―――その頃。
『スミレ、俺、ずっと隠してきた事がある』
『お兄ちゃん、急にどうしたの?』
『スミレのこと、好きなんだ!』
『待って! でも私達兄妹だよ』
『だけどもう自分に嘘をつけないんだ……一度でいい。キスしたい』
壁ドンッ
『……ダメだよ、そしたら私…』
『一度だけでも!』
『ダメ! 兄さんお願い……このままで』
『一度だけ!』
アゴクイ、
『イヤッ! ――― “ 妹のままでいさせて!”』
『もうムリ!』
『あっダメ! ンッ!』
……
『スミレ。ずっと……こうしたかった……
ゴメン……ありがとう』
『……そんな……私だってずっとガマンしてたのに……こんな風になるなら妹になんか生まれたくなかった!……もうこの気持ち止められないよ。どうするつもり?』
『……世間の誰を敵に回そうとも、それでもずっと好きでいる。キミの為に生きる!』
『……
……そして幸せになる―――
―――〈fin〉
『……』 シ――――ン……
はぁ――っ…… ああ虚しい。
こんな妄想、中学生までは何通りでも作れたし浸れたのに……現実とほぼ逆設定だからかな……でも私だって妄想の時ぐらい求められたいし……
チョイおこ顔で不満げにその愛らしい頬をプィッと膨らませる。
……以前だったら私の遊び相手をしてくれてた休日のこの時間、お兄ちゃんは居ない。
はぁ……好きだよ、お兄ちゃん……。お兄ちゃん、好きです。好きなの、深優人みゆとさん……深優人! 好きだよ!……深優人くん……兄さん……お兄、しゅき。
……好き、好き、好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き―――――――――――――――――っっ!!……
ふぅ……あと何千回か想えばこの気持ち、届くかな……な~んて。ふふ。
絶対に届きっこない。
だって今まで何万回とそう呼んだのに届かなかったし。でも持て余した時間はこんな事に使ってしまう……ううう……。
お兄にいなんか、もうこうしてやる! と枕をハムッ、ハムッ、ハムッ、ハムッ、とあま噛みの嵐。
そしてバフッと顔を埋めた。
……確かにお兄ちゃんとの遠ざけ合いは解決したけど、『寸止め妹』状態の振り出しに戻されて、そのくせ恋愛感情だけは日々順調に育ち続けてしまってる。
薊さんの時もそうだったけどきっと今回も焦る対象があるせいなんだろうな……
―――その後の澄美怜は最悪だった。
帰って来た兄と廊下で出くわす。すれ違い様につい兄の匂いをかいでしまうのはもう無意識レベルなのだが、人一倍嗅覚の鋭い
いつもの堂々巡りが始まり、早々に部屋へ逃げ込んで頭を抱えた。
う~、兄に恋してる妹なんて、結局ここでジ・エンドって事なんだよね。でもだからって好きな気持ちを簡単に止めるなんて出来ないよ……
現在、
恒例の悪足掻きが始まる。
「そもそも恋愛やら結婚なんて無ければ、この妹というポジションは最高にして至高な筈なんだよね……」
……そうだよ! うちみたいにシスコンな兄ならずっと仲良くしてられるハズだし近くに居られる。もしちょっとくらい仲違いしたところでその縁は一生切れてしまう事も無いし!!
そう、妹・最強っ!!
「もう結婚なんて古い! そんなの
シ――――――ン…………………………
うぐっ……
くぅ~っ……結局自分が一番恋したいクセしてその対象にして貰えなくなった途端、オワコンだって事にしてつい逃げ場を探してしまう……
いや逃げ場なんかじゃない! だってこんなに結婚が急減してる世の中、きっと理由がある……かも……有って下さい……
結局いつもの悪癖・ネット検索で逃げ口上を漁り始めてしまう。無駄にハイスペックな愛用のノートPCをマウスも使わずこれまた見事なショートカットキー操作だけで恐ろしく流麗に操る。
全くもって見事なヲタクそのものであるが自覚はない。 何とも研ぎ澄まされたデジタルスキルだ。
カチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャ……パンッッ
そんなオワコンを叫ぶ巷の声は―――――
○嫁とか彼女とかはムダな必要経費
○結婚は別れた時に男に不利
○つき合うと男の負担大
○結婚後も尻にしかれる
「こんなの真実が通じ合うあの二人が耳貸すような話じゃない! こうじゃなくてお兄ちゃんがずっと恋人を求めない人生へと誘導出来ないかなぁ? 」
こうしてNet漁りの迷走は深みへとはまって行く。