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第56話 不可能性としての恋愛





 結局いつもの悪癖・ネット検索で逃げ口上を漁り始めてしまい、それでも大した逃げ道がなく追い詰められてゆく澄美怜。



 ……もし独身を選べばずっと一緒にいられるし、シスコンなら大事にもしてくれる。私の望みはお兄ちゃんの心の中を独占したい。いつも私の事を考えていて欲しい


「ん? オカシイ……」


 ……別に恋人でもないのに結構いつも私のこと考えてくれているかも。まあ百合愛ゆりあさんはもう別格として……


 う~ん、じゃあ何が不満? やっぱり抱きしめ合ったり、キスしたりデートとか旅行とか? イヤ違う!


―――妹はいずれ恋人や結婚相手の前に没っして行く。お兄ちゃんに見放されたら私は消えてしまう。


 ……待てよ、てことは今後ずっと一緒に居られれば別に妹だって不満はない。……って、そんな妹なんてあるわけないか。



 こうして煮詰まった思考回路は、例の如くすがるような検索に溺れて行くことになるのであった。




「あーもうなんだかな―、……いや、こうなったらもっと掘り下げてですねー…… 」


 カチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャ、



 ッパシィィィィッッ―――― 。



 神技の如き目にも留まらぬキー操作。enterキーを華麗に弾じき終わると、ピアニストの如くしなやかに跳ねそよいだ美しい指が頬まで舞い上がる。


 そのかるた取りの如きキレに加えバレリーナばりの優雅な手捌きは見るものがいれば最高に絵になるが、単なるボッチでここまでヲタクだと無駄に可愛い女子の無駄に流麗なだけの動作である。


『ン?!』


『恋愛より幸福度が高い現代人の生き方と現代式恋愛論』


 思わず身を乗り出し、ムム、これは必見! と、目を皿にしてモニターの角度を微調整する。



◎ 近年では独身の方が友人とコミュニケーションが多く幸福度も高い。既婚者のほうが孤独なケースも意外なほど多い



――――つまり思うように行かない恋人や妻が居る方が寂しさを感じるって事か。う~ん、でも百合愛ゆりあさんがお兄ちゃんを寂しくさせる所なんか全く想像できない!



◎ 恋愛のせいで友だちとの付き合いが減ってしまい、逆に対人コミュニケーションの量が減ってしまう傾向


――――う―ん、お兄ちゃんはそれなりに色んな付き合い大事にしてるからな……それに付きまとって対人コミュ削いでる張本人は百合愛さんより私の様な気もする? ってか確実にそうだ。



◎ オタクの栄える理由、彼らは、ただ恋愛から退却しているだけでなく、むしろピュアな情熱を注ぐという恋愛本来の目標に於いて、恋愛不可能な二次元だったり三次元のアイドルにこそ燃えるのだ。つまり現代における「不可能性としての恋愛」の果敢なチャレンジャーなのである。


―――それって私が妹であるがぎり既に恋愛不可能性そのものなんですけど。不可能なものにピュアに一途に想い続けてるだけなんてやだよー!




◎ 結婚や恋愛の意義が薄れた現代では、恋愛のパートナー作りよりも、普通に周囲と良い人間関係を築く方が幸せになれる


―――そうそうこれだよ!……と言いながら結局その恋愛パートナーになりたいんだよね。だって真のパートナーならずっと一緒!


 ……って、ああ恋愛をオワコン化させたい張本人が真のパートナーになろうとしてるから振り出しに戻っちゃう。あーも―、どーしよ―!


 うああ……全滅だぁ……


 やっぱり妹ってのは恋愛における不可能性そのものなんだね。 絶対的ムリゲーだね。


 はぁ……、お兄ちゃん自身が恋愛に不可能性を感じていれば傷のなめ合いだって出来るのに、あの天使の再臨でその傷一瞬で塞がって私、今はお払い箱……


 ま、運命の人が復活したら当然だよね。はぁ……


 八方塞がりか。こんな私に親身に相談乗ってくれる人もいないし。そんな優しい人、百合愛ゆりあさん位だ……って敵に聞いてどうする。


 ん! 明日また百合愛さんと登校……やっぱ本人はこう言う事、どう考えるかな。




  **




――― 翌朝、いつもの家の角。



 待ち合わせ場所に先に立っていたその人の横顔はスン、と澄ましたまるで人形のよう。



 ……ああ、今日も見とれてしまう凛とした美しさ。私の中の絶対的女神様。その上、兄と引けを取らないほど私を大事にしてくれてた人。もう私が付き合いたいくらいだ。


 ……お兄ちゃんにはおフロの時みたいにちょっと反抗する事も有るけど、もしこの人に命令される様な事でもあればきっと抗えない。


 ま、そんな事しない人だけど。だって……




 その人は、『おはよう! フフッ』 と爽やかな笑顔で近づいて来た。


 やっぱり昔から何故か私にだけはベタ甘。それがまた萌えてしまうんだよなー、お姉ちゃん、どうしてですか?


「おはよう、百合愛ゆりあお姉ちゃん」


 ……お兄ちゃんと同格以上のこの人を蹴落とすなんて、そっちがムリゲーだよ


澄美怜すみれちゃん、今日もすぅっっっごく可愛いねっ。ハグしていい?」


 ……え? 心の準備が……ちょ、待っ……


 なすがままハグ。天国的な香気にも包まれ、長く美しい髪がサラサラと頬を撫でた。


 はうぁ~、今胸が張り裂けた……もうホントムリ……遂に蘭ちゃんが泣いた理由を完全理解した。私も泣こうかな……あ?!


 プツ―ン……


 もうどうなっても知りません!





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