結局、治るともこのままともつかぬ状況と、原因が分からない事への不安が残るだけで、月日だけが過ぎていく。
そうした中、
この状況を受け、不随が続いても生活出来る様に車イスの利用訓練も開始された。
だが意外にも
「そう言えば、ひとつお願いがあるのです。かつての私を思い出すために日記等がないか部屋を調べてもらえませんか? 人間関係とか、手掛かりが掴めるかも知れません。
まだしばらく入院生活の様ですし、結構暇なので。あ、でもいつ記憶が戻るか分からないのでプライバシーは守って下さい。それが有っても中身は決して見ないで持って来て下さい」
翌日―――
『これが私なんだ。これがあれば……』
と、おそるおそる覗き見ると。
―――― !? !? !?
慌てて閉じる澄美怜。
「何かの間違い? 妄想小説?」 と気を取り直し再度、
―――兄との足跡 ?!……何このサブタイトル!
ううう…でも私から恋人関係を提案したって深優人さんが言ってたから本当か?
■○月×日
トレーニング中の兄の高純度フェロモンシャツ?……をゲットしてガマン出来ずつい顔をうずめ!……悦に入っている所を廊下で蘭に見られてしまい?
―――な、何これ! 私って変態だったんだ……。
そこで、妹も興味シンシンだったからそそのかして共犯にし、口止めに成功~?!。
―――はあ―っ……もうヤダー、ホント私?……しかもエゲツな―っ。……それに蘭ちゃんも隠れ変態?
■×月○曰
登校中、
『ウソ! 何やってんの私』
「そこで既成事実を作るべく突撃混浴……っ! ……するも拒否られて逆ギレ~~~?!……
どうにか背中だけ流すことを許され、どさくさに紛れて泡まみれにして肩から背中の筋肉を撫で回し……」
パタム、と勢いよく日記を閉じ、天を仰ぐ。
うーん……神さま、この先を読む勇気を下さい 。
ちょっと待って! この日記。ここまで持って来るのに本当に中身を見られてないでしょうね? なんなら私はこのまま別人格で生きて行った方が良いんじゃない?
『そんな日記知りません! ……ポイッ』
堂々と中身をなき事とする自分を想像。だが日記の中身は時折変態ぶりを垣間見せたものの、人間関係の手掛かりは有効に掴めた。
―――そして日記から分かったもう一つの真実。
それは日記の大半を占めていた秘密。今まで誰にも語っていないと言うそれを読み通した
『こ……これは……』
今は皆のために隠し通さねば……と思わされる事だった。
***
診察室にて。
「う一ん……これはもしや、と思ったんだけどね……」
今回の精密検査でも異状が見られず、永遠園家族の前で渋い顔の主治医がカルテボードを見ながら話し始めた。
事件で受けた傷と今回
その診断結果を鑑み小難しい顔でこめかみを押さえながら一つの見解を示してきた。
「自分は若い頃精神科と診療内科を目指していた時期があってね、まあ、色々あってそっちの道より外科が向いてるって思って今があるんだけど、だから両方診れるんだよね。ただここは外科だから飽くまでも診断では無く一つの可能性として、って事で話します。
で、娘さんの症状の原因にそっちの問題が無いのかと調べた訳なんですよ、でね、原因かどうかまでは特定出来ないんだけど、娘さんには少し……分離症、つまり解離性障害と、僅かに統合失調の傾向も見られてね。
いや、だからと言って不随になるなんて余りに希な話だし、断定するつもりも全々無いんだけど、まあ僅かに可能性としてお話だけしとこうかなと……。
要望あればそちらの紹介状も書いてあげられるから、皆さんでどうするか話し合って見て下さい。
今回の結果の通り外科的な原因が掴めない以上、私にやれる事はそれくらいしか残ってないんでね」
**
その後、記憶の回復には進展が無かったが、キズの回復は順調だった為、半身は動かないまま車イスで退院する事に。
また、状況の不確定さを考え二人で話し合った末、もう暫く今までの様な『兄妹』として継続してゆく事になった。