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第55話 気付けば拗らせ独身男

 小中高と海外で男子校。航空大学校でも男に囲まれて生活した。大手航空会社のTKLに採用されて、初めて女性の多い環境に身を置いた。今まで気が付かなかったが、俺はルックスが抜群だったらしい。毎日のように周囲にいる女性から好意を寄せられた。


 一気に死ぬ程モテた事で戸惑った。周りの女の子たちは皆、俺を見るなり微笑みながら好意を告げてきた。急な環境の変化に浮かれて女遊びをする程、俺は女好きではなかったようだ。憧れていた職業に就けたのだから、仕事に集中したかった。お付き合いは、結婚を考えられるような子と落ち着いてできればと考えていた。


 初めて付き合ったのは訓練中に会った地上職勤務の子。ルックスは小柄で清楚そうな可愛らしい子だった。大して相手を知らないのに多くの好意を寄せられる中、俺はルックスが好みの子を選んだ。付き合っている事が周りに知れると面倒なので、秘密に付き合うことにした。


「園田さんって真実と付き合っているんですか?」

「えっ? なんで?」

俺は、地上職の女の子たちに囲まれて尋問を受けていた。


「SNSに真実が園田さんとお揃いの時計を彼氏から買ってもらったって載せてました」

 俺はため息をついた。人から貰ったプレゼントを晒すのを下品だと感じるのが俺の感覚だ。感覚や感性が異なる相手との付き合いは疲れる。


 真実は承認欲求が強い子なのか、俺から見ればSNS中毒だった。三ツ星レストランのフレンチでも、料理が出る度に写真を撮る。料理人に対してのリスペクトのない彼女には失望した。清楚な子だと思っていたが、箸の持ち方だったり食事のマナーが悪いのも気になる。それを指摘するとモラハラだと責められた。


 一緒にいるのを恥ずかしいと思う時点で彼女への気持ちはなくなっていたのかもしれない。


 見た目が好きで付き合ってしまったが、彼女とは合わなそうだ。結婚の話をしょっちゅう持ち出されるが、彼女との未来が想像できない。


 俺は彼女を呼び出して別れ話を切り出そうと思った。


 ラベンダーの可愛いワンピースを着て、両手で手を振りながら小走りに寄って来る真実。その姿を可愛いと思ったこともあったが、今は幼過ぎる振る舞いに見える。


「どうしたの? なんか、顔怖いよ。もしかして、腕時計載せちゃた事を怒ってる? 別に一樹との関係を自慢したかったんじゃないの。ただ、私の好きなブランドをみんなに知って欲しくてさ。来月、私、誕生日だから」


 会うなり遅刻を謝りもせずペラペラ話してくる彼女に辟易した。


 某ハイブランドの腕時計。夜のお店に勤めてる女じゃあるまいし、一体誰にそんなハイブランドをまたオネダリすると言うのだろう。


「欲しいバッグがあるんだー。限定色だから、取り置きして貰ってるの」

 彼女が甘えるように腕に絡みついてくるのが鬱陶しい。


 買い物に行く度に物をねだる彼女をキャバ嬢みたいで残念に思っていたが、最近では乞食にさえ見える。俺は欲しい物は自分で買うような自立した女性が好きだ。俺は彼女の腕を振り解いた。


「あのさ、俺たち別れよう。俺、真美とは合わないよ」

「なんで? いやだよ。別れない! もしかして、もうすぐ地上勤務の訓練も終わるから今度はCAと付き合おうとか思ってる?」


 真実は本当はCAになりたかったが、身長の規定に達していなくて受験できなかった。そのせいか妙にCAに対抗意識を持っている。事あることに人と自分を比べてマウントを取る彼女の性格が苦手だ。


「思ってないよ。ただ、君とは未来が見えないだけ」

「何そのよく分からない理由! せめてバッグ買ってから別れてよ!」

 真実は別れた後はストーカー化し、周囲に俺との付き合いを言いふらした。俺は当分女性と付き合いをしたくなくなった。


 2人目に付き合った子はCAをしていた美奈子だ。副操縦士として勤務しだすと、一緒に乗務するCAから次々と告白された。よく知らない相手からの告白で誰と交際を始めたら良いのか分からなかった。俺はまた見た目で付き合う相手を選んだ。美奈子は美人で清楚系なルックスが好みだった。俺も30代になり結婚を考え始めていた。しかし、美奈子は喫煙者だった。俺の家は親戚含めてタバコを吸わない。


 駅前のショッピングモールで待ち合わせた時、美奈子からタバコの匂いがした。ふと、見るとガラス張りの喫煙ルームが近くにある。


「美奈子、さっきまでタバコ吸ってた?」

「えっ? なんでそんなこと聞くの?」

 美奈子の目は泳いでいた。CAは肉体労働でストレスが溜まるからか、意外と喫煙率が高い。それでも、彼女と結婚の話が出た時点で、彼女にはタバコをやめて欲しいとは伝えてあった。うちの親戚一同が、タバコの匂いに敏感で受け付けられないからだ。


「どうしてもタバコをやめられないなら、結婚はできないよ」

「はぁ? 何それ! タバコくらいでおかしくない?」


 美奈子は逆ギレし出した。見た目と中身は必ずしも一致しない。美奈子は清楚な見た目をしながらヘビースモーカーだった。タバコを吸わない人間からすれば、これだけ依存してタバコを吸ってしまう人間は信用できない。妊娠しても、子供が横にいてもタバコを吸っている彼女しか想像できなかった。受動喫煙の恐ろしさも考えず、自分の欲望に贖えない彼女は俺からしたら病気だ。


「タバコくらいもやめられない子との未来は考えられない」

 美奈子は俺と別れると、周りに俺との関係を暴露し愚痴を言いまくった。


 俺は自分がモラハラ男で結婚には向いてないのかと思い始めた。割と厳格な家に育っているし、自分は堅物過ぎるという自覚もある。だから、自分の過剰な価値観を相手に押し付けないようには気をつけていた。しかし、俺にとっては最低限の守って欲しいルールもモラハラ扱いだ。


 CAは大量採用のせいか色々な子がいる。飛行機が好きで保安要員としての責任感の強い子もいれば、華やかなイメージにだけに惹かれてきた子など様々だ。実際、CAは社交的な子が多く、スポーツ選手や医者とのつながりがあったりする。インターバルで合コンの話で盛り上がっている彼女たちを見ると失望した。いつも自分たちは選ぶ側だと思っているのかもしれないが、男の側も選んでいる。見た目が小綺麗でも中身がガッカリな子が多過ぎる。


 祖母が日系航空会社のCAをしていたが、その時代のCAは語学堪能で上品なお嬢様ばかりだったらしい。一体そんな素敵な女性はどこにいるのかと首を傾げたくなる程、玉の輿に憧れるガツガツした子が大多数だ。


 そんな時に出会ったのが、森本瑠璃さんだった。空港の通路ですれ違った時に、爽やかな香りと好みのど真ん中の清楚なルックスで気になっていた女性だ。


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