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第47話 運命の二人






 蘭との姉妹デート数日後。その春休み終盤の事。


 リビングダイニングでダラダラと過ごす永遠園とわぞの兄妹。出掛ける用事もなく、朝食後からお気に入りのアニメ等を見て仲良く感想等を語りながら束の間の余暇を過ごしていた。


 だが澄美怜すみれは兄の瞳の奥の奥を覗き込んでいた。


 ……この2~3日、何となくお兄ちゃんが冴えない感じ……あれから1ヶ月、今になって薊さんが去った事、身に沁みて来たのかな?

 少くとも私は今、あの人の居ない寂しさを感じている。お兄ちゃんストーカーの私だけが分かる程度の変化だけど、目の焦点が合っていない時間が増えてる。何かしてあげた方が良いかな……?



―――深優人がリビングのソファーの片隅で耽っている。


 オカシイ……昨日、今日と有り得ないフラッシュバックが……でもこんな事って……


 深優人みゆとは自分がおかしくなったかと思うような妙なイメージばかり見えてしまい、思わず首を強く横に振って気を散らした。


 気付かれぬように心配して様子を窺う澄美怜すみれ。しかし兄が何かを隠そうとしている事だけは見抜いていた。


 そうこうしている内に昼近くとなり 「ピンポーン」 とインターホンの呼び鈴が鳴り響くと、即座に母の声。


澄美怜すみれ~、ちょっと出てくれる~?」


「は―い」と、玄関側に最も近かった澄美怜が駆け付けてロックを解除してドアを開けた刹那、あたかもスローモーションの様にさえ感じる程の衝撃的な光景が視界に入って来た。


『!!!!!!!!』 


―――絶句し、余りに動転した澄美怜すみれはドアを静かに元の位置へ戻した。ドアの外では目が合ったと同時にドアを閉じられ呆気にとられてニガ笑いする女の子の姿が。



「あ、あれぇ―……もしもーし……笑」



 再びゆっくりとドアが開く。困った様な、嬉しい様な、複雑な顔の澄美怜すみれが姿を現し、そして挨拶をした。


「お帰りなさい、百合愛ゆりあお姉ちゃん」


「ただいま、澄美怜ちゃん。嫌われたかと思ったよー。フフフ」




 溶かされるような笑顔をのぞかせる、そこには天から舞い降りた使徒か妖精かと見紛う程の美しい女の子が立っていた。


 真っ白い肌、整った小さな顔、淡めのマロンにほんのり銀色をコーティングしたようなアッシュベージュの長い髪、モデルそのものと言っても過言ではないスラリとした細く長い手足と折れそうに細い腰、そしてガラス細工のようなブルーグレーの瞳、更にはフルートの音の様な清らかな声。


 そう、いつも憧れていた微笑みが、この3年で更に美しくブラッシュアップされてそこに立っていた。


「澄美怜ちゃん、見ない間に凄いキレイになったね。皆さんお元気にしてた?」


「う……うん……あ、どうぞ入って……百合愛ゆりあお姉ちゃんは?」


「もちろん。はい、お土産」


「ありがとう……でも驚いた。永住だろうって言ってたから……」


「私もね、驚いてるの。父の日本支部の再配属が急に決まったから」


「メールとかで教えてくれたら。……良かったら上がって」


 そこへ部屋に戻ろうと階段へと向かう深優人みゆとが玄関に差し掛かったところで硬直。




 百合愛ゆりあと目が合う。

 二人の時が止まる。




百合愛ゆりあ……ちゃん…… (あのフラッシュバックは……やっぱり)」


深優人みゆと……くん……」



 互いに1歩近づいた。更に切ない声となって絞る様に名を呼ぶ百合愛。


「……深優人くん」


 二人は瞳にいっぱい、溢れそうなそれを落とさぬよう堪えつつ更に1歩近づいた。


「会いたかった……」


 心の中でつぶやくつもりが思わず出てしまった百合愛ゆりあ。まるで幻でも見るかのように見開いたそのガラス細工の瞳から頬に伝う雫。




 やがて眉はひそめられ、つらそうに下がる。

 突如呼吸が大きく乱れ、震える声で


「会いたかったんだよっ!! 」


 いついかなる時も優しく穏やかな姿しか見せなかったこの人が、語気荒く吐き捨てた。小指は強く握られ、突っ張る腕から反り返った手首は小刻みに震えている程だった。


 溢れた物は頬から雫となって落ちる。深優人みゆとが靴もはかず土間に降りて抱きしめる。


「俺だって!……どれだけ……」


 もうそれ以上言葉にならなかった。



 肩を震わせ抱きしめ合う二人を前にして、ただ戸惑い、居場所を失くした澄美怜すみれ


 自分がいたたまれず直視も出来なくなり、無言のまま蒼い顔でうつむいた。









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