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第65話 絶対にそれを見せたくなくて親にまでずっと隠してた





 体調も最悪となり、何度も倒れた。完全に限界だと思った。


―――しかし救いの手が。それが墓地での克己かつみとの再会だった。


 そうして克己の提言で一緒に暮らす様になり、どうにか最悪の事態を免れた。気が利く克己の要所での補助、そして心救われた事で心身の回復を得て持ち直したゆかり。

 澄美怜すみれの不具合だけが懸念され続けた。



 そんな中、普段は会社で忙しい克己へのせめてもの恩返しとして深優人みゆとの面倒も『ついでだから』と申し出た事により二人を隣合わせで寝かす機会が度々生じた。


 だがそうすると何故か澄美怜すみれは不思議に落ち着いて泣き止んだのだ。


『……こんな事って……』


 最初はただの偶然かと思っていたものの、母のあやしではどうにもならない時でも深優人みゆとを隣にすると自然と止むのを何度も確かめ、そして確信をした。


 理由は未だに分からないが確かに有効であり、不思議な何かでつながっているのかも知れないと思わされた。


――――この世に神も仏もいる、そう思えた。


 澄美怜すみれは幼稚園、小学生、と度々何か氷の様な冷たい物に体の自由を奪われる夢に襲われる、と主張し、パニックを起こした。


 そんな時、とにかく兄を直ぐに連れて来て隣に居させると比較的速やかに落ち着きを取り戻した。

 それこそ引き付けを起こして呼吸困難になる程の時でさえ、どうにか落ち着いてくれた。


「だからあなたはもの凄くお兄ちゃんに助けられてるのよ」


―――根っ子の所では誰も悪くないのにこんなにも悲しくて苦しい事を乗り越えて来なければいけなかったなんて……

 それでもこうして守り抜いてくれて、私は今ここに居る。


 お父さん、お母さん……


 そんな事もあり、父は深優人みゆとがまだ小さな頃から『君はその名の通り深く優しい人になりなさい。特に兄は妹のために出来ることは力の限りしてあげるんだよ』と度々言い聞かせた。


 その後、小学生になると兄はいつも妹を見守り続けた。そう、澄美怜すみれに異変を感じて現れていたのではなく、常に見守っていたからこそイザと言う時に寄り添えたのだ。

 でもそれは不思議な子、深優人みゆとにとってあたかも当たり前であるかの様に自分の役目として既に自覚していた。


 ……私が恋愛感情以前にお兄ちゃんを激しく求める理由はやっぱりそこにあったんだ!



 そして次の母の一言には本当に心臓が止まりそうになった。



「―――あなたは今でも調子が悪いと兄さんの部屋で一緒に寝てるでしょ」


 !!……っっっ! うそっ?! ……バレてたっ!!


 目を白黒させて言葉に詰まる澄美怜すみれ


「でもそれはまだ不安定なあなたには必要と思うから何も言わず見守ってきた。普通だったら年頃の女の子にそんな事を親が許す訳ないでしょ。でも深優人みゆとくんの事は母さんも信じてるの」


 幼少期から子供らしくなく虚ろな目をしていた澄美怜すみれ。不安症やパニック、激しい引き付けになっては深優人みゆとの力でどうにか保っていた。

 そもそもまだ分別もつかぬ内から自傷気味な行動、道路への飛び出し。湯船に潜り息を止め続けたり、バースデーケーキの火を体に付けようともした。幸い寸前で気付いて阻止した。


 あまりに心配になって娘を散々連れ回し脳神経外科や診療内科などで診てもらった。しかし病院ではどこに相談すれども原因は不明、明確な対処法は無いと言われ、取りあえず出された薬漬けで体調も著しく崩した。



 そして3年生であの身投げを実行。それは遂にハッキリ見せた自覚的・確信的な自殺行動。



 その事を深優人みゆとから聞かされ、自分が見守るから薬を止めて、と談判された。様子を窺いながらもそうしてみると安定し出した澄美怜すみれ


 そしてその辺りから兄の事だけを見て生きるようになっていた。するとあの死んだような目は無くなっていた。



 だからいつか自然に良くなるまでは薬は減らしていき、少くとも悪化しないよう、お兄ちゃんの癒やしパワーを借りるしかないと思った、と言う。


「ただ……あの子みゆとくんには申しわけないと思ってる。まだ小さい頃、あなたを介抱した後で部屋でグッタリしてるところをお父さんが見付けて……聞き出すと、どうやらあなたを癒す度に物凄く消耗が激しくて……でも絶対にそれを見せたくなくて親にまでずっと隠してたの……きっとそれは今でも……」



―――― !!



「だって、その所為で学校で倒れた時も入院させようとしたら、あなたを見守れなくなるって言って狂ったように激しく拒絶されて……まるで命を削ってでも……ってくらいの余りの覚悟に圧倒されて……引かざるを得なかった……」


 ……お……お兄……ちゃん……


 もう勝手に涙がポロポロ溢れて来ていた。




 そうして娘が引き付けを起こす様な事は減り、いずれ全快を期待出来るまでに―――父も母もそう思っていたらしい。


 最近起こしたヤツは澄美怜すみれの単なる恋愛暴走自爆みたいなものだ。


 澄美怜すみれは自分の病的な不安や悪夢、そしてパニック障害や発作の根元が分かった気がした。



「お父さん、お母さん、話してくれて有り難う……」


 一通り話を聞き終え、親への感謝を伝え、逆に励まされ、自分は大きな愛に包まれていると実感した。あまりに胸が熱くてたまらなかった。



『ともかく今日はすごい1日だった。色んな謎が解けた……』


 氷の悪夢……そして黒い怨念の感情……


 それらは消えた訳ではないにしても、何かに取り憑かれたとか、元々の狂人だったという事じゃなかった事が分かっただけでも澄美怜すみれには喜ばしいことだった。


『それにしても……こんなに愛されてたんだ……』


 澄美怜すみれはとても嬉しかった。興奮が治まらず挙動がどうにも覚束ない。ただ、非常に衝撃的だったがそのショックは何時もとは違う。

 自分の未来はきっと良い方へ向かっている、そう思えたから。


『きっとあの告白で自爆してなければ体調も大きく崩れなかっただろうし。それよりも……』



 兄との関係だ、と我にかえる。



 深優人みゆとは完全に血の繋がりの無い遺伝的に他人だと判ってしまった。因みに親の話では、この事は兄も未だ知らず、成人するまで伏せておこうか迷っていたらしい。


 ……ああ! じゃあそれ迄は妹のフリをしてないといけないの? それとも口止めされなかった事を考えると私から伝えても……いや、むしろ伝えた方が良いのでは? それに……。


『―――堂々と恋人に再チャレンジ』

 只それはいずれの時に考える事にした。



 ……あれ、そう言えば遺伝的に近くないならお兄ちゃんの匂い好きは別に変態でも何でも無かったんだ、納得! ……


 ん?……てコトは血の繋がりがある蘭ちゃんは?……ヘ……ン……タ……


 ってまあ、そそのかしたのは私なんだけど……



 ……ゴメン! 蘭ちゃん!!





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