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第47話 最高の友達

「お恥ずかしながら、私は親から勘当されています。今日、バージンロードを一緒に歩いてくれるのは私をずっと支えてくれた友人です」


 私は通常なら父親に頼む役目を真智子に頼んだ。真智子は快く引き受けてくれた。


「本当に、貴方は嘘がないのね。お金を払って取り繕うこともできるのに⋯⋯試すような質問をして御免なさい」

「そんなルリさんだから隼人は心を許したんだよ。隼人にはルリさんが必要だな」

 義祖母の言葉に義祖父が返す。2人とも隼人を心から思っているのが分かる。


「隼人さんを支えられるように精一杯努力していきたいと思います」

 私は今まで隼人を支えてくれただろう2人に頭を下げた。



「隼人は12歳で両親を失って以来、心を閉ざしてしまったの。14歳の時のことがあってからは尚更誰にも心を許さなかった。これからも隼人の前で馬鹿正直でいてあげて。あの子は信じられるものが世界にないと思っているの」


 義祖母の言葉に目頭が熱くなる。14歳の時にも隼人が傷つく何かがあったのだろう。隼人は私にそれを話した事がない。一生彼からその話を聞かなくても構わない。私は彼を愛し大切にし続けるだけ。


「私は全てを隼人さんに捧げるつもりです」

 隼人も全てを私に捧げてくれると言っていた。これからどうなるかは分からないけれど、私は彼に全てを捧げたい。再び傷つけられても構わない。彼も完璧じゃなくて、失敗する。失敗を責める人間にはなりたくない。


 控え室をノックする音がして、隼人が部屋に入ってきた。私と義祖父母を見て訝しげにしている。


「お祖父様とお祖母様に挨拶をしてたの。隼人、今日の私はどお?」


くるりと回った私に隼人が見惚れるのが分かった。


「最高に綺麗で可愛い。言葉では言い尽くせないんだ。もっと、この世で最上の賛辞を送りたいのに⋯⋯とにかく、ルリは最高だ」

「隼人も今日もとても素敵。世界一カッコイイ旦那様を幸せにできるように頑張るね」

 隼人は私を愛おしそうに見つめると思いっきり強く抱きしめた。私は彼の温もりを確認するようにそっと抱きしめ返す。そんな私達を義祖母が微笑ましそうに見ていた。



♢♢♢


 教会の前で閉ざされた扉。私は真智子と腕を組んでいる。


「真智子、今までありがとう。私が今、息をしているのは真智子がいたからだよ」

 今までの出来事を省みると真智子がいなかったら私はとっくに命を絶っていた。彼女と暮らしていた時は夜中に気が狂ったように「死にたい」と暴れた。迷惑を掛けていると分かっているのに、脳がおかしくなっていて身体も心も制御できなかった。誰もが見捨てそうな私を見捨てず大切にしてくれたのが真智子。そして、隼人と暮らし始めて落ち着いたかと思えば、隼人の婚約に私は精神に再び異常をきたした。そんな時に、また手を差し伸べてくれたのは真智子だ。世界にたった1人でも私の味方がいる。彼女の存在が、私にとっては命綱だった。


「ねえ、知ってる? 私がここまで生きて来られたのもルリがいたからなの。ルリの存在にずっと支えられて来たんだよ」

「えっ? どういうこと?」

「変わり者で、幼い頃から両親にさえ煙たがられていた。消えたくなるような毎日。学校に行っても、いつも1人で居場所がなかった。小学校2年の時、ルリが私に朝、話しかけてくれたよね。相変わらず話が止まらなくなって引かれるかと思ったのに、ルリは私の話をもっと聞きたいって言ってくれたの」


 私にはその時の記憶がある。いつも1人でいる槇原真智子と2人きりになった朝の教室。大人しい子だと思ったのに、話し掛けたらお喋りな子。聞いた事ない話をしてくれて、彼女といると楽しいと思った。真智子は私の隣で幼い頃からの夢を叶えていた。一緒に生活している時、彼女がどれだけ熱心に研究に取り組んでいたかを知っている。悩み壁にぶち当たり悔し涙を流すのも見て来た。


「だって、真智子は未来を切り開くような素敵な子だもん。私はあの時から真智子に夢中。一緒にいて楽しくて、温かくて最高の友達! これからも末長く宜しくね」


 私の言葉に真智子の双眸の眦から涙が溢れる。

 私はそれを指先で拭い、彼女と腕を組み真っ赤なバージンロードを一歩一歩踏みしめながら歩いた。


 光が差し込む先には私を苦しめたけれど愛してやまない男がいる。私は真智子に目配せし、彼女と組んでいた腕を解く。


 隼人が「本当に妬けるな」と呟いたのが分かった。

「新郎、真咲隼人。 あなたはここにいる森本瑠璃を病める時も 健やかなる時も富める時も 貧しき時も妻として愛し 敬い 慈しむ事を誓いますか?」


「はい、誓います」

 神父の言葉に隼人が真っ直ぐに私を見ながら答える。


「新婦、モリモトルリ。 あなたはここにいる園田一樹を病める時も 健やかなる時も富める時も 貧しき時も夫として愛し 敬い 慈しむ事を誓いますか?」


「はい、誓います」

 私が誓った言葉に、隼人がイタズラっぽく「とっくに真咲ルリだけどね」と呟いた。


♢♢♢


 私は隼人と結婚式を挙げ、『イケメン社長ついに7年愛の一般人と結婚』と世間では報道された。沢山の人に祝福され、隼人を育ててくれた義祖父母様にもご挨拶できた。皆が私に好意的だったのは、隼人が水面下で動いてくれたからだ。大勢の人の前で緊張したけれど、隣に隼人がいる事が私の心を落ち着かせてくれた。


 結婚式の招待客が錚々たるメンバーだった為か、父親から「親を結婚式に呼ばないなんて」と電話がくる。


 父の声を聞くだけで、殴られた記憶や捨てられた日の思い出が蘇り震え上がる。


「私がどれだけ恥をかいたか。世間体を考えろ。この大馬鹿者が! バージンロードを友人と歩いた? なぜ、両親を結婚式に呼ばなかった。常識もないのかお前は!」

「10年前に縁を切ったはずです」

 私はキッパリと父を拒絶し、電話を切った。これ以上、何も話すことはない。


 私が認めて欲しいと思ってた父は高潔ぶっていても、大富豪と結婚したら擦り寄ってくる俗っぽい人間だったと思うと笑えてきた。学歴や家柄で常に周囲にマウントをとって偉そうにしていた父、森本正義。


 しかし、真咲隼人はそれらにおいて比べるもの失礼なくらい父を上回っている。自分の物差しでしか人を測らない父が情けない。そんな彼に認めて欲しいとこないだまで思ってた私は非常に幼く滑稽だ。父は自分より上だと見做している隼人には何も言えないから、私に電話してきたのだろう。ずっと、着信拒否をして7千円しか持っていないズタボロの娘を捨てた事も忘れてしまったようだ。

 私をブロックしていた百田美香と伏見佳奈からもお祝いの言葉と久しぶりに会おうとメッセージが来た。

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