「わが県にもっと観光客を呼び込むにはどうすればいいと思うかね?」
県知事が議員たちを集めて緊急会議を行っていた。
「そうですね。なにかこれといった名物がないと観光客は集まって来ないと思いますが」メガネをかけた中年の議員が言った。
若手の女性議員が挙手をする。「大型遊園地とかテーマパークを開設したらどうでしょう」
「そんな金がどこにあるのだ」県知事はドクダミでも噛みしめたような苦い顔する。「しかも定期的にメンテナンス料も必要になる。事故なんぞ起したらそれこそ損害賠償とか大変な負担になってしまうぞ」
「それにしても“日本三景”はうらやましいですな」年寄りの議員がつぶやく。「なんの努力をしなくても、そこにいい景色があるというだけで勝手に観光客が集まって来てくれるのですからな」
今度は元気のいい若手議員が手を挙げた。「わが県にも、海ならあるじゃないですか」
あきれた顔でメガネの中年議員が若手をたしなめる。「ただ遠浅の海があるだけじゃないか」
「いや、待てよ・・・・・・」知事が中年議員を手で制した。「そうだ!なければ作ればいいじゃないか」と知事が突拍子もないことを言い出す。
「知事。何をです?」
議員たちは顔を見合わせる。
「決まってるだろう?京都の“
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それから3年の間、海の上には巨大な赤い鳥居が建立され、海上には細長い道が埋め立てられて、亀の甲羅のような松の生えた巨大な人工島が海上にぽっかりと浮かび上がった。
この海に来さえすれば、あの日本三景を一望することができるという一大プロジェクトである。
完成すると物珍しさもあったのであろう。日本の各地からだけではなく、世界各国からも観光客が押し寄せた。
「大盛況ですな」とメガネの中年議員が知事に笑いかけた。
知事も恵比寿さまのような満面の笑みを浮かべて言った。「どうだ。いいアイデアだっただろう?」
そのとき例の若手議員が知事に詰め寄った。
「しかし知事。予測の1000倍以上の人が集まってきています」
「いいことじゃないか」
「交通渋滞だけではありません。受け入れるホテルや旅館も不足していますし、外国の観光客が大勢押し寄せてきていますから、その対応が県の職員やボランティアだけではすでにパンク状態です」
「どんどんアルバイトを雇いなさい」と知事が憮然として言った。
するとそれまで控えていた女性議員が泣き顔で知事に詰め寄るのであった。
「知事、観光客はお金を落とすだけではありません。あちらこちらにゴミを落とすので悲惨な状況です!」
「シルバー人材派遣を頼んで清掃してもらえばいいじゃないか」
「集まりませんよ!口コミで悪い噂が立ちはじめていますから」
「いったいどんな口コミだね?」
「あそこの仕事は日本三景なんかじゃない。キツイ、汚い、危険の