生存者たちが武器を振るっている中、新たな人影が見えた。



「うらっ! お前は斬ってやるっ! お前はパンチだっ!」


「このっ! 新手かっ! ギャアアアアーー!!」


「きゃっ!?」


 それは、ボロナイフを握るダニエルであり、まっすぐに突っ込んできた彼は、すぐさま敵を襲う。


 まずは、大柄な白人ギャングが、鉄パイプを振るうと、それを回避しながら奴の腹を切り裂く。



 細身の黒人女性ギャングに対しても、ダイバーナイフを持つ手首を、思いっきり殴る。


 ついで、女だろうと容赦なく、顔面にも強烈なパンチを浴びせた。



「次は、アンタらの番よっ!」


「何するのよっ! ぎゃあっ!!」


「ぐぅっ!? クソッ!!」


 高くジャンプしたあと、エリーゼは落下しつつ、ハチェットを真下に振るう。


 それを、首筋の右側に喰らった、黒人女性ギャングは悲鳴を上げると、力なく倒れてしまった。



 次いで、着地すると、ラテン系のギャングに対して、すばやく爪先を狙った蹴りを放った。


 これにより、奴は怯んでしまい、一瞬だけ大きな隙を作ってしまった。



「ぐっ! クソがっ!! ん、後ろからかっ!」


「今だっ!! それっ!」


 ラテン系のギャングは、後ろから、白人生存者により、鉄筋で襲われた。


 しかし、攻撃を避けた奴が、木槍を振りまわして、彼の左腕を攻撃してしまった。



「この野郎、死ねっ!」


「うああああ」


 追い討ちを掛けるべく、ラテン系のギャングは、白人生存者へと、木槍を顔面にむける。



「させないっ! これで、止めだああああっ!! 銃剣でも喰らいやがれっ!!」


「がはっ!? が…………ぐが、が」


 木槍が突きだされるよりも先に、ゴボウ銃剣で、賢一が襲いかかった。


 結果、ラテン系のギャングは、胸を後ろから突き刺され、吐血しながら絶命した。



「終わった…………コイツらが、ザコで助かった」


「君たち? 負傷者を手当てするために、あのレストランに入るんだっ! 負傷者は、私が肩を貸そう」


「有難い…………」


「助かったわ、これで休めるわ」


 戦いが終わり、賢一は背後にある自動車の側に倒れているギャング達を、眺めてつぶやいた。


 先に、射撃武器を持つ敵を倒していたため、楽に勝利することが出来たからだ。



 一方、ジャンは負傷してしまった東アジア系の生存者を、助けようと近づいていく。


 白人女性の生存者は、ゴミバケツ蓋やバールを握る手から、力を抜きながら感謝する。



 こうして、彼らは使えそうな武器や道具などを、ギャング達の死体から回収した。


 それから、レストランの中に入ると、皆が疲れた顔をしながら、店内で休む。



「アンタら、仲間が死んだが? 大丈夫か?」


 レストランの中で、壁に背を預けたまま、賢一は生存者たちに声をかけた。



「彼は…………名前も知らないんだ…………さっきは驚いて、声も出なかったが」


「私たちは、観光客だし? この混乱で、たまたま一緒になったのよ」


「うっ! そうだ、取り敢えず休める場所を探してたら、この有り様だ」


 白人生存者は、すこし困惑した顔をしながら、自分たちのことを話しだす。


 白人女性の生存者も、ドッと疲れた表情で、カウンターに座りながら語りだす。



 同じく、カウンターに座りながら、東アジア系の生存者は、包帯を巻いている左腕を触る。


 彼らは、戦闘が終わり、これから何をすれば良いのか迷っているようだった。



「あまり、触らない方がいい? しばらくは休んでいるんだ」


「射撃武器は、置いといて上げるからね? ここから動かないようにしてて、後は救援を呼ぶわ」


 ジャンは、自分が手当てした、東アジア系の生存者を気にして、優しい言葉をかけた。


 カウンターの上に、ミニボウ&クロスボウ等を、矢筒とともに、モイラは置いた。



「すぐそこは、ゾンビの大集団が彷徨いている? つまり、危険だから下手に動くな? 食料もあるしな」


「貴方たちは、どこに行くんですか? それとも、私たちと待ってくれるんでしょうか?」


 賢一は、生存者たちに対して、自分たちが来た方角を指差して、向こうは危ない場所だと教えた。


