「―――前に恋心は持つなって言われたけど、でも兄妹として愛してるって言ってくれたよね? 守ってくれるって。……じゃ、例えばもし私が何か事情が出来て駆け落ちしたいって言ったらどうする?」
「かけ……?! 」
何を言い出すやらと一瞬驚きの色を隠せない
冷静に勘繰りながら慎重に応えた。
「――でも……ま、それなりの理由があるなら覚悟する」
「それなりの……って?」
「そうまでしてでも守らなければならない事態が生じたらって事」
「ふーん、そうなんだ……。 ありがと」
少し嬉しかった。妹である自分には1000%不可能だと思っていた『恋愛成就=約束の継続』は、全く別の形を取れば継続の可能性だって有り得る、という事に何か救われる思いがした。
*
その後、何とか自分を鼓舞する為に薊あざみの励まし=『シェアー』を記憶から引っ張り出して来る
『共有出来なかったとしてもそれぞれのプライベートタイムで自分の思うように付き合っていけば良い』
……そう、妹が羨ましいって
**
そうして何とかやり過ごしたが、
何故なら兄と
否、驚くべき事に百合愛達は今までのどのお出掛けも『一緒に』と誘ってくれていた。
しかし心の内をひた隠しにして『用事がある』と言って、それらを全て断った澄美怜。
付いていけば自分が惨めに成るだけだと分かり切っていたから。
特にダメージを与えたのは、二人がクラシックコンサートへ行く話が出た時。
これも三人で行こうと誘われたが体よく断った
それは感情を隠すときのクセだと知っていた。
それでもクラシックコンサートへなぜ行くのか。
事の成り行きはこうだ。
『澄美怜の心の病が治ってくれるのが夢……』
靜かに首を横に振り『深優人君自身の』と牽制する
そう言われても見守りがあったが故に将来の夢など考えた事もなく―――。
『小さい目先の事とかでもいい?』
『うん。それを聞きたい』
『じゃあ……実はあの頃、百合愛ちゃんと好きな曲のクラシックコンサートとかに行けたらって思ってたから……今思いつくのはそのくらいかな』
それを耳にした途端、突如震えながらポロポロと涙が溢れ出す。
『
何かの奇跡が起きて、そして劇的に再会し、親密になってちょっと大人の正装の格好で夜のクラシックコンサートに行く―――
「そんな姿をね……はぅ……何度も、何度も、想像してた。……ズッ……一度で良いから……そうした姿で
そう言ってボロ泣きし、暫く言葉に成らなくなった。それこそあっという間にハンカチがびしょ濡れに。
だがそのような経緯までは
―――こうして澄美怜はいよいよ気持ちが制御出来なくなっていった。
◆◇◆
―――ああ、私の恋なんて完全に周回遅れだ……
澄美怜は薄暗い部屋でいつも以上に悶々とし始めた。 澄美怜から見ればこうだ。
この早熟な二人の趣味はバッチリ一致していて入り込む隙もない。澄美怜の為にアニメ等を一緒に見る時間も減り、今回もコンサートの予習で曲を聞き込む深優人みゆと。
否、深優人からすれば普段にも増してケアしていた。アニメの時間も念のため増やした程だ。
だが余りに劣等感に
……どうせ私のなんて幼稚な趣味ばっかで、元々無理して付き合っててくれてたんだって分かってる。
分かってるよっ! そんなの!!
……それに比べて……
百合愛さんとじゃ、本当に勝ち目がない……
東京の会場で19時開演、21時終了と言ってた。場合によっては食べてから帰ると。
以前に薊の昼のデートに嫉妬した事があった。だが、今は違う。より大人に近づいた二人の夜のデートに嫉妬する。
それだけなのにまるで比較にならない不安感。
―――私は必死に今まで愛した。あの日の約束も大切にした……
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―――お兄ちゃん、私、生きるから……
どんなに苦しくても……生きるから……
絶対に離さないでね……
絶対に……絶対に……離さないでね……
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