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第51話 やましいこと考えて無いなら問題ないハズ





「きっと深優人くんも同じ気持ちなんだろうな。うん、今度聞いてみよぅ!」


 しまった!……この人マジ天然だから本当に聞かれかねない……どうしよう……




――― その晩。



「ねえ、お兄ちゃんて普段背中どうやって洗ってる?」


「いや普通に風呂場のアカすりタオルでだけど」


 まだまだ使えそうなアカすりタオルはすでに計画的にゴミ箱に入っていた。


「あーあれだいぶ傷んでたから捨てちゃって、今度買い替えてくるからたまには背中流してあげようか」


「いえ、遠慮します。普通の手拭いで洗うから。(何この不穏な空気……)」


「そ、そう? 遠慮しなくても……」


 ……いや流石に俺を甘やかし過ぎだろ。今どきのラノベじゃあるまいし。まぁ萌えるけど。

 全く何でこんなに良い妹なんだ?……変態だけど。



 キッチンでは皿洗いを手伝う蘭が猫のように耳だけはしっかり姉へと向けて会話をチェックしていた。


 ……でも確か日中にお姉ちゃんストーカーしてたら垢すりタオルをもって挙動不審だった……お姉ちゃん……まさか……




 そう、兄も末っ子も澄美怜すみれをナメていた。幼い頃からその特異な症状ゆえ、腫れ物に触れるように過保護にされたせいでその精神年齢は低く、その依存心は羞恥心を遥かに超えるものだと言うことを。



  *



 そんなやり取りも忘れた食後のひと時。


「ふあーっ……」


 チャプン……深優人は湯舟に浸かって寛いでいると、何やら服を脱ぐ布ずれの音と人の気配が。


 ……あれ? 入ってる事に気付いてないのかな。ここは気付かせてあげないと……


「ゴホン」と咳払いと共に 、チャパ、ザパッ……パシャン。と湯船を波立たせた。明らかに気付く程だ。

 だがそれは無視され、脱衣の音は続きドアが開き、


「カチャ……」


  とタオル1枚で前を隠して入ってきた。


「なっ!……ちょっ……」


「お、兄ちゃん、やっぱ流してあげる」

「ちょっ、ダ、ダメだろ!! 」


 慌てて顔を背けて手を突き出し制止のジェスチャー。


「たまには、ね?」

「ね? じゃなくて! いや、いいって!」

「じゃ、今日だけ!」


 湯船の中で縮こまり、「無理!」とにべもなくキレる深優人みゆと。不満顔になり食い下がる澄美怜すみれ


「何で? だってたった3年前までは一緒だったでしょ!」

「無理なものは無理!」

「今日だけどうしても、って言っても?」


 怒り気味に「そう!」と威嚇する深優人みゆと

 だが逆ギレし始める澄美怜。



「やましいこと考えて無いなら問題ないハズっ、理由は? 」


「そんなの! 自分の……見て見ろよ」


 真下に目をやる。 ――WOW!

 思った以上にたわわだ。


「じゃ、じゃあバスタオル巻くから! ね、最後だから!」

「でもダメっ。も―っ! 今すぐ出てってくれっっ!! (あっ言い方キツかった?)」


―――ブチッ


 ……言い方、考えるって言ってくれたのに~っ!


「兄さん……いくら何でもその言い方……これが最後って頼んでるのにーっ……」


 ヤバ、これは3段活用、最上段『兄さん』!

 平常時にこれが出るのはマズイ! 2段活用の口聞かずより上の……嫌がらせ攻撃が来る!


 澄美怜は急に能面となり、『お兄様がお望みならフロでも駆けつけま…』


「そのセリフやめて!」


「フンッ! 『お兄・大しゅき手記人形サ―ビス…』」


『わわわ』


「スミレ・トワゾ…」


「わっ、分かった、分かったよ、もう……大しゅき言うな、次にV.E.G. 観たとき感動出来なくなるだろ!」


「だって……お兄がいけない……」


「わかったって……はぁーっ……じゃあ、ホラ、反対向いてて」


 浴槽から上がりながらハンドタオルで隠し、背中あわせになる。


「せ―ので右まわりだ。せーの、(テケテケと回り)……よし、いいぞ」


 ミラ―を前にバスチェアに座る。妹が一応ちゃんとバスタオルを巻いているのがミラー越しに分かり、一安心する兄。



 ……はぅぁ~、お兄ちゃんの生背中だ~



 数年ぶりのそれにドキドキしながらボディーソ―プをこれでもかと大量投下。真近で触れるそれは特に近年鍛えられ、ぐんと広くそして逞しくなっている。

 兄の部屋のダンベルは可変タイプと言って9~40㎏に調節出来るものだ。

 それでよくトレーニングしている成果だ。その筋トレ時の呻き声に何か色っぽい想像をしてしまうのは秘密だ。


 ともあれ大量の泡にまみれさせて、どさくさ紛れに愛しく撫でまわして悦に入ってしまう。


 フフフ……今、お兄ちゃんとこんな事出来てるのって私だけだよね、百合愛ゆりあさん!


 訳の分からぬ優越感を抱きつつ、さりげなく背中から脇、そして密かにフェチ対象である6パックの腹筋へ伸ばした手を無言で叩き払われ、大人しく元の位置へ。


(いけず……)


 うやうやしく時間をかけて丁寧に洗い、流し終わると既成事実の達成感に浸れた澄美怜すみれ


「ありがと、スミレ。まあでも、なんか嬉しいもんだな」

「でしょでしょ! じゃあこれからも……」


「次はもうだめ」

「う―……分かった……」


「それと、俺の大事な『V.E.G』をイジらないで」


「それは……お兄ちゃんの態度次第! 私が傷つく言い方はもうしないって約束してくれた……」


 ……ってそれ、別の事でしょ―が。まぁメンド―だからそうしとくか……


「うん、俺もちょっと……言い方考えるから」

「なら……わかった」


 ……全く……ま、でも早く切り上げよう。


「じゃあ、そっちに行くから。また右回りで」


 テケテケと背中合わせで180°回りドアヘと向いて行く兄。入れ替わる姿が何とも滑稽だ。


「じゃ、お先に。ごゆっくり」

「あ、お兄ちゃん、私の背中は?」


「当サービスに含まれておりません」


 ……ですよネー。


 でもま、これで百合愛お姉ちゃんに聞かれても大丈夫だな。テヘ。



 洗面脱衣室へと兄が逃げおおせたと同時に廊下への扉の隙間は閉じられた。


 イソイソと廊下を去って行くおさげの少女。


 ……全くもうお姉ちゃんたらどこ迄ヘンタイなんだ。これからは間違いが起こらないようにもっともっとキビシく監視しちゃうんだからね!


 あ、そうだ! 今度何か言うこと聞いて欲しい時の弱味としてメモっとこ。


 スマホのノートアプリを立ち上げた蘭。そうして姉ストーキングメモに新たな一ページが加えられたのだった。







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