「日本でジャーナリストになるなんて簡単だ」
ジャケット姿の男は胸を張って言うのだった。ボサボサの髪から抜け目のない瞳がのぞいている。
「え!先輩、ほんとうですか?」
背の低い人の良さそうなカメラマンが驚いてファインダーから目を外した。
「ぼくはジャーナリストです。と、勝手に名乗って世間が認めてくれたらそれでジャーナリストになれるんだ」
ジャケットの男はカメラマンにウィンクした。
「へえ、なにか特別な資格が必要なのかと思っていました」
「まあ、ノリでなれる職業だな。くっくっく」
男は腹に手を当て、ノドの奥で笑いをかみ殺していた。「ところできみは報道カメラマンだったね」
「はい」
カメラマンはクリーニングクロス(払拭用の布)でレンズを拭いながら答えた。
「厳しいだろう?」
「正直いって厳しいっす」
「今じゃ、誰でも携帯電話に高性能カメラが付いている時代だからなあ」
「そうなんですよ。特ダネなんてめったに撮れないのに、素人が手軽に撮影してネットにあげちゃいますからね」
「お互いやりにくいよなあ」
男は空を見上げた。小さな雲が青い空にドットを描いている。
「まったくですねえ」
「それでおれは考えたんだよ」
「なにをです?」
「事件てのは待ってても起きない」男はさも嬉しそうにカメラマンの目をのぞきこんだ「事件は自分で作るものだってね」
「ほう。名言・・・・・・なんでしょうか、それ」
「いいか。“ほぼ真実”なんて報道は、“ほぼデマかせ”だ」男がにこやかに笑う。「“声なき声を拾う”なんて、最初からないことをそれらしく記事にするだけだしな」
「でも記事にするには、デスクから裏取りを求められるんじゃないんですか?」
「ネットでググるか、そこらへんの子供か友達に頼んで声を上げてもらえばいいんだよ」
「そんなことやっていたら、いつか非難を浴びるでしょうに」
「その時はその時だ。言論の弾圧だと訴えてやるさ」
「なるほど・・・・・・で、さっき言ってた事件ていうのは」
「もう起きてるじゃないか。報道写真の
「捏造?」
「きみが犯人だよ」
「え、なんですって!?」
「ほら、あっちから警察官が来る。きみ、しっかり捕まり給えよ。ぼくが記事にするからさ」