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第71話 この人だけは命に代えても守る!




第三章◆―― 【急】 全てを懸けて






<本文>



 義妹生活開始。


 そうした関係開始から数日後、夜も更けて11時過ぎに澄美怜すみれが兄の部屋のドアををノック。


「お兄ちゃん、未使用のノート持ってない?」


「どーぞ、開けていいよ。……ん、どうした?」


「明日提出の課題。ノ―トのペ―ジ切らしちゃって」


 ちょっと探す、と言ってあちこち漁ったが……う―ん、ないな、と残念顔の深優人みゆと


「そっか~、ヤバ。明日絶対提出なんだ。仕方無い、今からコンビニで買ってくる」


「え?! 今? って危ないだろ、買ってきてあげるよ」


「ううん。悪いよ、自分で行く。ついでに選んで買いたい物もあるし」


 案ずる深優人みゆと。永遠園家からコンビニまでは暗い道もある。


「いや、時間考えろよ、じゃ、ついてってあげるよ」

「え、ありがとう」




 これが澄美怜すみれにとっては思いもよらぬ夜の散歩デ―トになった。

 考えてみればこれまでこんなシチュエーション等無かった。ちょっとワクワクしながら上着をはおり、親に声をかけてから二人して夜道に出る。


 静かな夜の街を歩くと登校時にも通る道なのにまるで印象が違う。大人の恋人が手をつないで歩くのをドラマで見て憧れたのを思い出す。


 ……そうだ! 私、好きって気持ち、遠慮をしないんだった。こ、ここは手を繋ぐくらい! い、良いよね……恋人繋ぎで……


 途中まで普通に手を繋ぐモーション。そこからなし崩しで指を絡めた。

 だがそれはすんなりと受け入れられた。思えば子供の頃からよく手を繋いでいたからか。ただ違うのはこの繋ぎ方だ。凄く胸が熱くなった。嬉しくて少し胸が苦しくなる。付き合い始めた恋人が愛しさと、もどかしさ故に感じるあれだ。


 ああ、出来るものなら一生この手を離したくない――――


 至福の時が緩やかに流れる。澄美怜すみれはわざとゆっくり歩いた。街は静まり返り、昼には聞こえないはずの遠くの電車の音が耳に心地良く響く。


 その音はまるでこのデートの特別感を演出してくれている様だ。


 空には弓張り月。その遥かな天上の球体は灰色のはずの体なのにまるで自ら発光してるかの如く輝かせて主張している。


 兄のお陰で輝いて居られる自分に重ねた。


 大きく息を吸い、昼と違う空気に秋の薫りを感じた。そよ風が兄の方から漂うといつもの「スン」癖が発動。微かに感じるこの世でもっとも安心する甘い何かを深く吸い込んだ。


 思いがけないイベント。愛おしいひと時が瞬く間に過ぎていき、コンビニに到着した。


「いらっしゃいませ」


 夜のコンビニの挨拶は心なしか昼よりも落ち着いた感じに聴こえる。


 澄美怜すみれは目的のコーナーで多少悩んで選り抜いてから、品物を手にレジに向かった。



 その時まで運命の歯車が大きく回った音に二人は気付いていなかった。



  **



 澄美怜がレジに立つのと同時に刃物を持ったフルフェイスのヘルメット男が入口側から駆け寄った。その時深優人みゆとは目的もなく雑誌コーナーをフラリと物色。だが直ぐに事態に気付き、速攻で走り出す。


「動くなっ!」


 レジ係と澄美怜すみれに刃物をかざして男が叫んだ時、驚きの余り澄美怜すみれはビクっと大きく飛び退いてしまった。それが犯人の頭に血をのぼらせ、


「てめー、動くなっつってんだろ!」


 と刃を突きつけようと真近まで急接近。後方からすっ飛んで来た兄が


「うおお―っ」


 と叫びながら走り込むその勢いのままヘルメットを掌底で殴打して吹っ飛ばした。普段から鍛えている深優人みゆとの渾身の一撃をモロに受け、男はレジカウンターの中まで文字通りぶっ飛んでいった。


 深優人みゆとは反撃に備えレジ奥に飛ばされた犯人に構えをとり、立ち上がって来ないかを警戒しつつ、妹を自分の背後の陳列棚の間へと控えさせる。

 しかしその時には入口と逆側に最初から潜んでいた仲間の援護の特攻に気付かなかった。


 深優人の警戒する反対側からかっとんできた男。手中の刃に気付いた澄美怜すみれは「危ないっ!」と叫び



『―――この人だけは命に代えても守る!―――』



 横から突っこんで身を呈し、凶器の軌道上から兄を突飛ばした。刃物男と澄美怜すみれは交錯。


 ズバッッ――――


 勢いのままにその刃は澄美怜すみれの左脇腹を切り裂き、そのまま半身同士が大激突、その衝撃で男は陳列棚に吹っ飛んで行った。

 澄美怜すみれはカウンターヘ血を撒き散らしながら直撃。



 ドガガッッ――――




 深優人みゆとは振り返り様、妹の惨状に正気を失い


『だあああ―――――っ!! 』


 と逆上、その刃物男を全力の拳で殴り撃沈、即座に店員へ「救急車―――っ」と叫ぶ。


 2人の犯人はのびたまま動かない。


 頭と腰をカウンターへと激しくぶつけた澄美怜すみれも微動だにせず、脇から大量の血が散乱し意識も無い。抱きかかえて絶叫。


「大丈夫かぁっ、澄美怜すみれっ、澄美怜―――っ」


 ああ! 守るために来た俺が、何で! 何で! 何で! 何で!……


 半ば発狂しそうになる深優人みゆと。『時間よ巻き戻ってくれ!』――― 無理は解っていても何度もそう心中で唱えずには居られなかった。



 やがて警察と救急隊が早々に現れて事態を収拾していった。













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