「他人、他人って二度と言うなっっっっ!!」
―――本気で怒鳴ったの……初めて見た……
「確かに義理の妹かもしれない。でも俺達はその前に家族だ。俺たちを命懸けで守って来てくれた父さん、母さんの子。その前では義理なんか関係ない。今までもこれからもずっと大事な家族なんだよ!……だから約束を無かった事にするつもりなんてないっ!」
「……兄さん……でも……そうだとしても私ばかり兄さんを縛り続けるなんて心苦し…」
「俺だって本当はっ!……そっちが思ってるより遥かにスミレのこと……す……ミレの事が……す……」
首を横に強く振り、うつむく
「兄さん?! 」
「だから恋心を向けて欲しくなかったんだ……俺がこうなる事……分かってたから……」
!! ――――そこまで私の事を……
「うう……ふあああぁぁ…… ズズッ…… うううぁぁぁ…… にい……さん……あ……ありが……とう……」
(私の心の病が消えない内は恋愛感情を口にしないと誓ってた……だから……今はお互いこれが精一杯……)
泣きながら
やがて二人、涙しながらながら抱擁し続けた。
「……苦しまないで。私への誓いを大事にしてくれて……ありがとう」
「……俺は……妹だから言わなかったんじゃない……『好き』より『愛』を優先しただけ……言ったはずだよ」
「そう……だったね……。ズッ……でも兄さんはずっと前から百合愛さんを恋人として受け入れてた。ちゃんと物事の順序を守る兄さんが今さら裏切る事が出来る人じゃないって事も誰より分かってる」
「スミレ……ゴメン……でも……それでも、これからも見守る……だってそれには…」
「無理しないで。……私、ちゃんと告白出来たから……今はそれで満足。……ねえ、今度は……ズッ……爪痕ぐらい残せたかな……」
「フッ……もう、ボロボロだよ」
それを耳にした澄美怜の泣き顔に満たされた想いが滲んだ。
――――そして決断した。
「ごめんなさい……私、また消えようと……勝手に約束破るところだった」
「そんなのダメって言ったよ」
「うん。……だから明日からまた妹として生きて行く事になる。
そうなったら……もしかしたら恋人志願最期のお願いになるかも知れないから……一つ叶えて欲しい。
―――キスして欲しい」
「……悲しいものになっても?」
「構わない。その価値はある。少なくとも
「……
静かに瞳を閉じる
「……愛してる」
そうしてキスを交わした。この日の愛しい記憶全てを、涙混じりの唇に刻んだ―――
恋はやはり成就しなかった。しかし最愛の人と同格だと確かめることが出来、兄妹でない立場からの告白も叶った。
パートナーとして選ばれなかったのは単なる時の運だと知れて、兄の向けてくれている真の想いを胸に『まだ生きてていいんだ』と思うことにした
そしてこの想いを再び妹というオブラートに包んでの再出発を決意した。
―――そう、別に妹だから駄目だったんじゃない。世間的に引け目を感じてただけ。さっきの一言でやっと分かった。
だって兄さんは駆け落ちの話の時もちゃんと聞いてくれた。それに病いの心配が無ければ恋も考えられると言ってくれてた。
なのに事ある毎に自分が妹であるせいにしようとしてた。本当に向き合うべきは病の方だったんだ……。
実妹じゃなくなってから気付くなんて―――
そして何時かこの人の傍に居られなく成ったとき、やはり消えてくしか無いのだと思う。
でもそれは今じゃない。
二人の結婚だってまだ先のはず。それまでは未だあの力で支えて貰える。そしてもしそうしている内にこの病気が治せるなら、その時こそこの兄から離れてあげられる……。
だから、こんなに思って貰えてた事、これ迄にしてくれてた事に感謝して、少しでも恩返し……しなきゃだね。
**
後日、これからどう接していくかだとか、どう呼びあうのか、干渉してもいい範囲等を話して、二人の関係を仕切り直した。その中でもやはり気持ちがゼロになる訳ではないからと、どうにか澄美怜がもぎ取ったのは、
・好きでいることは捨てなくてもよい。
・お互い想いを口にするのは構わない (強引にもぎ取った)
・この関係が止むなき理由で見直す必要ある時は、この宣言はゼロから見直す。
と言うものだった。
「じゃ、これからもヨロシクね、お兄ちゃん。大好きだよ」
この上なく優しげな顔で困ったように苦笑する
『別に届かないなら、もう気持ちを我慢なんかしてあげない』
限りなく恋人に近い義妹―――
新しい関係が始まる。