 それを聞きながら、白人女性の生存者は、救援に駆けつけてくれた彼等に、予定を質問した。



「俺たちは、缶詰め工場に向かう? 悪いが、救援が来るまで、アンタ達とは居られないんだ」


「ここは、安全圏だから心配ないわ…………」


 そう言いながら、賢一は無線機を取り出し、エリーゼは壁際で、両腕を組みながら呟く。



「甘、生存者を見つけた? レストランに居るんだが?」


『分かった、詳しい場所を教えろ? しかし、救助隊は直ぐには遅れないからな…………さっきも言ったが、みんな忙しいんだ』


 賢一と甘たちは、無線機で会話しながら、生存者について話しあう。



「外は、ゾンビが少ないぞっ! そいじゃ~~行くぜ」


「うぅぅ…………また、行くしか?」


 再びレストランの入口から、ダニエルは外に出て、ゾンビ達やギャング達を警戒した。


 そして、彼が安全を確認すると、メイスーは怖がりながらも、ドアから出ていく。



「そう言う事だからな? そっちも、達者でな」


「ああ、無事を祈ってるよ」


 ドアから、賢一が出ていくと、他の仲間たちも、レストランを後にする。


 彼に向かって、東アジア系の生存者は、感謝しながら礼を言った。



「さて、あのギャング達は弱かったな? もっと、強いのかと思ったが」


「訓練を積んでないし、修羅場も経験してないからだわ? でも、もっと強いのも出るだろうから注意しましょう」


 軍人として、経験を詰んでいる、賢一とモイラ達から見れば、ギャング達は余りにも弱すぎた。


 しかし、油断は禁物であり、次に出会うギャング集団が、かなり強い可能性は捨てきれない。



「だな、そして向かう先には…………あと、もう少しで、缶詰め工場だな」


「ゾンビも少ないわ? 一気に、攻めてしまいましょう」


「おっし、ここからは一気に倒していくぜ」


「数が少ないからって、油断しないでね」


 賢一は、強いギャング達やゾンビ集団とは、なるべく、出くわさないように願いながら歩く。


 モイラも同じく、奇襲を仕掛けられないように、道路をみて、屋上や地下室を警戒しながら進む。



 ダニエルは、近くのゾンビを目標に定めると、呑気な顔で、ボロナイフを片手に走っていく。


 それを、ため息を吐きながら、エリーゼは眺めながら、サップを強く握る。



 こうして、缶詰め工場までの道を、彼らは道路に散らばるゾンビ達を蹴散らしながら通っていった。



「着いたな…………銀色の科学工場の群れ? と言うか、大群だ」


「他に、水産加工業や石油コンビナートの建物も、ありますね?」


 沿岸部に、数多くある工業地帯に到達して、賢一とメイスー達は、目を丸くする。


 遠目だと、幾つかの建物が見えただけだが、近づいてから視認すると、それが巨大だと分かる。



 左側には、大きなタンクがあり、十階ほどの高さで、上部は黄色い円形通路が見える。


 真ん中には、駐車場を備えた灰色ビルがあり、それは左右の構造物と、連絡橋などで繋がっていた。


 右側には、創庫があり、ここには大量の缶詰めが、備蓄されていると思われた。



 この工業区画だが、地面に目を向けると、大型トラックや乗用車などに、赤い血液が付着していた。


 しかも、奥には軍用トラックやハンヴィーもあり、そこかしこに死体が転がっている。



 どうやら、作業員や兵士たちは、ここで激戦を繰り広げたようだ。



「うぅぅ? 潮風に血痕や腐敗臭が混ざると、ヤバイな…………」


「甘に連絡しましょう? ここは殲滅されていると」


 激しい戦いがあったであろう戦場跡を見て、賢一は吐きそうになる。


 その間に、モイラは無線機を取り出して、連絡したあと、早々に立ち去ろうとした。



「ん? 待って、誰かが動いたわっ!」


「はあ? ゾンビじゃねぇか~~?」


 皆が、駐車場から離れようとした時、左側のタンクを囲む通路に、エリーゼは人影を見つけた。


 しかし、ダニエルは一刻も早く、このヤバそうな雰囲気を持つ場所から逃げ出したかった。

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