「あなた、浮気してるでしょ」
突然妻にそんな事を言われたら、あなたならどうしますか。図らずもわたしは
「な・・・・・・何のこと?」
「しらばっくれてもだめよ。女の感は鋭いのよ」
美しくも鋭い妻の瞳がわたしの瞳を捕らえる。ヘビに睨まれたカエルとはこういうことを言うのであろう。
「絶対そんなことないよ」
「いいから白状しなさい」
「だからそんなことないってば」
妻はまるで初めて見る新種の動物でも見るかのようにわたしの顔をまじまじと見つめた。
「わかったわ。それじゃあ、白状するまで今日からゴーヤ攻めね」
「ゴーヤ攻め?」
ゴーヤとは
わたしはこの食べ物が大の苦手なのだ。翌日からわが家の食卓には、ゴーヤ料理ばかりが並ぶことになった。
ゴーヤチャンプルー、ゴーヤの酢の物、ゴーヤ入りキムチ、ゴーヤの天ぷら、ゴーヤの肉詰め、ゴーヤの佃煮、ゴーヤのクリーム煮、ゴーヤのお浸し、ゴーヤの茶碗蒸し、ゴーヤの味噌汁・・・・・・など食卓はゴーヤ1色で埋め尽くされたのである。極めつけは、おつまみまでゴーヤチップスという念の入れようであった。さすがのわたしもこれには閉口した。
ところが人間、慣れというのは恐ろしいものだ。あんなに嫌いだったゴーヤの苦い味が、次第に病みつきになって行ったのだ。
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「パパ。ゴーヤ食べれるようになったんだね」
「うん。これも
「ふうん。じゃあ、もっと好き嫌いがなくなるように、これからも千鶴子といっぱい会ってね」
「もちろんだとも」
わたしは、前妻との間にできた子供と、月に1度こっそり会うのを楽しみにしていたのだ。
本当は現在の妻に内緒にする必要はないのだが、なんとなく気が引けてしまい、言い出せないまま今日まで来てしまったのだ。
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「あなた、まだ浮気してるんでしょ」
「いいや。浮気なんてしてないよ。なんでそんな事を言うんだ」
「これは女の感よ。最近ゴーヤを嬉しそうに食べてるのが怪しい・・・・・・」
「君の料理の腕が上がったからじゃないのか」
「そんなお世辞は通用しません。白状しないなら、明日からはパクチー攻めよ」
「パクチーだって!」
わたしはパクチーが大の苦手なのだ。
のちに分かったことなのだが、現在の妻と娘がひそかに連絡を取り合っていたという事に、わたしは全く気がついていなかったのだ。