「社長。閉鎖した遊園地なんてどうしたって使い道がありませんよ」
建設会社の若手社員、
昨年、近隣に大手娯楽施設が誕生したおかげで、いままで都心にあって好評を得ていた地元の遊園地が経営危機に陥ってしまったのだ。
「君島くん。心配するな。わたしに考えがある」
社長と呼ばれた男は、少々薄くなった頭髪をまるで切り絵のようにポマードでべったりと横に貼り付けていた。いわゆるバーコードのような髪型だ。いささか前にせり出したお腹を隠すように今度はQRコードのような派手な柄の少々大きめなジャケットに身を包んでいる。
「ほんとうですか!」
「ここにジェットコースターつきのマンションを建設するのだ」
「え、あのジェットコースターを残すということですか?」
「そうだ。幸いにも近隣に〇×遊園地駅というのがあるだろう?」
「はあ、でも我々の遊園地はなくなってしまいますけどね」
「このマンションからその駅をジェットコースターで
「それって・・・・・・」
「そう、ジェットコースター付きのマンションを建設するのだ。ジェットコースターファンはこの世にいくらでもいるぞ。毎日通勤、通学でジェットコースターに乗って最寄りの駅まで往復できるなんて夢物語りだと思わんか」
「そ、それはすごいですね。それたぶん受けますよ」
「だろう。うわっはっはっは!」
※※※※※※
ジェットコースター付きマンションは大好評の内に完売した。
このマンションに住んでからというもの、不登校やひきこもりの学生がいなくなったという。学校や会社でどんなにいじめられても、家に帰るまでにストレスを発散できるというのを週刊誌で取り上げられたのが後押ししてくれたのだ。
その年のクリスマスの夜であった。君島社員から社長に電話が入った。
「社長。マンションのあちこちで悲鳴があがっているそうですが」
「いったい何があったのだ?」
「どうやらみなさん、家に着くまでの間に購入したクリスマスケーキがぐちゃぐちゃになってしまったというのです」
「それは自己責任だ。放っておけ」
※※※※※※
翌年はとうとう転居者が現れはじめた。
「君島くん。どういうことだね?」
社長はスライスしたレモンに、たっぷりとワサビをつけて頬張ってしまったかのうな顔をした。
「それがその、妊娠された奥様たちが、ジェットコースターに乗れなくなったということで不満が爆発しまして・・・・・・」
「なんということだ」
※※※※※※
さらに数年の時が過ぎた。
「社長!数年前に退去されたご家族がぞくぞくとマンションに戻ってきています」
「今度はなにがあったのかね?」
「生まれた子供たちがジェットコースターに乗りたがって仕方がないからなのだそうです」
「それで身長制限はクリアできているのかね?」
「もちろんです」
社長はニッコリと笑ってうなずいた。
「君島くん。いずれこうなることは分かっていたのだよ」
「さすが社長」君島は脂ぎった社長の顔に尊敬の眼差しを向けた。「先見の明がおありだ。いったいどうしてですか?」
「ジェットコースターだけに、評価が上がったり下がったりするのはつきものだからな」
(きゃー!)君島は思わず絶叫したくなった。なんてくだらないオチなんだ。