第三章◆―― 【急】 全てを懸けて
<本文>
義妹生活開始。
そうした関係開始から数日後、夜も更けて11時過ぎに
「お兄ちゃん、未使用のノート持ってない?」
「どーぞ、開けていいよ。……ん、どうした?」
「明日提出の課題。ノ―トのペ―ジ切らしちゃって」
ちょっと探す、と言ってあちこち漁ったが……う―ん、ないな、と残念顔の
「そっか~、ヤバ。明日絶対提出なんだ。仕方無い、今からコンビニで買ってくる」
「え?! 今? って危ないだろ、買ってきてあげるよ」
「ううん。悪いよ、自分で行く。ついでに選んで買いたい物もあるし」
案ずる
「いや、時間考えろよ、じゃ、ついてってあげるよ」
「え、ありがとう」
これが
考えてみればこれまでこんなシチュエーション等無かった。ちょっとワクワクしながら上着をはおり、親に声をかけてから二人して夜道に出る。
静かな夜の街を歩くと登校時にも通る道なのにまるで印象が違う。大人の恋人が手をつないで歩くのをドラマで見て憧れたのを思い出す。
……そうだ! 私、好きって気持ち、遠慮をしないんだった。こ、ここは手を繋ぐくらい! い、良いよね……恋人繋ぎで……
途中まで普通に手を繋ぐモーション。そこからなし崩しで指を絡めた。
だがそれはすんなりと受け入れられた。思えば子供の頃からよく手を繋いでいたからか。ただ違うのはこの繋ぎ方だ。凄く胸が熱くなった。嬉しくて少し胸が苦しくなる。付き合い始めた恋人が愛しさと、もどかしさ故に感じるあれだ。
ああ、出来るものなら一生この手を離したくない――――
至福の時が緩やかに流れる。
その音はまるでこのデートの特別感を演出してくれている様だ。
空には弓張り月。その遥かな天上の球体は灰色のはずの体なのにまるで自ら発光してるかの如く輝かせて主張している。
兄のお陰で輝いて居られる自分に重ねた。
大きく息を吸い、昼と違う空気に秋の薫りを感じた。そよ風が兄の方から漂うといつもの「スン」癖が発動。微かに感じるこの世でもっとも安心する甘い何かを深く吸い込んだ。
思いがけないイベント。愛おしいひと時が瞬く間に過ぎていき、コンビニに到着した。
「いらっしゃいませ」
夜のコンビニの挨拶は心なしか昼よりも落ち着いた感じに聴こえる。
その時まで運命の歯車が大きく回った音に二人は気付いていなかった。
**
澄美怜がレジに立つのと同時に刃物を持ったフルフェイスのヘルメット男が入口側から駆け寄った。その時
「動くなっ!」
レジ係と
「てめー、動くなっつってんだろ!」
と刃を突きつけようと真近まで急接近。後方からすっ飛んで来た兄が
「うおお―っ」
と叫びながら走り込むその勢いのままヘルメットを掌底で殴打して吹っ飛ばした。普段から鍛えている
しかしその時には入口と逆側に最初から潜んでいた仲間の援護の特攻に気付かなかった。
深優人の警戒する反対側からかっとんできた男。手中の刃に気付いた
『―――この人だけは命に代えても守る!―――』
横から突っこんで身を呈し、凶器の軌道上から兄を突飛ばした。刃物男と
ズバッッ――――
勢いのままにその刃は
ドガガッッ――――
『だあああ―――――っ!! 』
と逆上、その刃物男を全力の拳で殴り撃沈、即座に店員へ「救急車―――っ」と叫ぶ。
2人の犯人はのびたまま動かない。
頭と腰をカウンターへと激しくぶつけた
「大丈夫かぁっ、
ああ! 守るために来た俺が、何で! 何で! 何で! 何で!……
半ば発狂しそうになる
やがて警察と救急隊が早々に現れて事態を収拾していった。